僕弾頭

作・なかまくら

2008.9.12

飛行機械は翼を広げそのプロペラは唸りをあげる。
座っている僕は上半分の何もない空を見ていた。
雲をはるか下に置き去りにして、どこまでも上ってきた。もはや誰も、何も僕を遮るものはない。
天国に一番近いここに僕らは安らぎを求められるとは思えない。そこは何もない世界だから。
いやでも、それこそが安らぎなのかもしれない。いろんなしがらみを振り切ろうとして、僕らはここに来るのかもしれない。
もう、邪魔などさせない。
僕は、操縦かんを前に倒す。雲を抜けると、そこには高層ビルが立ち並ぶ大都市がそびえていた。
死んでしまったら二度とあの場所にはいけないだろう。
空に消えた仲間達を思う。
撃ち落した数だけ、僕らは重くなっていく。
カバーをはずして、ボタンに指で触れる。その柔らかさに何故か僕は少しだけ安堵した。
押せば、
四機のミサイルが宙に浮かぶ。そしてそれはオフィスビルのいちフロアを跡形もなく吹き飛ばす。
それが原因でビルは倒壊する。倒壊したビルは街に降り注ぎ、
僕はそのしがらみを抜けてはるか上空に舞い上がる。
僕が墜ちるときは、地獄に落ちるときだ。



自動車の運転は苦手だ。飛行機を操縦できるくせに、自動車はどうにもなれない。
信号機や、他の自動車、バイク、自転車・・・・・・人間。
しがらみが多すぎる。
地面にへばりついて、地下を掘って、何を征服した気分だろう。
ミミズだろうか?それとももっとちいさな微生物だろうか?
空は自分を征服するところだ。自分しか信じられない。自分を信用できる。
曲がり角を左に曲がれば、おもちゃの商店が広がっている。
その広い駐車場にぽつりぽつりと止まっている、ハエのような車の一台が目に留まる。
ぐっとアクセルを踏み込み、狙いを定める。
カバーを慎重にはずして、荒い呼吸のまま、それでもこの上なく冷静に、ボタンを押した。
途端に四機のミサイルが飛び出す。
その四機ともが寸分の狂いもなく、嬉々として直撃し、炎上した・・・だろう。
僕は知人を迎えに行く。
線路の下の埃っぽくて、それでいてなんとなくじめじめした場所だった。
そこで知人を後ろの席に乗せて発進する。
運転手さん、そこの玩具屋さんまで。
何故か僕は頷く。頷いてから、空車の表示を切り替える。
不自然だ。後ろの知人じゃない誰かが何かを話している。
ねぇ、ちょっと聞いてるの?
自動車は広い駐車場に飛び込む一匹のハエになる。
炎上した車はもうそこにはなく、代わりに黒い煤を囲むようにカラーコーンが立っていた。
そうそう、先日都築ビルを襲撃した男、刑務所で毒をあおって死んだんだってさ。
お金を受け取って、おつりを返す。領収証がほしいといわれ、その通りにする。
僕は車を降りて、歩き出す。走り出す。
あの爆発でおばあちゃんがひとり、亡くなったんだって。
僕は捕まるだろうか?
地獄に落ちるのだろうか?
空に上ったら
許されるだろうか?









あとがき

なんとなく、自由について。