風になる

作・なかまくら

2011.4.22

我輩には悩みがあった。



その悩みを話すには、まず俺の(小さい頃は俺と名乗っていた)・・・俺の幼少時代の話をしなければならないと思う。



小さい頃の俺達には、神様がいた。神様は近所の神社に住んでいて、全知全能であった。俺達の知らないことを知っていて、俺達の知らない業(わざ)を使った。そんな神様がある日言った。



「いいか、お前達・・・」

実に神様らしい声であった。

「お前達は、これから世界中の人間にいたずらをしていかなければならない」

「・・・えっ」

・・・えっ、と言ったのは、俺ではない。俺の隣りに立っていた風太郎である。『かぜたろう』である。

「お前達は、パンが好きだな。だから、笑いの神パンになるのだ!」

その瞬間、俺にイカヅチが走った。風太郎には突風が吹いたといっていた。

そう、神性は受け継がれていくものなのだ。



それからというもの、俺達は疾風迅雷と怖れられる学校でも札付きの風雲児となった。



神様は髪が生えてなければならない! と野球で丸刈りだった頭に2年ぶりの毛を生やしてみると、天然パーマと化していた。これこそ、天啓! さらに、えいっと指を指すと指した人をちょっぴりアフロ化することができるようになった。そう、これこそが神の力!



かっていたというアフロディーテなる豊穣の神様に思いを馳せ、校長のハゲ頭をもふさふさの豊穣に実らせるのである。そう、そんな俺の名前は轟雷丸! じっちゃんが大真面目につけた轟雷丸なのである!



一方、風太郎はそのひ弱な体質を生かして、周りの人を次々と風邪気味にしていく。彼の息は3割の酸素と3割の二酸化炭素と4割の病原菌で出来ているのだ。



そんな俺達は、それぞれに高校に進学し、かの邪知暴虐なセリニュンテイウスの悪政にも耐え、大学にも無事に進学した。その頃には日頃の筋トレも功を制して、すっかり口からバシバシと紫電を放つことができるようになっていた。そう、我輩は間違いなく神に近づいていた。



しかし我輩には悩みがあった。



明日は、この就活氷河期を神業的に乗越えてもぎ取った大切な辞令を献上される日なのだが、



この天然アフロは何か就業の問題となるだろうか。



我輩とて、伊達に実は神なる身を隠して生きてきたわけではない。それくらいの空気は読める。

相棒に相談を持ちかけようと、風神見習いのアイツに久しぶりに連絡を取ってみる。



するとアイツは相も変わらず風邪の中。

気になる最近の様子を探ってみると、どうやら風邪は順調にパワーアップしているらしい。

最近は就活生を控え室で全滅させて内定をバシバシ取ってるらしい。どうやら世界征服に取り組んでいたらしい。なかなか見上げた根性である。そう伝えると、あいつはこう言ったのである。



「あとは邪なココロがなくなればいいんだけどね!」



このままではアイツは風神どころか、邪神になってしまうではないか!

なんということだ、我輩がいつか、邪神となったアイツを止めなければ!

というわけで、我輩の気持ちは、かまたった!



「アンデスで修行しろ!」と電話越しに紫電を放ち、電話越しに我輩は、

にやりと笑った。







次の日社長の手をバリバリと感電させたことを付け加えておこう。

天然アフロに溜め込んだ静電気を発揮だけである。



自然現象を操れるとは、我輩もまた一歩神に近づいてしまったようである。









あとがき

元気が一番!