永久はフラスコの向こう

作・なかまくら

2011.8.10

現在の設定

檀 七郎・・・・・・・・・博士である。

ワーズワース・・・・・・・ロボット(?)である。

柳田 敏彦・・・・・・・・小説家である。

小中(こなか) ナコ・・・記者である。

此処出 マリ・・・・・・・資産家である。





+1 -A meets human-



舞台上。人間が動き回っていたが、今は人間が止まっている。

時間が動いているかは、ここからは判断できない。





ひとりの男が入ってくる。

止まる。



ワーズワース 1、2、3、4、5、(舞台裏)



明かりがつく。





ナコ     此処出さん、でいいんですよね。

マリ     え? ええ。

ナコ     初めまして、小中(こなか)と申します。

マリ     此処出マリです。そのカメラは?

ナコ     ああ、私、記者なんですよ。はい、チーズ。

マリ     ・・・・・・

ナコ     あ、カメラ苦手ですか?

マリ     ええ、まあ。

ナコ     そうですか、それはすみません。じゃあ、最後の一枚。ぱしゃ。



暗転。



ワーズワース 1、2、3、4、5、(舞台裏から)



明転。



ナコ     マリさんも、やっぱりあれですか?

マリ     あれ?

ナコ     またまた~ とぼけちゃって。今日ここにいるなら、それしかないでしょう。ズバリ、そうでしょう~。

マリ     マルオ君?

ナコ     あ、分かります?? ちょっと古いですけど! 私好きだったんですよ。

マリ     私も欠かさず観てました。特に、高校編が好きでした。

ナコ     あー。あの時はびっくりしましたよね。エンドレスに小学生だと思っていたら、ある時を境に突然時が進みだした。

マリ     そうですね。高校時代に、大人と子どもの間でゆれる様子が好きだったんです。

ナコ     あー、そうなんですかぁ・・・。

マリ     あ、年がばれますね・・・。

ナコ     え、おいくつぐらいなんですか?

マリ     秘密です。

ナコ     えー、いいじゃないですか。

マリ     ごにょごにょ。

ナコ     えーっ! ・・・見えない。

マリ     まあ、今はエステの時代ですから。

ナコ     え、じゃ、じゃあ、やっぱりマリさんほどの人物になると専属のエステしゃんとかがいて、実はそこで恋に落ちて、たきのぼり! なんてことも?

マリ     ん? ま、まあ・・・。たきのぼり?

柳田     マリさん、あまり曖昧な答えばかり出さない方がいい。この人は、こう見えて、結構すっぱ抜いてくるからね。

ナコ     こう見えてってなんですか。しかも、マリさんとか気安く呼んでるし。嫌だったら、いやって言った方がいいですよ、詰め寄ってくる男には。

柳田     かわいいフリしてあの子、わりとやるもんだねって、よく言われただろう。

ナコ     なんでそんなこと分かるんですか!

柳田     歌詞に書いてあるからだよ。

ナコ     顔じゃなくて。

柳田     人の人生なんて、概してそんなものさ。

ナコ     はいはい、柳田さんは詩人だからね、あなただけですよ。はい、チーズ。



暗転



ワーズワース 1、2、3、4、5、(舞台裏)



明転



マリ     ところで、柳田さんって、詩人なんですか?

柳田     まあ、詩人って言うか、一応、文章で食べてます。10年くらい。

マリ     10年!

ナコ     一応ってなんですか。マリさん、テレビ見ないの? 柳田フォークといえば、この前、直木賞の最終候補に残ってテレビに散々出てたじゃない。しかも、天才発明家でもあるのだ~。

柳田     やめてくれよ、天才だなんて。

マリ     え、柳田フォーク? え、でも柳田フォークはもっとダンディーな感じの・・・

柳田     まあ、あれは特殊メイクだから。

ナコ     ああ、分かります。しかもついつい決め顔しちゃうんですよね。でも、最近のはTVとかはすごいらしいですよ。なんでも、人の心までポップアップされちゃうとか。

マリ     ニュースキャスターの副音声がココロの声ですか。

ナコ     そうそう。しかも、聴覚障害の方に配慮して、ふきだしも出てくるんですよ。

柳田     え、でもその辺はポップアップブロックされてるんじゃないの?

ナコ     いまどき、そんなの意味ないですよ。情報として存在していたら、いつか漏れますって。あれもそうだったじゃないですか。

マリ     あれ?

柳田     ああ、3LDKの可能性。

ナコ     ええ。お持ちです?

柳田     いや、俺は・・・。こっちがなくて。

ナコ     えー、あんなに本、売れてらっしゃるのに。

柳田     それでも厳しいんだよ。一冊どう?

ナコ     え、じゃあ、マリさんは持ってますよね。

マリ     え、ええ、まあ。

柳田     あれ? マリさん、ご職業は?

マリ     え、いや・・・。ええ、まあ。

柳田     ご職業ですよ?

ナコ     まあまあ。マリさんにもいろいろあるんですよ。まさかこの歳で経済界に名を連ねる資産家だなんて言ったら、人生を狙われるでしょう?

柳田     え、そうなんですか?

マリ     ・・・え

ナコ     あ、ういや! もしも、の話ですよ! もし、この歳で経済界に名を連ねちゃったりしちゃってですね、もしそれで、資産家なんかだったりしちゃったりしたっちゃらって話ですよ! 何言っちゃってんですか、馬鹿ですね~!! なれそうな顔してないじゃないですか! なんかもういっそ質素が似合いそうな、もうその! 質素美人! みたいな! ・・・あれ、私何言ってんだろ。

マリ     ・・・・・・。

ナコ     ・・・・・・ごめんなさい。

マリ     ・・・覚えておきます。

ナコ     はい。

柳田     ・・・・・・・・あ、この花瓶・・・なかなかの業物だなぁ。(マリの手から花瓶を取り上げる)



ワーズワース 1、2、3、4、5、(舞台裏)



ナコ     ・・・で、実際のところ、どうだと思います?

柳田     んー。

マリ     実際のところ、というのは・・・

ナコ     今回の博士の発表ですよ。思ったよりもずっと、著名人が集まっていますよね。有名なスポーツ選手から、IT企業の社長まで。まあ、あなた方も負けず劣らずですけどね。

マリ     そうですね、以前お会いしたことがある方が何人か来られてますね。

ナコ     やっぱりそういうものなんですか! 住んでる世界が違うなぁ・・・。じゃあ、こういう食費は主催者持ちみたいな会ばっかなんですね。

マリ     ええ、まあ。

柳田     此処出さん、落ち込むことはない。これが常識人としての分をわきまえた生き方だ。

ナコ     いやだ・・・柳田さんみたいに、タッパーに料理を詰めて帰りたくはない・・・! 玉の輿をっ! 誰か私に玉の輿を!

柳田     その叫びは、人心が離れていくぞ。ほら、目に見える形で・・・。



柳田、マリが一歩下がっている。



ナコ     ああっ! ドン引かないでください!



マリ     あ、でも、博士のこの発明が本当だったとしたら、玉の輿、狙えるんじゃないですか?

柳田     此処だけの話、博士、独身らしいぞ。



ナコ     いやいやいやいや・・・近づくチャンスがないですし! 第一、私、・・・あんまり信じてないんですよ、今回の発明。

柳田     そうなのか。

ナコ     永久機関ですよ!? 永久に動き続ける機関ですよ。大きなのっぽの古時計じゃないんだから、動き続けるものなんてあるわけないじゃないですか。

柳田     そうなのか? 私も執筆の傍ら、出来ないものか、と日夜考えていたんだが。

ナコ     柳田さんも、無駄な時間を過ごしましたね~。

マリ     でも、わからないですよ。

柳田     そうだそうだー。

マリ     ドクターなんちゃらみたいな人々はたくさんいましたが、『理論的には可能だ』と言い張るばかりで、実際につくることが出来た人はいませんから。

ナコ     当たり前です。理論的に不可能なんですから。

柳田     でも、檀博士は今日、こうやって披露宴・・・完成したものをお披露目するってわけなんだろう?

ナコ     恥を見るだけですよ。絶対に出来ないんだから。

マリ     でも、博士はこれまでも実現にはあと数百年かかると思われていたものを発明してきましたよね。超高温伝導体の発見、

柳田     スキップするロボットの開発。

マリ     ガンの特効薬の発見。

柳田     うどんを消化分解できるロボット・・・。

マリ     ちょっと当たり外れ大きいですね・・・。

柳田     いや、十分すごいと思うが?

ナコ     とにかく、だから、今回はハズレなんですよ。なんちゃってみたいな、永久機関もどきが出てきて、例えば一時間くらいなら動くけれどそれ以上は無理みたいな、ちょっとお洒落なインテリア~、みたいなそんなものだと思うんです。

マリ     ・・・・・・

ナコ     ね!

マリ     ・・・永久機関がもし発明されたらなんて確かに・・・そんな夢みたいな話かもしれませんけど、・・・せっかくだから、楽しんでみたらどうですか?

ナコ     楽しむ・・・?

柳田     そうそう。もし永久機関ができたら、小中さんはどうしたい?

ナコ     どう・・・って、世界のエネルギー問題が解決されて、それで・・・

柳田     世界がどう、じゃなくて、小中さんが。

ナコ     私?

マリ     そう、あなたが・・・。

ナコ     私は、父の墓の前で父に謝ります。

マリ     ・・・えっ?

ナコ     私の父はずっと永久機関の研究をしていて、それで家族をないがしろにした父を私は恨んでいますので。

柳田     それは・・・なんというか・・心中お察しする・・・。

ナコ     いいんですよ。もう過去のことです。







檀      お集まりの皆さん!



檀博士が登場する。



檀      今日は私のためにこんなに素晴らしい会にお集まり戴きありがとう。

マリ     素晴らしい会って・・・

柳田     自分で言ってりゃ世話ないな・・・

檀      早速ですが、今日は、お知らせしていた通り、永久機関A-9号の完成お披露目をさせていただこうと思います。さあ、入っておいで。

ナコ     え?



ワーズワース、入ってくる。



檀      この子はワーズワース。永久機関です。



照明が変わって、異空間の様相。



ワーズワース 1、2、3、4、5秒の経過を観測しました。



元に戻る。



檀      ・・・何か質問は?



スタッフさん「隠し子?」と、ぼそぼそ言い合う。



檀      ・・・・・・・・・何か質問は?



檀      ないようでしたら、これで・・・

ナコ     あの!

檀      はい。そこのあなた。

ナコ     大澄新聞の小中といいます。・・・失礼ですが、それのどこがどう、永久機関なのでしょうか。普通に高校くらいにいそうな、普通の・・・人間みたいじゃないですか!

檀      そう、人間みたいに。言い得て妙、ですよ。人間とは、食べた分だけ働く機関なのです。それを私は発見したのです。これでお答えになっていますか。そうですか。他に何か質問は?



檀      ないようでしたら、これで。引き続きパーティをお楽しみください。



柳田     隠し子?

ナコ     どうなんですかねぇ

マリ     でも、否定はしていませんよね。





檀      ・・・肯定もしていませんよ。

ナコ     檀博士! この度は、お誘いいただきまして・・・

ワーズワース こんにちは。

柳田     これは驚いた・・・。

檀      待ってください。ワーズワースが「こんにちは」と言っているんです。人として、「こんにちは」と返すべきではありませんか?

柳田     ・・・これは失礼。こんにちは。ワーズワース。

檀      ありがとう。

ワーズワース さっきは質問をありがとう。父は、少し困っていました。

檀      そんなことはないぞ。

ワーズワース それは嘘だ。私には心拍数の乱れが見える。

マリ     博士、それ・・・ワーズワースはロボットなんですか?

檀      君は・・・?

マリ     あ、此処出マリと申します。アサインメント・ソリューション社の役員をしております。今日は父の代理で・・・。

檀      ああ、此処出さんのところの娘さんか。大きくなったね。

ナコ     え、お知り合いなんですか?

マリ     いえ・・・失礼ですが、どこかでお会いしましたか?

檀      5歳のときだったかな。一度君に会っているんだよ。お父さんに連れられているかわいらしい君にね。あの頃は、まだこーんなにちいさかったのに・・・

マリ     そんな小さくないですよ・・・







照明が変わって、異空間の様相。



ワーズワース 1、2、3、4、5分の経過を観測しました。



元に戻る。



檀      此処出さん。あなたに・・・あなたのお父さんを招待したのは、アサインメント・ソリューション社に援助をお願いするためだったんだ。今回のワーズワースの開発で財政が逼迫していてね・・・。

マリ     ということを父に伝えればいいんですか?

檀      ・・・此処出さん、あなたはどう思うんですか?

マリ     といいますと。

壇      永久機関を、ですよ。

マリ     よく分かりませんね・・・。今、現時点で、このワーズワースが、ロボットなのか、人間なのか。触ってもいい?

ワーズワース どうぞ。

檀      論点が違います。永久機関なのか、永久機関ではないのか、です。

マリ     冷たい・・・ロボットなんですね。

ナコ     ワーズワースは人間じゃないんですね。

檀      ええ。でも、食べものがなければ、エネルギーがなくなって動けなくなります。

ナコ     そうなんですか?

ワーズワース ええ。

マリ     ・・・それは、永久機関なんですか?

檀      うん、それは、永久の定義によるわけですよ。ね、柳田先生。

柳田     え。

檀      柳田先生を呼んだのは、去年の6月に出された本、「永久仕掛けのベルトウェイ」が素晴らしかったからですよ。お会いできて光栄です。

柳田     綺麗な女性達に囲まれて、僕のことなど眼中にないんだと思っていましたよ。

檀      いえいえ、楽しみは最後に取っておく主義なもので。

柳田     それはどうも。

檀      あの、「永久」に対する定義が今回、ワーズワースを私に生み出させてくれたのです。あの、

柳田     永久とは、動いていないといけないのか。生きていないといけないのか。

檀      そう。死のハイウェイでのゾンビたちのユートピア。あの永久観に非常に強いインスピレーションを戴いたんです。食物を食べてその分だけ働く仕組みをもつ不死身の生き物は永久機関ではないかって。

柳田     それはどうも。で、何の話でしたっけ。

檀      永久とは何か、ですよ。

マリ     さざれ石が悠久のときを超えてきたのなら、ワーズワースも苔むして生きていくのでしょうか。

檀      そうです。老いることもなく、朽ちることもなく。

マリ     それは、少し悲しいことじゃあありませんか?

檀      悲しい?

ワーズワース 悲しいって、何ですか?

マリ     悲しいって、それは・・・

柳田     ココロがきりきりと痛むこと、かな。

ワーズワース ココロって、私にもあるんでしょうか。

檀      ない。

ワーズワース そうですか・・・。すこし残念です。

檀      ・・・いや、あるらしい。

ワーズワース え?

檀      見つけるといい。ココロを。

ワーズワース ココロとは、見つけるものなのですか?

檀      そう。人間はみんな、自分だけのココロを見つけて生きているんだ。

ワーズワース 分かりました。

ナコ     あの・・・それで、永久機関というのがまだ私には・・・



檀      そうですね。あなたさえ良かったら、証人になりませんか?

ナコ     証人。

檀      そう。永久機関が生まれたという歴史的な瞬間の、証人に。

ナコ     ・・・・・・私が・・・



照明が変わり始める。



ワーズワース 1、2、・・・



ナコ     ・・・え?



ワーズワース ・・・3,4,5日を観測しました。



照明戻る。

ばらばらとはけている。



+2 -nako-



ナコ     ただいま~。

ワーズワース おかえり、ナコ。

ナコ     ナコ、さん!

ワーズワース さぁーん。

ナコ     はーい、みたいに言わないの。

ワーズワース さぁーん。

ナコ     ああ、もう。いらぬなら、私が食べよう、ブルーギル。

ワーズワース ブルーギル?

ナコ     この前、テレビの取材でブルーギル食べるのがあって、なんでも鯛の味がするらしくて・・・。

ワーズワース うわぁ・・・びちびちですよ。

ナコ     そ。仕事帰り際に釣ってきた。バターで炒めると美味しいらしいんだけど・・・。機械油の方がいい?

ワーズワース うぇええ、あれまずいんだけど。

ナコ     ロボットでもまずいんだね。ま、薬になるみたいだけど?

ワーズワース 良薬口に苦し?

ナコ     不摂生なロボットなんてなぁ・・・。

ワーズワース にんげんだもの。

ナコ     どうだか。

ワーズワース ひどい・・・。

ナコ     あ、ごめん。



間。



ワーズワース ねえ、ナコはどう思ってるの?

ナコ     ・・・・・・・・・

ワーズワース ねえ、ナコさんはどう思ってるの?

ナコ     ん、何が?

ワーズワース 人間の耳は都合がいいな。

ナコ     そういう風にできてるの。で、なに?

ワーズワース 雑誌に取り沙汰されて、私は隠し子だってまことしやかに書きたてられて。博士の隠し妻とか書き立てられちゃって。

ナコ     ああ、私のこと心配してるの? 私のことは心配しなくていいから。こういうやり口はよく知ってるからね~。

ワーズワース そうなの? なら、もう心配しないけど。

ナコ     さっぱりしていてよろしい。それにね、私には使命があるの。

ワーズワース 使命?

ナコ     そう。

ワーズワース なになに?

ナコ     秘密、かな。

ワーズワース 秘密かぁ・・・。

ナコ     そ。時が来たら話すかも。

ワーズワース 時が来たらかぁ・・・。

ナコ     そういうことで・・・ブルーギル、焼くよ~。

ワーズワース おっ! 待ってます!



檀      ただいま~。

ワーズワース あ、帰ってきた。おかえり~、父上。

檀      父上って・・・。

ワーズワース サイコロ振ったら今週は父上になったの。

檀      呼ばれ方がそれで決まるのか・・・。ちなみに選択肢には何があるんだ?

ワーズワース 秘密、かな。

檀      秘密かぁ・・・。

ワーズワース そ。時が来たら話すかも。

檀      時が来たらかぁ・・・。ぼくが生きているうちに頼むよ。

ワーズワース うん、まあ。それってどれくらい?

檀      どれくらいって・・・そうだなぁ。あと50年くらいは生きたいなぁ・・・。

ワーズワース 50年って、どれくらい?

檀      どれくらいって・・・

ワーズワース 50年って、どうなんだろう。短いのかな、長いのかな。

檀      短いよ。あっという間だ。

ワーズワース あっという間かぁ・・・。

檀      ちなみに、そのサイコロ、誰が作ったの?

ワーズワース 私とナコで作ったんだよ。

ナコ     ナコ、さん。

ワーズワース さぁーん!

檀      不安だ・・・。

ワーズワース あっという間かぁ・・・



檀      ナコさん、なんか焦げ臭くない?

ナコ     あっ!!



照明が変わる。



ワーズワース 1,2,3,4,50年を観測しました。



元に戻る。



ナコがいる。



柳田     こんにちは。

ナコ     おひさしぶりです。柳田さん。

柳田     変わらないね。

ナコ     あなたも・・・。いや、いろいろと発明の分野でも活躍されて。

柳田     いや、壇博士に憧れてね。もともとほそぼそとやってただろう?

ナコ     お元気そうで何よりです。

柳田     いや、最近物忘れがひどくてね・・・歳には勝てんよ。

ナコ     じゃあ、忘れてしまいましたか? ワーズワースのことも。

柳田     ワーズワース、かぁ・・・。彼女はどうしてる? 貰ったメールだと家を出て行ってしまって、行方不明だとか。

ナコ     ええ。いつまでもここにいたら、怪しまれますからね。

柳田     ・・・それはつまり、

ナコ     歳をとらないなんて、不気味以外の何者でもないですから。

柳田     ワーズワースは・・・・・・本物だった・・・

ナコ     そういうことになりますね。

柳田     そうか、連絡を貰ったときはまさかとは思ったが・・・驚いたな・・・もう長らく会ってないのか?

ナコ     時々会いに来てくれますよ。誕生日と、博士の命日には欠かさず。ちょうど、今日が。

柳田     待たせてもらっていいかな。是非会ってみたい!

ナコ     興味本位ならやめてください。

柳田     ええ?

ナコ     博士がどうして思わせぶりなことを言って、まるで永久機関がたいした発明でないような、そんな公表の仕方をしたか、ようやく分かったんです。

柳田     俺には今でも分からないけどね。

ナコ     私がどうしてワーズワースを世間に公表しなかったか、分かりますか?

柳田     それも、分からない。今聞いてとても混乱しているよ。君とは長い付き合いになっているけれど、俺と君との細いつながりでは君のことがまったく分かっていなかったみたいだ。

ナコ     愛ですよ。

柳田     愛?

ナコ     安っぽい言葉ですけど、愛なんです。50年で育まれた愛です。私は永久機関であるということよりも、彼女という人間を好きになってしまったんですよ。だから、公表しなかった。

柳田     ・・・俺にも子どもがいる。その気持ちは、少しは分かるつもりだ。しかし永久機関だぞ。それはまさしく人類の・・・

ナコ     それは良かった。

柳田     え

ナコ     柳田さんなら、分かってくれると思っていました。

柳田     ・・・・・・情が移ったんだね。ロボットの空っぽの中身に、ハートを植えたんだよ、小中さんがね。

ナコ     今は、檀です。

柳田     そうだったね。遺産は全部引き継いだのかな。

ナコ     遺産?

柳田     研究資料とか。ワーズワースのブラックボックスを。



ナコ     そんなものはありませんよ。

柳田     ない?

ナコ     そう。どこにもなかったんですよ。彼は何も私には遺さなかった。この家と、ワーズワース以外は。今もほそぼそと年金生活ですよ。

柳田     そう、なのか。

ナコ     偶然の産物。そういうことだったんです、きっと。

柳田     そんなことって・・・

ナコ     そういうことだったんですよ、きっと。

柳田     ワーズワース・・・言葉には出来ない。一度限りの奇跡、それがその時そこにあったってことか・・・。

ナコ     そうかもしれませんね。

柳田     それで?

ナコ     え?

柳田     俺を今日ここに呼んだのは・・・?

ナコ     ああ・・・私、博士と私とワーズワースの過ごした日々を本にしようと思うんです。

柳田     なるほど・・・? ノンフィクション?

ナコ     いいえ、フィクションですよ。誰も信じないでしょう。信じてもらっても困りますし・・・。それに、この本は書いても世に出すつもりはないんです。

柳田     どうして。読んでもらえることに意味がある。新聞記者として、記事を書いていたあなたには分かるはずだ。

ナコ     ええ。でも、たった一人の誰かのために、何かを伝えるのも悪くないんだと思うんです。彼女はこれからもずっと生きていくはずです。その時、私が彼女を愛したということを、遺してやりたいんです。

柳田     あなたは・・・あなたの生きた証を残したいんですね。

ナコ     ・・・そうかもしれません。でも、誰かを大切に思うということ・・・

ワーズワース ただいま~

ナコ     彼女はそれを教えてくれたんです。



ワーズワース ナコさん、久しぶり!

ナコ     おかえり、ワーズワース。

ワーズワース ・・・・・・

柳田     覚えてないかな。流石に・・・。

ナコ     柳田フォークさん。小説家にして発明家。知らない?

ワーズワース こんにちは。

柳田     昔、あの披露宴にいた柳田だ。それにしても驚いたな・・・。

ナコ     柳田さん。彼女が「こんにちは」と言っているんです。「こんにちは」と返すのが、人として当然の礼儀では?

柳田     ああ、そうだね。すまない。「こんにちは」

ワーズワース 覚えていますよ、柳田さん。

ナコ     あ。あなたもコーヒー、欲しいよね。

ワーズワース あ、うん。冷たいの、よろしく。外、暑くてさ~。紫外線強いし、肌焼けちゃうよ~。

ナコ     それくらいの年齢のときは、少し健康的なくらいの方が異性の気も引きやすいのよ。

ワーズワース え、なんで恋してるって、分かるの!?

ナコ     女の勘。

ワーズワース そうかぁ・・・勘かぁ。私も女の端くれとして早く身につけたいな!

ナコ     ちょと待っててね。

ワーズワース ・・・もう待てないよ。



照明がゆっくりと変わる。



柳田     ・・・え?



ワーズワース 1、2、3、4、5世紀の経過を観測しました。さようなら。



元に戻る。



暗転。



+3 -yanagida-



部屋。



ワーズワースは壁にもたれかかって、動かない。

柳田がひとり、なにやら作業をしている。





ワーズワース ここは・・・?

柳田     あ、気付いた? これ・・・。

ワーズワース ありがとう。・・・にがっ!?

柳田     良薬口に苦しって、言うだろう?

ワーズワース 薬?・・・ありがとう。ええと、でも、私お金持ってなくて・・・ええと

柳田     うん。

ワーズワース ええと、・・・どなたでしょうか。

柳田     うん、そうだよね。俺は柳田。今は、医者をやる傍ら、漫画を描いてる。

ワーズワース へぇ。すごい。神は二物を与えたと言うか・・・。おさむさん。

柳田     いや、そんなことたいしたことは。

ワーズワース ・・・私は、どうしてここに?

柳田     うん君は、もう少しでスクラップになるところだったんだ。スクラップ業者に知り合いがいてね。ちょっと面白いものがあったって。

ワーズワース 面白いもの?(自分を指差して)

柳田     ああ、そういう意味じゃない。とても興味深いって意味さ。

ワーズワース 興味深い・・・。

柳田     おいおい、そんなに警戒してくれるなよ。

ワーズワース あなたは柳田フォークを知っている。

柳田     さあ・・・だれ、それ。

ワーズワース その人に似ているの。

柳田     そう言われてもな・・・。確かに俺も柳田だけど・・・柳田フォークって全然知らないよ? いつの時代の人?

ワーズワース いや・・・なんでもないです。ごめんなさい。

柳田     とりあえず、何か作るよ。何が食べたい?

ワーズワース ブルーギルのバター炒め。

柳田     なにそれ、おいしいの?

ワーズワース おいしいよ。鯛みたいな味がするの。

柳田     鯛かぁ・・・鯛は乱獲で今じゃ絶滅危惧種だから食べられないけど、美味しい魚だったらしいねぇ・・・。なんでそんなの知ってるの?

ワーズワース え、・・・それは。

柳田     なあんて、冗談。大方、味覚ドラッグで鯛でも食ったんだろ? いいよなぁ・・・実は結構お金持ちの家の子だった?

ワーズワース あ、私、お金持ってないです・・・。

柳田     え? ああ、気にするなって。俺が好きで拾ってきたんだから。・・・それに俺は医者だぞ。そんなに生活に余裕がないわけでもない。ほら、スクランブルエッグ。

ワーズワース ありがとう。おいしそう。

柳田     俺の得意料理っつーか、これしかまともに作れないんだけどな。

ワーズワース いただきます。

柳田     召し上がれ。

ワーズワース おいしい。ごほっ、ごほっ・・・

柳田     おい、どうした!?

ワーズワース 大丈夫。久しぶりに固形物が入って、ちょっと胃がびっくりしちゃって。美味しい。すごく美味しい。

柳田     それはまた・・・難儀な生活をしてんだなぁ・・・。サイボーグ化もあれか? 金に替えたのか?

ワーズワース サイボーグ?

柳田     女の子だし悪いかなとも思ったんだけど、ちょっと壊れてた右腕を調べさせてもらって。なかなかに特殊な改造がされてるよね、君。有機物の部分と金属の部分が複雑に混ざり合った構造をしてる。

ワーズワース ワーズワース。

柳田     え?

ワーズワース 私の名前。

柳田     ワーズワースか・・・いい名前だ。でも、なんだか変わった名前だね。ガイジン?

ワーズワース ・・・・・・。

柳田     いや、すまない。話したくないなら、いいんだ。俺みたいなのに、昨日今日会ったくらいで話せる話じゃないよな。ただ、俺が力になれることがあったら、言ってくれ。あとな・・・学校。

ワーズワース え?

柳田     今のご時勢、学校は卒業しとけ。まだ、高校卒業してないだろ、見た目的に。特に、発育具合的に。

ワーズワース ・・・ほっといて。

柳田     帰る場所ないなら、うちの二階を貸してやる。

ワーズワース ・・・え。

柳田     ちょうど、部屋もひとつ余ってる。使えよ。

ワーズワース ありがとう。でもお金が・・・

柳田     いいんだよ。いちいち気にすんな。あと、もうちょっとうまく笑えよ。表情筋まで金に替えちゃったわけじゃないんだろ?

ワーズワース うん。ありがとう、柳田さん。

柳田     柳田スプーンだ。よろしく。

ワーズワース 本名?

柳田     ペンネームだよ。

ワーズワース どうしてペンネーム?

柳田     それくらいの付き合いの方が気が楽だろ?

ワーズワース ・・・。

柳田     ま、そういうことになったら、本名、教えてやるよ。



ワーズワース 今度っていつ?

柳田     今度っていったら・・・今度だよ。

ワーズワース そっか。



照明変わる。



ワーズワース 1,2,3,4,5、



元に戻る。



ワーズワース それでね、それまでのことはあんまり覚えてないんだけど、柳田さんがいい人でね、こうして学校に通えて、此処出さんとも出会えたってわけ。

此処出    そうなんだ・・・。ねえ、ワーズワース。柳田さんの噂、知ってる?

ワーズワース え・・・なにそれ・・・なんか、聞きたくないな。

此処出    ワーズワースの為に聞いて欲しいの。

ワーズワース ・・・うん。

此処出    柳田スプーンには黒い噂があるのよ。

ワーズワース え・・・なに?

此処出    柳田スプーンの漫画って、けっこうグロイの多くてさ・・・。

檀      え、何? グロイ話?

此処出    どっから湧いて出た!?

檀      さっきからずっといたよ!

此処出    え、いた!?

ワーズワース うん。いつ紹介してくれるのかなぁって。

此処出    ワーズワースも人が悪いね!

ワーズワース そう?

此処出    え、ちょっと、なんでそんなに嬉しそうなんだか・・・。

ワーズワース なんでもないよ!

檀      ・・・・・・。

此処出    ええと、こいつは檀。私の幼馴染ね。

檀      よろしく。ワーズワースっていうの? 変わった名前だけど・・・とても素敵な名前だね。

ワーズワース ありがとう。よろしくね、檀くん。

檀      こちらこそ。

ワーズワース 檀・・・さん・・・。

檀      え、なになに?

ワーズワース 私、あなたにはじめてあった気がしない・・・。

此処出    え、なにこの雰囲気・・・。許すまじ・・・・それでね!

檀      わっ!?

此処出    柳田スプーンの話なんだけどね!

檀      此処出、なんでそんなムキになってるの?

此処出    うるさいっ!

檀      うわっ! 暴力女。

此処出    いいから。だまってろい!





ワーズワース 此処出さん。・・・女の子はもうちょっとおしとやかでもバチはあたらないと思う。

此処出    ・・・わかった。気をつけてみる。

ワーズワース それで?

此処出    え?

ワーズワース 柳田スプーンの黒い噂って?

此処出    興味あるんだ・・・。

ワーズワース うん。なんだか、私も実は気になっていることがあって。

此処出    そうなの? 何々?

ワーズワース 先に此処出さんが話して。

此処出    うん。柳田スプーンは、SFサイコスリラーみたいな漫画をよく描くんだけどね・・・、スプラッタがひどくて腕はちぎれ飛ぶし、脳髄は垂れ流してるし、けっこうグロイって有名なんだよ。それで、もちろん医者をやってて、そういう本物をみたことはあるんだからこそのリアルだと思うんだけどさ、噂があってさ・・・

檀      ああ、あれ?

此処出    そう、それ。

檀      柳田スプーンは実は人をばらばらに切り刻んでいるって噂。そして、収集したコレクションを眺めながら、漫画を描いてるって・・・もっぱらの噂。

ワーズワース へぇー・・・。

此処出    ・・・で、ワーズワースの気になることって?

ワーズワース え?

此処出    だって、直接現場に住んでるわけでしょ? 夜な夜な女性の悲鳴が聞こえたりだとか、

檀      カリカリとペンの走る音と一緒に、不気味な笑い声が聞こえたりしない?

此処出    どうなの?

ふたり    此処だけの話。

ワーズワース ・・・・・・しないよ、そんな物音。

ふたり    なぁんだ。なんだ。

此処出    え、じゃあ、ワーズワースの気になってることって?

ワーズワース え? うん・・・ふたりは柳田フォークって、知ってる?

此処出    え? 柳田スプーンのふたごの弟とか。

檀      ・・・漫画家?

ワーズワース ううん、知らないならいいんだけど・・・。柳田スプーンは、「柳田フォークって全然知らないよ?」って、言ったんだ。

檀      え、柳田フォークって、もしかして、「永久仕掛けのベルトウェイ」の柳田フォーク?

此処出    「永久仕掛けのベルトウェイ」? なにそのネーミング。ランニングマシーン?

ワーズワース そう。その、柳田フォーク。小説家の。・・・何で知ってるの?

檀      え?

此処出    檀十二朗、文学青年疑惑。

檀      え、あ。うちに・・・すごい古い本なんだけどね・・・なんか、あって、大切にしまってあるんだ。うちの先祖に有名な発明家がいたらしくて、その人が大切にしていた本だとかで。

ワーズワース 博士・・・?

檀      ・・・え?

ワーズワース いや・・・そうなんだ。

檀      や、むしろ、逆になんでワーズワースがそんなの知ってるのか不思議なんだけど。帰国子女なんでしょ?

ワーズワース え、うん。たまたま、古本屋で見つけたんだ。ほら、名前が変わってたから、気になってさ。柳田フォーク。

檀      古本かぁ・・・。ほとんど古文書みたいな次元だよね。

ワーズワース そうだねぇ。あ、私、ちょっと用事思い出したから、先に帰るね!

檀      え、あ、そうなの?

此処出    また明日。

ワーズワース うん、また明日。



ワーズワース、はける。



此処出    ふふーん・・・。

檀      なんだよ。気持ち悪い。

此処出    檀、あなたは刀で言ったらなまくらね。そして、かなづちで言ったら、こんにゃくね。

檀      此処出さん、意味が分からないんですが。

此処出    つまり、あの子あなたに気があるってこと。

檀      僕に?

此処出    そう。

檀      へえ・・・

此処出    なにまんざらでもない顔してんのよ!

檀      え、そんな顔してる??

此処出    なんか腹立つわ!

檀      なんで此処出が僕に腹を立てるわけ!?

此処出    そんなの・・・檀には関係ないことなの!

檀      えーっ、八つ当たりっ!?

此処出    いいから、早く追いかける!

檀      え、こういうときって追いかけるもんなの?

此処出    そんなこと、自分で考えなさい!

檀      そんな、無茶苦茶だ・・・。

此処出    あー、むしゃくしゃする・・・。

檀      檀、いきまーす!



檀、はける。



此処出    腹を立てる理由・・・? そんなの、決まってるじゃん・・・。

柳田     せっかくの幼馴染設定が、何のためにあるか、分かってるよな?

此処出    柳田さん。

柳田     こんにちは。

此処出    ・・・分かっていますよ。

柳田     女は情に弱い。柳田フォークの最後の言葉がそれだったらしい。結局今に至るまでワーズワース型永久機関A-9号はブラックボックスのままだ。

此処出    これは?

柳田     本の栞になっていた500年前の写真だ。右が、柳田フォーク、左にいるのがワーズワースの母親。中央がワーズワースだ。

此処出    彼女には母親がいたんですね、ロボットなのに?

柳田     いれものには何かを容れてこそ、意味がある。そう言ってワーズワースにココロを生み出したのは間違いなくこの女だよ。小中ナコ。ただ彼女は重大なミスを犯した。

此処出    ミス・・・。

柳田     ワーズワースを人間と同じように扱ったこと。それがすべての過ちのはじまりさ。

此処出    ワーズワースもかわいそうに。

柳田     機械は所詮機械。その実用的価値を理解して、初めて意味があるんだ。分かるな?

此処出    はい。

柳田     だったら早く檀十二朗からワーズワースの設計図を奪ってくるんだ。その為に俺の父、母、あんたの両親だって苦心して、俺達に全てを託したんだ。

此処出    ・・・はい。







ワーズワース 博士。

檀      え、僕のこと?

ワーズワース そう。

檀      まいったなぁ・・・。僕は確かに昔から、怪獣博士とか折り紙博士とか、いろんな博士の称号をもらってきたけれど、君みたいな子に博士と呼ばれ・・・

ワーズワース 今一人で住んでるの?

檀      え、まあ。

ワーズワース ご両親は?

檀      まあ、いろいろあって。

ワーズワース 今から博士の家に行ってもいい?

檀      え、どうして?

ワーズワース どうしても・・・。

檀      どうしても? え、ええ、なんで?

ワーズワース 秘密。こんなところじゃ・・・言えない。

檀      ごくっ・・・。い、いいよ。・・・でも、その博士ってのはやめて欲しいな。檀って呼んでよ。

ワーズワース 檀。

檀      うん。じゃ、じゃあ、参ろうか。

ワーズワース 参ろうか。檀の家に。







檀      ここだよ。それで? あ、靴はそのままでいいから。うち、土足なんだ。

ワーズワース うん。ちょっとね・・・気になることっていうのがね、

檀      え、ああ、さっき此処出としてた話?

ワーズワース うん。本当はね、柳田さん、私に最初こういったんだ。「柳田フォークって全然知らないよ? いつの時代の人?」「いつの時代の人?」って、普通、言うのかな。

檀      さあ・・・だいぶ時代がかった服装だったとか・・・ちょんまげ、はらきり、げいしゃ! みたいな?

ワーズワース そんなことはないけど・・・。

檀      それとも何? 図星ってこと?

ワーズワース え・・・何?

檀      ううん。なにも。



ワーズワース ・・・・・・嘘、嫌い?

壇      うん、嫌いだね。

ワーズワース 実はね、私は、あなたの・・・

柳田     そこまでだ。

壇      柳田スプーン!

柳田     やあ、壇少年。ご機嫌いかが?

壇      なんですか、突然人の家に上がりこんで。土足で。

柳田     うちのワーズワースがお邪魔してないかと思って。ほら、いた。

壇      ・・・・・なんですか。

柳田     此処出。

此処出    はい。

壇      此処出、どうした・・・?

柳田     研究室の鍵は、たしか、棚の裏だったな。

此処出    はい。

壇      どうしてそれを・・・此処出?

柳田     とってこい。

此処出    はい。

壇      待った! それを取ってはいけない。

此処出    ・・・・・・ごめん。

ワーズワース 此処出さん、どうして?

此処出    どうしてだと思う?

ワーズワース 分からない。言ってくれなきゃ。

此処出    ・・・・・・あなたがかわいそうで見るに耐えないからよ!

ワーズワース かわいそう? かわいそうって何?

此処出    惨めってこと。

ワーズワース 惨めなの? ねえ、壇、私って惨め?

壇      分からないよ、なにもかも! いったいなんなんだ!

柳田     ワーズワース、その問いは今の壇少年には10年早い。おい、奥の部屋を調べるぞ。

壇      待てって言ってるだろ! うっ・・・



壇少年、腹を殴られて、失神。



此処出    壇!

柳田     行くぞ。

此処出    ・・・はい。



ふたりはける。



ワーズワース 1,2,3,4,5



柳田     何もないぞ! どういうことだ!

此処出    知りませんよ、私に言われても。

柳田     どこだ・・・どこにある??



柳田、壇の胸倉を掴んで。



壇      ゴホッ・・・ゴホッ・・・なんのことですか。

柳田     設計図だよ! 永久機関の・・・ワーズワースの心臓の設計図が必要なんだ! それが永久機関なんだよ!

壇      なんでそんなものがうちにあると思っちゃってるんですか・・・。もうすぐ警察が来ます。警備会社の監視カメラがあんたらをばっちり取ってるはずだから・・・。

此処出    ・・・ここの家、セキュリティはアサインメント・ソリューション社のものでしょ?

壇      ・・・・・・?

此処出    だったら誰も来ないわ。うちのパパの会社だから・・・

壇      まさか・・・

柳田     あんたはどうやら何も聞かされてないらしいな。いいだろう、教えてやるよ。俺、柳田フォークは永久機関の可能性に気付き・・・、

壇      待てよ。あんた今、柳田フォークって・・・あんたは柳田スプーンだろ? フォークは500年も前の・・・

柳田     柳田家ではな、15歳、中学生になる時、ある椅子に一晩座らされることになっている。その椅子は、ある強力な洗脳装置でな・・・ある人間の意識を植え付け、人格を乗っ取ることができる装置なのさ。つまり、俺、柳田フォークになるということだ。

壇      そんな、じゃあ、その子どもの人格は・・・

柳田     そんなものはもともと育てた覚えはない。俺が生き続けるための素材に過ぎないのだからな。

壇      あんたは・・・悪魔だ。

柳田     人類のためだ! 永久機関が人類にはどうしても必要なんだ! ところが、俺が思い描いた永久機関は、結局俺の頭脳では、生涯をかけてもたどり着けなかった・・・。本当に何も知らないんだな、幸せなヤツだ。

壇      あんたらは、永久機関永久機関って・・・そんなものあるはずな・・・



壇、口をハンカチのようなもので押さえられて、脱力する。HE IS DEAD。



柳田     彼には永久に眠ってもらうことになってしまった。

ワーズワース いやだ・・・

柳田     此処出!



此処出、後ろからワーズワースを羽交い絞めにする。



ワーズワース いやだいやだいやだいやだ・・・っ!

柳田     随分と人間らしく感情を表現するようになったな・・・。



柳田、ワーズワースの頬を叩く。



ワーズワース ・・・っ!

柳田     だが、それが目障りだ。



ワーズワース、無表情に、柳田に倒される。

柳田、馬乗りになる。



柳田     さっきも言ったが、永久機関の最初のアイディアはもともと俺のものだ。俺には、お前を解剖するバラす権利がある。分かるな。

ワーズワース 此処出さん



ワーズワース、淡々ともいえる声。



此処出    ごめんね・・・あなたが生まれてきたのがそもそもの間違いだったの。永遠に生きる運命なんて辛すぎるでしょ。今、楽になるからね。

ワーズワース ・・・そうだね。

柳田     フッ・・・まるでまな板の上の鯉じゃないか。やはり、どこまでいっても人形か。死など怖くは・・・

ワーズワース ねえ・・・







ワーズワース 化石ってどうやってできるか知ってる?

柳田     なんだ、どうした。

ワーズワース 私、今じゃすっかり有機物で出来てるでしょ? 中の構造は同じなのに。・・・化石はね、身体の組織がそのままの形を保ちながら少しずつ鉱物と入れ替わっていくの。それはもし生きていたら地獄の苦しみよね。私の身体は私の食べたもので構造はそのままにゆっくりと有機物に入れ替わってきたのよ。それが、どういうことか、分かるわよね。私は痛みとともに生きてきたの。今、ここしかないの。今を生きているの。

柳田     人類のためだ・・・。

ワーズワース ふざけるな! 5000年もしたらすべてが明るみに出ている! 1、2、3、・・・



柳田     おい、やめろ! 数えるのをやめろっ!



柳田、ワーズワースの口を押さえる。ワーズワース、手で、“4”、“5”



ワーズワース 5000年の経過を観測しました。さよなら。



暗転。



+4 -done at the Day-



明転。

そこは研究所。

培養液などがあるような、そういう場所。

椅子。



壇博士のクローン復元体がある。

部屋の隅のほうに、ワーズワースが投げ出されている。



壇      ここは・・・??

小中     ご気分はいかがですか?

壇      長い夢を見ていたようだ。

小中     そうですか。何かお持ちしましょうか?

壇      そうだな・・・コーヒーを。

小中     はい。・・・博士はどんな夢を?

壇      そうだな・・・生み出した永久機関が大変な波乱を生んでしまう・・・そんな恐ろしい夢だった・・・。その存在が明らかになって、幾度となく戦争が起こった。

小中     そうですか。・・・では、どうやら我々がお聞きしたいのは、その夢の内容のようです。

壇      ・・・えっ!?

柳田     博士には永久機械の作り方を教えてもらわなければなりません!

壇      柳田・・・!?

柳田     ・・・・・・え!? ・・・ええ、私は柳田ですが・・・。

小中     紹介します。柳田勝。あなたを作成した私の共同開発者ですの。

壇      ・・・・・・作成した・・・私を?

小中     ・・・ええ。あなたの血液サンプルからあなたのDNAを再生、培養、作成しましたの。

壇      今は、じゃあ、いつなんだ・・・。

小中     平衡歴8700年です。

壇      まったく分からないんだが・・・西暦で言うと何年だ?

柳田     西暦? 昔は西暦というのが使われていたのですか。

壇      ああ・・・そうだな・・・。すっかり浦島太郎ということか・・・。それで?

小中     え?

壇      どうしてそんな未来人がわざわざ私を墓から掘り起こすようなことをしたんだ。

小中     博士には、人類のために、永久機械を作ってもらわなければなりません。

壇      永久機械・・・永久機関のことか。

小中     そうです。200年前、長く続いた戦争が終わりました。なぜだと思います?

壇      さあ。ついにエネルギー問題が解決したか・・・。

小中     いいえ。永久機械というものを巡って争っていたことをとある考古歴史学者が発見したのです。そう、私たちは何のために戦っていたのか、分からなくなっていたのです。

壇      人間はそこまで愚かだったのか?

小中     その時代ごとにその戦いには様々な名前がついてはいました。しかし、どうして人は争うのか・・・・・・その答えをそこに落ち着けることにしたのです。

壇      随分と回りくどい言い方だな。

小中     エネルギー問題を早急に解決する必要ができたのです。

壇      太陽光は? 風力は? 新エネルギーへの移行を人類は進めてこなかったのか?

柳田     ・・・・・・来るんですよ。

壇      え?

柳田     第四の氷河期が。

壇      氷河期。

柳田     地球は厚い雲に閉ざされ、地は氷に覆われます。我々は大きな試練と戦わなければならないのです。そのためには、あなたの発明した永久機械が必要なのです!

壇      ・・・・・・残念だが・・・お断りさせてもらおう。

柳田     ・・・・・・・・・・・・

小中     ・・・・・・・・・・・・理由を・・・

壇      いろんなものを支配してきた人間も、時間だけは支配できなかった。

柳田     ・・・・・・博士、あなたが今言ってらっしゃることの意味があなたはよくご存知なのですか?

壇      分かっているつもりだ。

柳田     いいや、分かってない。今、人類がどんな状態にあるか。街は停電し、夜になればまっくらだ。年を追うごとに冷え込みは厳しくなり、作物は育たなくなる。食糧の生産プラントの電力量だって、ギリギリのやりくりなんです! これがどういうことか分かりますか? ヒトという種族は今、絶滅しようとしているのですよ! あなたの、その、たったひとつの決断で!

壇      ・・・・・・いや、

小中     柳田・・・もういい。

柳田     どうしてですか!?

小中     あなたにはどうすることもできない・・・永久機械など存在しなかった・・・そういうことですよね。

壇      ・・・・・・・・・そうだ。

小中     我々は、あなたを再生、あなたの人生をトレースし、疑似体験させることで、あなたの脳を成長させました。

壇      よくぞそんな技術が・・・。

小中     その結果、あなたから得られたのは、そこのワーズワースという名前の機械人形だけでした。しかし、その機械人形は、永久には程遠い、失敗作だった。

壇      その通りだ。

小中     ところが、あなたは永久機械を発明し、その機械人形は500年の時を超えて生き続けたとある。

壇      そうか・・・。

小中     一体何があったんです? あなたの永久機械はどこから生まれてきたんです?

壇      私は君たちが造ったんだろう? だったら私が知るわけないだろう。

小中     ・・・・・・

柳田     ・・・みんな奇跡を待っているんですよ。

壇      ・・・・・・

柳田     ・・・・たしかに、あなたの記憶を作ったのはわれわれだ。だが、もしかしたら、我々の科学が及びもつかないような、何かが、あなたの中で実を結んで、そして、ヒトを救ってくれるのではないかと。

壇      さしずめ・・・私は人類の救世主・・・ということか。



間。



壇      分かった。本当のことを話そう。

柳田     本当のこと!

壇      いい話ではない。



間。



壇      ワーズワースはある日、目を覚ましたときには既にそこにいた。だから、誰が作ったのかも、なんのために作られたのかも分からない。ただ、私の造っていた素材が、ワーズワースとなっていた。私は、ワーズワースを徹底的に調べた。・・・が、その原理を解明することは出来なかった。そして、これは人類を救うような発明でないことも分かった。

小中     ・・・・・・そうか。

柳田     え、どういうことです?

壇      ワーズワースは私が作り上げたものではない。

柳田     ええ。

壇      だから、私にはワーズワースを10万馬力に改造することもできなかった。彼女はただ、不老不死の容れ物でしかないということだ。なぜ、永久に動き続けるのかも分からない。だから、エネルギー問題はワーズワースによって解決したりはしない・・・これが本当のことだ。・・・誰にもいえなかった、本当のことだ。



間。



柳田     ・・・・・・人間は滅びる運命にあるのでしょうか?

小中     いいえ、・・・ヒトに帰るのよ。自然と共存し、獲物を追い、吹雪の中を熱気を持って槍を構えるヒトに・・・。いつか、空が晴れるときまで、人類は生き残らなければならない。

柳田     わ、私は、コールドスリープの開発をしてみます。

小中     柳田君らしいわね。私も手伝うわ。



間。



ワーズワース すべては無駄。

柳田     ・・・誰だ?

小中     ・・・・・・

壇      ワーズワース・・・いや、誰だ?



ワーズワース、むくりと立ち上がる。



間。



ワーズワース 人類は第四の氷河期の最中、生存競争に敗れて滅びるわ。

柳田     そんなこと、信じられるわけが・・・!

ワーズワース もう、何度も観てきた事だから。この宇宙は繰り返すように出来ているの。分かるでしょ? 太陽の黒点が11年周期で増えたり減ったり。人類だって、この2000年の間に随分と増えたり減ったりしたわ。それは知ってるでしょ?

壇      人口が減った時期があるのか?

柳田     人口調整協定が結ばれて、各国で人口調整を行っていたんです。その人口を超えると超えた分だけ人口税を払わないといけない仕組みでした。

壇      ・・・まるでモノ扱いだな。

小中     でも、人類は人口を減らすこともできる。そういう社会的制度の有効性が証明できたといえない? それでも、人類は滅び行く種族だというの?

ワーズワース 原因はいろいろだけれど、結局、歴史は繰り返されるの。同じことの繰り返し。いつも何度でも。

壇      お前はいったい・・・・・・なんなんだ。

ワーズワース なんでしょう? 博士には結局分からなかったんだよね。いつも私は、ドキドキしながら、博士の元に現れるの。今度こそ、博士は私のことをわかってくれるんじゃないかって。勝手よね、そうならないって知ってるのに。

壇      私は、君に何度も会っているのか?

ワーズワース いいえ、私が博士に何度も会っているんですよ。博士は私とはいつも初対面。

壇      ・・・そうだな。



間。



柳田     納得がいきません!

小中     え・・・

柳田     だってそうじゃないですか! 人類は滅びる。諦めなさい。って言われて、諦められると思いますか?

小中     ・・・・・・無理ね。私、占いは良いことしか信じない性分たちなの。

柳田     俺もです。

ワーズワース 結果が変わらなくとも?

柳田     結果は俺たちが作るものだ。何かに決められていて、その通りに動くなんてごめんだ。

ワーズワース 毎回、そこであなたがそういうことが決まっていたとしても・・・それから小中さんが、

小中     あなたは、今を生きていない人間だから、そういえるんだわ。私たちには、今、この時代しかない。

ワーズワース と、いうことが決まっていたとしても?

小中     あなたが永久を生きるというなら、あなたには、時間という概念がきっと無いんだわ。だから、あなたは滅ぶことを悲しいとか思わない。

ワーズワース 悲しい・・・? 悲しいってどんな感情?

柳田     ココロがきりきりと痛むこと、かな。

ワーズワース ・・・・・・知ってた。だから、私はいつも知っていてこう言うの。



ワーズワース、壇のほうにゆっくりと向き直って、



ワーズワース ねえ博士、私を壊してくださいな。

壇      ・・・・・・えっ・・・

ワーズワース 博士が作ったんですよ、私を。

壇      私が・・・だって、私には作り上げることが出来なかった。

ワーズワース でも、誰が私を作ったかと問われれば、みんなあなたが作ったと答える。

壇      壊せない・・・

ワーズワース 壊せないのに作っちゃったんだ・・・・・・無責任だね。

壇      すまない・・・

ワーズワース 私を殺したら、未来は変わるかもしれないよ。誰も知らない未来になるんだ。

壇      ・・・すまない。

ワーズワース 無責任だね。

柳田     だったら、我々が責任を持って、君を壊そう!





ワーズワース もういいんだ。1、2、・・・



照明が変わって、



間。



暗転。



ワーズワース 3、4、5万年の経過を観測しました。





+5 -unknown-



明転。



人類は衰退しました。

雪と氷に覆われた地表。

テントが建っているかもしれない。(裏にある設定でもいい)



雪が降っている(ワーズワース、降らせている)



壇、外に出て、空を眺めている。



此処出はここでふたたびマリ、という名前になっている。めぐり合わせ。



マリ、ダンに近づく。



マリ     お兄ちゃん!

ダン     マリか・・・

マリ     5キロ先のところでマンモスの足跡が見つかったんだって。追いかけるってさ、お父さんが。

ダン     そっか・・・腹、減ったもんな。

マリ     生きてるんだもん。しょうがないじゃん。

ダン     そうだよな・・・・・・。

マリ     え、何? なんかそうでもないみたいな・・・その反応は・・・まさか、隠れてなんか変なもんとか食べてないよね?

ダン     なぁ・・・マリ。

マリ     何、改まって。

ダン     もしもだよ。

マリ     うん。

ダン     もし、ずっと動き続けるものがあったとしたら、何かいいことがあるのかな?

マリ     え、それは、私たちのことじゃなくて?

ダン     ・・・え?

マリ     私たち、毎日獲物を求めて動き回ってるよ。

ダン     ・・・・・・そうなんだけどさ・・・。それも不思議だよな・・・。

マリ     ええ?

ダン     マリ、少食であんまり食べないだろ?

マリ     お兄ちゃんが食べすぎなんだって。

ダン     でも、マリは毎日たくさんの薪を割るし、たくさんしゃべるだろ? そんなエネルギーがどっから出てくるんだろ? って、よく感心するけどさ。

マリ     まだぴちぴちですから!

ダン     そっか・・・。でもさ、じゃあもっと長い時間動き続けてたら? もっと・・・そう、お父さんくらい、地面の雪をたくさん掘って、たくさん芋を掘って、雪も全部掘り続けて、地面が全部見えるくらいにずっとずっと、長い時間動き続けてたら、そんな何かがあったら、なにか、いいことがあるのかな?

マリ     ・・・芋が掘れるんだったら、いいことじゃない?

ダン     そうだけど、そういうことが言いたいんじゃなくて・・・

マリ     えー、なんか今日のお兄ちゃん、ちょっと変だよ。

ダン     そうだね・・・今日は、なんか変な気分なんだ。

マリ     とにかく、お父さん、待ってるから、

ダン     うん、すぐ行く。

マリ     すぐだよ。

ダン     うん、すぐ。



間。



マリ     ねぇ・・・すぐって、どれくらい?

ダン     すぐって言ったら、すぐだよ。

マリ     じゃあ、先行ってるね。



マリ、はける。



ワーズワース それを想像できなくなったあなたたちが私を観ることはもうできないの。



ダン     そうだね。すぐにいくよ。



ダン、はける。



間。



ワーズワース 1、2、3、4、5回、人類は滅亡しました。



暗転。



+6 -replayed-





披露宴の会場。





ナコ     ・・・・・・マリさんも、やっぱりあれですか?

マリ     あれ?

ナコ     またまた~ とぼけちゃって。今日ここにいるなら、それしかないでしょう。ズバリ、そうでしょう~。

マリ     マルオ君?

ナコ     あ、分かります?? ちょっと古いですけど! 私好きだったんですよ。

マリ     私も欠かさず観てました。特に、高校編が好きでした。

ナコ     あー。あの時はびっくりしましたよね。エンドレスに小学生だと思っていたら、ある時を境に突然時が進みだした。

マリ     そうですね。高校時代に、大人と子どもの間でゆれる様子が好きだったんです。

ナコ     あー、そうなんですかぁ・・・。

マリ     あ、年がばれますね・・・。

ナコ     え、おいくつぐらいなんですか?

マリ     秘密です。

ナコ     えー、いいじゃないですか。

マリ     ごにょごにょ。

ナコ     えーっ! ・・・見えない。



暗転。

入れ替え。

壇博士の居室。



ワーズワースが、いる。



ワーズワース 博士、そろそろお時間です。

壇      ネクタイがなんか決まらなくて!

ワーズワース どれでもよくお似合いですよ。

壇      そうかなぁ・・・。じゃあ、これにしよう!



壇、出てきて、



ワーズワース それはないと思います。

壇      そっか、じゃあ、こっちにしよう。スピーチの原稿できてるんだっけ?

ワーズワース 存じ上げませんが。

壇      あー・・・しまった・・・。洗濯機の中だ・・・。まあ、アドリブで喋ろう!

ワーズワース ・・・・・・。

壇      ・・・・・・。



間。



ワーズワース ・・・どうしました?

壇      ・・・いや、私は本当に正しいのだろうか? と思って。

ワーズワース え?

壇      人類のためには永久機関など公表しないで、コツコツと技術を発展させたほうがためになるのかもしれないな、と思って。君はきっと未来から来たんだね・・・。私には到底君のことが理解できなかった。

ワーズワース 当然です。人間は生き物であるということがまだ分かっていません。

壇      それを君が人類に教えたら、どうなるのかな・・・。

ワーズワース 分かりかねます。ただ、今、此処にあることを信じ、生きることしか出来ないのではないでしょうか。



壇      うん・・・・・・私もね、今、ちょうどそんな気分なんだ。

ワーズワース ・・・分かりかねます。

壇      うん、行こうか。



間。



ワーズワース ・・・あれ、



ワーズワース、胸に手をあて、



暗転。



ワーズワース 優しいリズムだ。



これにて閉幕。



暗転。















+あとがき+





「永久はフラスコの向こう側」をお読み戴き、ありがとうございました。

永久機関に一度は魅入られた人も多いのではないでしょうか。永久に動き続けるなんて、なんてステキなんでしょう!

永久機関には魅力があります。

でも、永久機関があったら何がいいの? 永久機関って私たちにとって、どんな存在なんだろう、ってことを考えてみました。

おわり。