宇宙ティー探訪記

作・なかまくら

2014.8.4

「おい、新人。俺は宇宙ティーが飲みたい」

言った男はテキトーな男であった。

「はい。」

返事をした新人は、髪を短く切り揃え、きりりとした眉は意志の強さを感じさせた。



宇宙ティーというのだから、宇宙の無重力空間で作られた茶葉を使ったお茶なのであろう。新人は想像をめぐらし、そのような製品があるかどうか、インターネットで調べた。

しかし、どうやらそのような記述はない。本当に新しい研究はネット上にはなく、お金を出さなければ買えない情報なのだ。

新人はひとつ息をつき、1年後、国立宇宙工学研究所の研究員となっていた。

「なるほど、宇宙でお茶を栽培するというのは、面白い試みだ。今までほかの植物についてはいくつかの実践例があるが、お茶というのは、和の心を感じるな」

新人は礼を言い、3年後、国際宇宙センターにいた。

「おい、新人。グリーンティーはいつ出来るんだよ?」

重力がないため、根と枝がぐちゃぐちゃに絡み合って、丸い塊となった植物を同僚がからかって言った。新人は、ひとつ息をついた。

新人は、筋力を維持するトレーニングを重ね、宇宙へと留まり続けた。5年、10年、15年。人類が宇宙に滞在し続けるために必要なトレーニングが次第に明らかになっていった。

「おい、新人。焼き加減が甘いぞ」

あれから、40年が経っていた。

新人は宇宙で初めてお茶の葉を収穫していた。それを引っ提げ、地球に帰還するためのトレーニングと特殊な食事療法を開発するのにさらに5年を費やした。月の6分の1の重力化でトレーニングを積み、遠心力を利用した仮想重力環境も実用化させた。

今では白髪も混じる髪を短くまとめた新人は、キッチンで火加減を見ていた。

やがて焼きあがった緑色の生地にクリームをふんだんにのせ、くるくると巻いていく。



出来上がったそれを新人は、しばらく眺め、それから、ある男の所へ持っていく。

小さいながら縁側のある一軒家に現在その老人は住んでいた。新人は持参した中華なべで茶の新芽を焦がさないようにしんなりさせ、手のひらで揉む。繰り返し乾燥させていく。その時間を、ふたりはゆっくりと過ごした。

「宇宙ティーと、抹茶ロールです」

かつての新人は、少し、ゆっくりとその言葉を伝えた。

「ずいぶんと長い間、お前のことは忘れていたよ」

老人がそう言うと、新人は「1年足らずでいなくなってしまいましたからね」と言い、笑った。

それからふたりは、宇宙ティーに口をつけて、

「渋いな・・・」

老人は少し顔をしかめる。宇宙ティーはなかなか強烈に渋かった。

「だが、この渋さも今この年にもなればこそ、悪くないと思えるんだよ」

老人は笑顔を見せた。

「おいしかったよ。どれ、抹茶ロール、これも宇宙でとれた茶葉で作ったのか?」

「やはり、お茶にはお菓子がつきものですからね」

「それにしては洋風な・・・洒落たものを作ったじゃないか」

かつての新人は、ケーキナイフで抹茶ロールを丁寧に切り分けていく。

「ふむ、まるで、この渦巻きは銀河みたいだな。お前さんが、宇宙で過ごしてきた日々を詰め込んでいるみたいだ・・・」

「・・・・・・」



新人が、宇宙の起源に迫る発見をするのは、それからしばらく経ってからの事である。







**あとがき**

なんでもないような一言が、誰かを変えているのかも。