ふきだしパズル

作・なかまくら

2010.7.25

キャスト

探偵・・・・荒巻太一

助手・・・・明智翔子

依頼人・・・遠藤夏弥

ライバル・・金田一小次郎

お父さん・・遠藤凛太郎



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明転。

鳴き声が聞こえる。



いろんな動物の鳴き声。

人間の鳴き声も聞こえるが、すべておまかせ。



遠藤   ・・・・・・ラインハルト。



暗転。



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明転。

探偵事務所。テレビの音。

ノックの音。



遠藤   ・・・・・・すみませーん・・・・・・あ、お留守でございますかぁー・・・・・・



テレビの音が時間を表す。んだ!(※ト書きです)



遠藤   あ、じゃあ・・・しつれいしまーす・・・



間。遠藤、携帯をいじっている。



がちゃ。荒巻、入ってくる。

運命の出会い。らららー♪



荒巻   ギャオス!

遠藤   内藤?



荒巻、はける。



遠藤   あ、あのっ!・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はずれ?



明智、入ってくる。



明智   先生、お昼、買ってきましたよー。焼きそばとうどんがあるんですけど、どっちがいいですかぁー? あ。

遠藤   あ。

明智   こんにちは。

遠藤   こんにちは。

明智   あ、依頼ですか?

遠藤   あ、はい。



荒巻   (舞台袖から)明智くん!

明智   え、あ、先生!

荒巻   しーっ!

明智   何言ってるんですか?

荒巻   いいからっ!

明智   もう・・・あ、ちょっと待っててくださいね。



明智、はける。でてくる。



明智   お待たせしました。私は助手の明智です。

遠藤   はじめまして。遠藤です。

明智   ご依頼はなんですか?

遠藤   ・・・・あの・・・

明智   あ、そんな率直に聞かれても困りますよね。・・・ええと、

遠藤   先生はどうされたんですか?

明智   えっ?

遠藤   だって、あなたはただの助手ですよね。

明智   いやっ・・・まあ、助手ですけど。ええ、確かに助手ですけど、私、それなりに仕事こなしてますから。

遠藤   あ、傷つけてしまったならごめんなさい。

明智   ああ、いえいえ。まあ、先生自らが話を聞くというのが筋ですよね。普通。

遠藤   そうですね。

明智   ・・・うっ!

遠藤   ど、どうしましたっ! どこか悪いところでも!?

明智   遠藤さん・・・言葉がロンギヌスの槍みたいだって言われません?

遠藤   いっこうに。

明智   私が軟弱ですか。

遠藤   はい。



明智   ・・・う、うぁああああー!!



明智、はける。



荒巻   ちょ、無理だって。ここ一人乗りだから!

明智   じゃあ、先生代わりに行ってください!

荒巻   君でダメなら、僕がいけるわけないじゃない!

明智   私も、あの子無理です! 最近の若い子は可愛い顔して、なんて恐ろしい!

荒巻   君もまだまだ若くて可愛いよ!



間。



明智   ・・・え。

荒巻   ね。

明智   ・・・ごまかしてもダメです! 私の手には負えません! 見てください。私の心。ポッキーみたいにポッキーって。

荒巻   ポッキーってねー・・・

明智   分かりました! じゃあここは公平にじゃんけんにしましょう。

荒巻   よし、僕はパーを出すからね。

明智   はぁ!? ・・・・・・その手には乗りませんよ。

荒巻   じゃあ、いくよ。

ふたり  じゃんけん、ぽん!



間。



明智、出てくる。



明智   ガッデム! ・・・頭だけはいいんだから!

遠藤   寸劇は終わりましたか?

明智   ・・・ごめんなさいね。ちょっとトイレが混んでてね!

遠藤   ああ、そうですか。

明智   あ、もうすぐ心優しい荒巻先生がお茶を入れてきてくれるはずですよ。

荒巻   ・・・え?

遠藤   あ、結構です。

明智   何故に!?

遠藤   ・・・喉、渇いてないので。それに、飲み物ってこういうとき出さないのが普通じゃないんですか? こう・・・言おうとしている真実を飲み込んでしまうといいますか。

荒巻   まさにそのとーり!

明智   ・・・・・・もう、出てきてください!

荒巻   ちょ、明智くん、何をする。ぬっ・・・・あ、チカラ強い。

明智   はいはーい。シット・・・ダウン

荒巻   Ohh…No…

明智   YES!

荒巻   ・・・・・・はい。



明智   ・・・お待たせしました。

遠藤   待ちました。

明智   で、依頼は?

遠藤   はい。あのですね・・・ラインハルトを探してほしいんです。

明智   え?



話は続いている。



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照明変わりまーす。

なにか、街灯の支柱みたいなのに、寄りかかっている。



小次郎  やあ、俺の名は金田一小次郎。この街を守る私立探偵さ。この街じゃあ、ドラマや推理小説にあるような凶悪犯罪なんて、そうそう舞い込んで来る仕事じゃねぇ。だが一見地味に見える、素行調査や浮気調査、はたまた昔の恋人さがしなんてものまで請け負って、だからこの街は平和にやってる。だが、この平和な街には俺の平和を脅かす輩がひとり、いる。そいつの名は・・・



明智   あ、私、やっぱりお茶とって来ますね。



明智が歩くと、空間が事務所に侵略されていく。



小次郎  え、俺の出番終わりなの? ちょっと・・・短くね? 今から俺カッコイイこと言おうとしてたよ! そいつの名は・・・っ!

遠藤   荒巻先生、どうか、ラインハルトを見つけてください!

荒巻   分かりましたから、少し離れてください。

遠藤   ちゃんと聞いていますか?

荒巻   十分聞いております。

遠藤   人の目を見て話せないなんて、非常識な方ですね。

荒巻   いやぁ・・・その・・・

明智   これでも先生にしては、頑張ってるほうなんですよ。

遠藤   そういえば、明智さんは、あの名探偵の明智小五郎と同じ苗字なのに名探偵じゃないんですね。

明智   ぐさっ・・・

遠藤   あ、すみません。気にされてましたか?

明智   いぃえぇ!

遠藤   そうですか。

明智   ・・・で。そのラインハルトの特徴を教えていただけませんか?

遠藤   はい。ラインハルトは地球を抱え込むキツネのキーホルダーをつけていて、あ、あとは、そうですね。名前を彫ったレリーフもつけています。

荒巻   ラインハルトって刻まれた銀のプレートですか?

遠藤   はい。そうです。

明智   銀!?

荒巻   随分と可愛がっていたんですね。

遠藤   え、ええ・・・まあ。

明智   なるほど・・・。他に・・・髪の毛の色とか、どれくらいの身長とか何か他に特徴は・・・

遠藤   そうですね・・・あ、猫ですよ。

明智   あえ?

荒巻   ふむ・・・



電話。



遠藤   ・・・・・・電話ですね。

明智   そうですね。

遠藤   でないんですか?

荒巻   どうせ、いたずら電話だよ。

遠藤   そんなテキトウな。

明智   この時間にかかってくるやつは・・・ちょっとワケアリで・・・

遠藤   ワケアリだからこそ、こうして探偵事務所を頼ってきてるんじゃないんですか。

荒巻   ・・・明智くん・・・取って。

明智   はい。・・・もしもしこちら荒巻私立探偵事務所。



遠藤、携帯を出してポチポチ始める。

小次郎、再び現れて。



小次郎  あ、繋がった。俺、再び登場。

明智   切りますよー。

小次郎  あ、ちょっと待って! その声は翔子ちゃん? あのですねー、私は、私の請け負った事件をかけて、荒巻太一に挑戦を申し込む!

明智   依頼人にはそのことは言ってあるんですか?

小次郎  もうね、ばっちし。

明智   こっちも今忙しいですから、また今度にしてください。では。



小次郎  あ、ちょt・・・・・・切られちゃったよ。



荒巻   可愛い携帯だね。

遠藤   あ、私ですか?

荒巻   うん。随分と古いようだけど・・・

遠藤   これは・・・3年前に父が買ってくれたんです。

明智   3年!? 長持ちだね~

遠藤   ええ・・・まあ。

荒巻   大切なものなんだ。

遠藤   はい。父とは今そんなに仲がよくなくて・・・。

明智   仲の良かった頃の思い出の品なんだね。

荒巻   お父さんは何をされている方?

遠藤   え、それ、関係ありますか?

荒巻   いや、案外疎遠になってしまったお父さんのところに逃げ込んでるかもしれないだろう?

遠藤   それは・・・ないと思います。

荒巻   そうなの?

遠藤   はい。父は、動物に愛着を持つような人間ではないので。

明智   もしかしてそれで喧嘩してるの?

遠藤   喧嘩なんてしてませんよ。もう二度と会いたくないだけです。

荒巻   本当に?

遠藤   え?

荒巻   その携帯、お父さんからもらったから大切にしてるんだろう?

遠藤   昔の父は優しかったんです。・・・今の父は、お金に目がくらんですっかり変わってしまった。だから、もういいんです。

明智   そんなの・・・

遠藤   なんですか?

明智   本当にそれでいいの? 仲直りすればいいじゃない!

遠藤   ・・・・・・。

荒巻   明智くん。いいんだ。依頼以外のことにそこまで介入するのは失礼だよ。

明智   あ、・・・はい。



暗転。



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小次郎、マッテルヨ。



荒巻   よし、準備OK! 行こうか。

明智   うわ・・・なんかいるんですけど。

遠藤   こっちにも。

荒巻   え?

明智   ・・・先生、毎度のことですけど、その怪しい格好何とかなりませんか?

荒巻   え、どのへんが?

明智   まさかとは思いますけど、それ、普通だとは思ってませんよね。

荒巻   え、どのへんが?

遠藤   帽子! マフラー! マスク! サングラス!

荒巻   ・・・・・・はい。



明智   ・・・遠藤さん。

遠藤   はい。

明智   私、あなたのこと誤解してたみたい。ありがとう。

遠藤   それほどでも、ありますけど。



明智   ・・・で、先生、どうします?

荒巻   え?

明智   金田一小次郎ですよ。

荒巻   えー・・・どれどれ? あー・・・いるね。

遠藤   病原菌みたいな扱いですね。

明智   まさしくそう。あんまり関わらずにそそくさと行きましょう。

荒巻   では、どちらかがひきつけるということで。



じゃんけん。



遠藤   ・・・・・・あ、私の負けですね。

明智   いや、遠藤さんが参加してどうするんですか。

遠藤   そのほうが公平かと。

荒巻   確かに。顔の知られていない彼女のほうがことのほかうまくいくかもしれない。

明智   テキトウ、言ってません?

遠藤   言ってますね。

荒巻   じゃあ、はい。

遠藤   じゃあってなんですか!

荒巻   いいえ!

遠藤   どっちですか!

明智   遠藤さん、先生は、恥ずかしがり屋なんですよ。

遠藤   ・・・え?

明智   気付いて、なかった・・・!?。

遠藤   驚愕の表情ですね。

明智   あなたのことです。



遠藤   まあ・・・・・・とりあえず、私が注意をひきつけますので、隙を見て脱出してください!



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遠藤   ・・・・・・こんにちはー。いい天気ですねー。あはははー。

小次郎  え、あ、いい天気ですね。



明智   度胸ありますね。

荒巻   そうだね。尊敬に値するよ。

明智   是非尊敬してください。

荒巻   よし、脱出だ。



遠藤   あ、誰か待ってるんですか?

小次郎  あ、ええ。ちょっと待ち合わせで。

遠藤   私もです。ラインハルトが来ないかと思って、待ってるんです。

小次郎  おや、残念。この後お茶でもどうかとお誘いしようと思っていたところだったのに。

遠藤   お茶ですか。いいですよ。

小次郎  いいんですか?

遠藤   ええ。

小次郎  ラインハルトさんは?

遠藤   ああ、探偵さんにこれから探してもらいますから。

小次郎  ああ・・・なるほど。・・・・・・その、つかぬ事をお聞きしますが、さっき、荒巻探偵事務所から出てきましたよね。

遠藤   ええ、まあ、ここにずっといたら分かりますよね。

小次郎  ええ・・・まあ。

遠藤   それがどうかしましたか?

小次郎  あなたの依頼はなんですか?

遠藤   あなたに話さないといけないんですか?

小次郎  いえ・・・そんなことはないですが・・・私、こういうものでして(名刺を差し出す)。私にも少しばかりお手伝いが出来るんじゃないかと思いまして。



遠藤   金田一小次郎・・・私立探偵さん?

小次郎  ええ。

遠藤   でも、一番じゃないんでしょ?

小次郎  ぐさっ!?

遠藤   だって、この街で一番の探偵は荒巻だと、紹介されましたから。

小次郎  誰に?

遠藤   え、・・・いや、それは誰でもいいんです。とにかく、三流探偵に、興味はないんです。

小次郎  ・・・・・・君、名前は?

遠藤   遠藤、夏弥です。

小次郎  夏弥さんかぁ・・・いい名前だ。

遠藤   はぁ・・・。

小次郎  失礼ですが、ラインハルトさんとは・・・どういうご関係で?

遠藤   あ・・・その、家族みたいな関係といいますか・・・

小次郎  家族・・・みたいな? つまり、それはどういう・・・

遠藤   いや、どういうも、こういうもないんですけど・・・ちょっと視界から消えてくださいます!?

小次郎  いやいや、そんなことを言われましても!

遠藤   いったいなんなんですか!



明智   遠藤さん!?

遠藤   明智さん!



明智   遠藤さん、

遠藤   明智さん・・・私・・・私っ・・・この人なんなんですか!

明智   ああ・・・やっぱりあなたを行かせたのは間違いでした。

小次郎  あ、翔子ちゃん。



明智   小次郎おじさん。何してるんですか?

小次郎  何って・・・電話したけど、取り合ってくれないから・・・・・・君たちが出てくるのを待ってて、・・・誤解だ! 君たちは誤解している!

遠藤   あなた・・・キモイですね。

小次郎  キモ・・・俺、断腸の思い。キモだけに。



荒巻   うまくない。

小次郎  おぁっ! 荒巻太一・・・

荒巻   金田一小次郎・・・

小次郎  久しぶりだな!

荒巻   全然! 無理!

遠藤   ですよねっ!

明智   え、私、矢面!?

小次郎  はぁあっ!

明智   なんかいらぬ気合が!

小次郎  はぁあああっ!

明智   わー・・・なんもでませーん!



間。



明智   ・・・・・・え、

小次郎  (果たし状を差し出している)

明智   果たし状? なになに・・・俺、私立探偵金田一小次郎は、俺の事件、

小次郎  俺の事件、『毛狩りカンパニーの陰謀』の解決をかけて、荒巻太一に推理勝負を申し込む。勝利した暁には、兄の残した探偵事務所を返してもらおう。

荒巻   ムリムリムリムリ。

小次郎  ダメ。

荒巻   ムリ!

小次郎  だーめ。

荒巻   ムリムリ。

明智   あの・・・私越しにやるのやめてもらえます?



間。



小次郎  こほん・・・これは失礼。だが、今日こそ返してもらうからね。

荒巻   あ、もう返すんで。

小次郎  ダメ。

荒巻   ええっ・・・

小次郎  あの探偵事務所は、この街で一番の探偵にこそ、ふさわしい。

荒巻   はぁ・・・

遠藤   あのー・・・

小次郎  ん? なにかな。

遠藤   私の依頼があるので、勝負は後にしてもらえます?

小次郎  ・・・もちろんです。



遠藤   ダメだ、私、この人ダメだ。



小次郎  どうかしましたか?

遠藤   ・・・いえ、なんでもありません。

小次郎  で、依頼のラインハルトの特徴は? あ、あっちに聞けと。

明智   あ、私?



明智、荒巻と自分を見比べて。



明智   なるほど。

小次郎  で?

明智   ラインハルトは、地球を抱え込むキツネのキーホルダーをつけていて、名前を彫ったレリーフのキーホルダーもつけています。

小次郎  ふむふむ。

明智   それから、茶色と白の毛並みです。

小次郎  茶色と白の毛並み・・・なるほど・・・なかなかにショッキングな・・・失礼。なかなか個性的な方ですね。

遠藤   あ、私?

小次郎  任せてください。あなたの家族は、必ず私が助けてみせます。



遠藤   あ、その・・・私、用事があるので、あとはお願いします!

明智   え、ちょっと・・・遠藤さん?



明智   行っちゃった・・・。もう、見つけてもラインハルトかどうか分からないじゃないのさ。

小次郎  ああっ・・・走り去る姿も可憐だなぁ・・・

明智   おじさん。・・・もしかして、恋・・・に目覚めたりしてないですよね。

小次郎  え、まさか。だって、彼女にはラインハルトがいるんだろう? 家族なんだろう・・・ああ・・・・・・ラインハルトって名前、すごくカッコイイもんなぁ・・・どうせ俺なんて・・・俺なんて・・・

明智   あの・・・ラインハルト、猫ですけど。

小次郎  ホワッツ!

明智   キャッツ

小次郎  ・・・・・・・・・ありがとう翔子ちゃん! 恩に着るよ!



明智   あ、はぁ・・・

小次郎  結婚式、呼ぶからねーっ!!

明智   はーい。



間。



明智   恋ね。

荒巻   明智くん。

明智   あ、はい。

荒巻   遠藤夏弥さんのプロフィール、調べてくれないかな。

明智   え、どうしてです?

荒巻   ちょっと・・・気になってね。



明智   え?

荒巻   彼女の言動さ・・・。

明智   ・・・・・・

荒巻   彼女は何かに迷っているんじゃないか? そして、私に助けを求めてきた。そしてそれはおそらく・・・家族に関することだよ。お父さんに関すること。

明智   え?

荒巻   だってほら、怖い人がたくさんいたじゃない。

明智   え?

荒巻   ほら、物陰に。そことか、あそこの陰にもいたよね。

明智   ・・・気付きませんでした。

荒巻   そう・・・明智くんもまだまだだね。

明智   先生・・・・・・

荒巻   ん、なんだい?

明智   その体勢で言っても説得力ゼロです!

荒巻   ・・・そうか。



暗転。



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明転。

遠藤電話している。物陰にグラサンスーツの男。



遠藤   もしもし。あ、お父様。はい、今は所用で出掛けておりまして。あ・・・はい。探偵事務所ですか? ・・・はい。ペットのラインハルトがいなくなってしまいまして、その捜索を・・・・・・・・・はい。もうしわけございません。はい、すぐに戻ります。



小次郎、そっと近づいて、ちょっぷ! グラサンはたおれた。



小次郎  なるほど・・・

遠藤   (ハッとして振り返る)

小次郎  遠藤さん。いや・・・親しみをこめて夏弥ちゃんと呼ばせてもらおうか!

遠藤   やめてください。

小次郎  ぐさっ・・・・・・でも、そんなところも、悪くない。



遠藤   やっぱだめだ、この人。



小次郎  え、何か言った?

遠藤   いえ・・・。それで、私に何か用ですか?

小次郎  いや・・・。何か話し忘れていることがあるんじゃないかって思って。

遠藤   ・・・え?

小次郎  我慢したって、何も解決したりはしないんだよ。

遠藤   ・・・・・・

小次郎  どんな名探偵も話してくれなきゃ、分からないんだ。

遠藤   何も知らないくせに。

小次郎  ああ。何も知らない。君のことどころか、ラインハルトのことさえ知らない。どんな猫で、どんな食べ物が好きで、どこがお気に入りの場所かも知らない。夏弥ちゃんが来たとき、どんな風に近寄ってきてくれるのかも知らない。



遠藤   だったら・・・ほっといてください。

小次郎  そうはいかない。

遠藤   どうして。

小次郎  この街で一番の探偵になりたいからさ。

遠藤   最低ですね。

小次郎  ありがとう。さあ、行こう。

遠藤   え?

小次郎  せっかくだから、一緒に探そうと思ってさ。

遠藤   金田一・・・さん?

小次郎  さあ、行こう!

遠藤   無理です。

小次郎  無理にでも!(組み付こうとする)

遠藤   やめてください!

遠藤   私、今からお仕事がありまして。

小次郎  そうか・・・それは、そんなに大切なの?

遠藤   え?

小次郎  俺とデートすることより大切なの?

遠藤   当たり前です!(ビンタ)

小次郎  ペプシ!

遠藤   最低です! さよなら。

小次郎  ふっ・・・素直じゃないんだから。ガク。



間。



明智、荒巻はいってくる。



明智   んー・・・

荒巻   ・・・で?

明智   んー・・・こういうの、どうかと思うんです。

荒巻   私の使命は真実を明らかにすること。

明智   探偵の使命は、依頼人の秘密を守り、依頼をちゃんと遂行することじゃないんですか?

荒巻   依頼人の秘密は守っても、依頼人を守ることじゃないんじゃないかな。

明智   そんな・・・・・・冷たいですね。

荒巻   真実は何よりもおいしい果実だよ。

明智   ・・・なに言っちゃってるんですか。

荒巻   私はまじめだよ。



明智   ・・・あ、誰か倒れてる。

荒巻   明智くん。

明智   あ、私、行ってきますね! だいじょーぶですかー・・・

小次郎  ぬぅ・・・・・・



明智   あ・・・小次郎おじさん。

荒巻   ・・・ほっとこうよ。

明智   ・・・・・・ぬー・・・そう・・・いうわけにもいかないですよ。一応、この人のお兄さんに事務所もらったんですよ。

荒巻   そうだけど・・・。

小次郎  はっ!



荒巻   うわぁっ・・・

明智   ちょ・・・またですか。

小次郎  あー・・・翔子ちゃん、助けに来てくれたの?

明智   ええと・・・どうしたんですか?

小次郎  あー・・・荒巻太一。今回の勝負、ついに俺の勝ちのようだ。

明智   え? じゃあ・・・

小次郎  たどり着いたよ。この事件の真相。

荒巻   ・・・・・・聞かせてもらおうか。

小次郎  事件はもともとひとつしかなかったんだ。一つ目のキーワードは、毛狩りカンパニー。会社名は・・・

明智   ・・・『エンドレス』

小次郎  そう。その経営者、遠藤凛太郎は夏弥ちゃんの父親だ。

明智   ・・・・・・どうしてそれを。

小次郎  彼女が父と電話しているのを聞いてしまったんだよ。

明智   行儀よくないですよ、おじさん。

小次郎  すまないね。真実には変えられない。・・・・・・そして、ふたつ目のキーワードはラインハルト。夏弥ちゃんの飼い猫。

荒巻   ・・・ふむ。

小次郎  ラインハルトの失踪を理由に、彼女は荒巻探偵事務所に駆け込んだ。それは、彼女の父親の会社が行っている服飾・・・特に毛皮製品の内情を訴えるためだ。動物の毛皮を使った、ね。それも、ひそかに。

明智   密かに・・・。

荒巻   遠藤さんにしても、事を荒立てたくはなかった。できれば、ラインハルトを追う最中、偶然我々が会社の実体を知ってしまうというシナリオだったんじゃないかな。

明智   それはなんともずっこいですね。追加料金もらわないと!

小次郎  三つ目のキーワードは黒服の男。彼女はマークされていたのさ。身の安全を保障する反面、秘密を漏らさないようにね。

明智   どうしてでしょうか?

小次郎  これは推測に過ぎないが、エンドレスの方針に彼女は反対していた。遠藤凛太郎も人の子だ。実の娘に対してこれ以上の措置はできなかったんだろう。・・・これが事件の真相さ。

明智   じゃあ、今、遠藤さんは・・・

小次郎  彼女なら、会社へ向かったよ。



違う場所。

遠藤、さささっと歩いて、物陰に隠れる。



明智   会社へ?

小次郎  彼女は会社を爆破するつもりなんだ。

明智   爆破!?

小次郎  爆破といっても、少し煙が出ればいい。それで火災報知器が鳴ればあとは報道がことを大きくしてくれる。



小次郎  ・・・・・・それで不祥事が暴かれ、動物の命がこれ以上失われなくなることが、彼女にとっての真実だったんだ。

明智   そんな・・・

小次郎  でも・・・その夢は叶わない。



凛太郎現れる。夏弥がとっさに物陰に隠れる。



凛太郎  夏弥。いるんだろう。出てきなさい。



夏弥、一瞬躊躇するもゆっくりと姿を現す。



凛太郎  お前がまさかこんなことをするとはな。夏弥。

遠藤   お父様。

凛太郎  どうしてここに・・・といった顔だね。そうだな・・・私が依頼したとある探偵から、連絡が入ってね。

遠藤   探偵・・・?

凛太郎  お前がここに来るとね。

遠藤   そんな・・・。

凛太郎  ・・・・・・・・・。

遠藤   ・・・・・・サイテー。

凛太郎  何故私がここにいるか分かるか。

遠藤   ・・・・・・

凛太郎  警備員ではなく、自らここに来た理由が分かるか?

遠藤   知りたくもない。

凛太郎  まあ、そういうな。せっかく来たんだ。少しぐらい話をしてくれたって、ばちは当たらないだろう。

遠藤   ・・・・・・何?

凛太郎  ・・・お前がうちのやり方に反対していたのは知っていた。・・・だが、我が社が倒産したら、何百人という人が路頭に迷うことになる。

遠藤   言い訳なんて聞きたくない! 仕方がないなんてないの。ねぇ、お父さん!

凛太郎  お父、さん?

遠藤   実の父が犯罪に手を出しているのを知った子どもの気持ちがお父さんに分かる? 誰にも話せずに、周りにいつも気を張って・・・。いつの間にかなんで庇ってるのかも分からなくなってきて。だって、お父さんは私には優しいお父さんだったんだよ。なんで周りにも優しい、自慢のお父さんでいてくれなかったの?

凛太郎  ・・・・・・

遠藤   ・・・・・・

凛太郎  ・・・悪かった。実は今日はその話をしに来たんだ。探偵さんからも連絡をもらった。被害を訴える人がいると。お前と話し、仲直りして、・・・・・・もう二度と違法な毛皮製品を作らないと約束するなら・・・・・・このことは私の胸のうちにそっとしまっておきましょう、お父さん。・・・と、探偵は言っていた。

遠藤   お父さん?

凛太郎  探偵さんなりに私にエールをくれたんだと思う。しっかりしろよ、お父さん。って。

遠藤   いや、たぶんそれ、違うから。

凛太郎  え、そうなのか?

遠藤   娘守れよ。

凛太郎  何、誰かに狙われてるのか!?

遠藤   いや、・・・いいよ。もう。失ったものは、二度と帰ってこないしね。

凛太郎  ・・・な、なんのことだ? ちょ・・・お前、まさか・・・

遠藤   違うよ。もう・・・いいの。お礼言っといてよ。探偵さんに。

凛太郎  ん、ああ・・・。

遠藤   それより、さっきの言葉忘れないでよ。

凛太郎  ・・・・・・。

遠藤   もう二度と違法な毛皮製品を作らないで。昔みたいに、優しいお父さんでいてよ。

凛太郎  ああ・・・約束するよ。

遠藤   もう・・・爆弾はいらないね。・・・・・・て、あれ? ない! どっかで落とした!?

凛太郎  な、なにー!?

遠藤   ちょっと、お父さんも探してっ!!



ふたり、はける。



明智   ど、どうして彼女の野望は叶わないんですか?

小次郎  爆弾は、俺が持ってるからさ。

荒巻   あらま。

明智   どうしておじさんが?

小次郎  探偵はどんな些細な変化も見逃してはいけない。彼女が危険を感じたとき、とっさに腰につけたポーチを庇うようにしていたからさ。

明智   ・・・どうして彼女はこんな強引な手に出てしまったんでしょうか?

小次郎  さあ。彼女は正しいと思うことをしようとしただけだ。

明智   ・・・なにが正しいんでしょうか? 父親の不正を暴くことが正しいことなんでしょうか・・・

荒巻   それは、・・・分からないことだよ。

小次郎  でもまあ、根回しは完璧だ。父親には毛狩りカンパニーのことを言って、脅迫しといたから、無事ふたりは仲直りできるだろう。うん。今頃は一件落着して、そのへんの喫茶店でご飯でも食べてるんじゃないか?



遠藤、現れて、



遠藤   どうしよう・・・どこにもなーーーい!!





小次郎  はっはっは。どうだ。荒巻太一。・・・何か言うことはあるか?

荒巻   ひとつだけ。

小次郎  え?

荒巻   ・・・・・・ラインハルトはもうとっくに死んでるよ。

明智   え

小次郎  ・・・・・・え?

荒巻   明智くん、彼女の携帯。ストラップは何がついてた?

明智   いえ・・・

小次郎  ・・・地球を抱え込むキツネのキーホルダー

荒巻   きっとそれはラインハルトがつけていたものだ。

明智   で、でも、それは彼女がおそろいのものを・・・

荒巻   じゃあ、彼女のペンダントになっていたレリーフは?

明智   レリーフ?

荒巻   レリーフには名前が刻まれていて、ところどころメッキがはげかけていた。そこにはなんて刻まれてたか、分かるかい?

明智   ラインハルト・・・。

荒巻   そう。飼い猫の名前を彫ったレリーフをストラップにつける子なんて、そうはいるもんじゃないだろう。

明智   でも・・・でもじゃあどうして彼女は私たちのところへ来たんですか。

荒巻   言っただろう? 彼女は助けを求めてたんだ。





暗転。



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事務所。



荒巻、新聞を読んでいる。



小次郎  エンドレスの不祥事、結局明らかになったんだな。遠藤凛太郎は社長を続けるわけにはいくまい。

荒巻   ・・・・・・いつの間に?

小次郎  前回は・・・引き分けだったからな。まだここをもらうわけには行かないが、たまに出入りさせてもらおうと思って。

明智   小次郎おじさん。

小次郎  ・・・やあ、翔子ちゃん。

明智   どうしたんです? 珍しい。

小次郎  今日は、お客さんを連れてきたんだ。ほら、

遠藤   どうも・・・。

明智   遠藤さん。

遠藤   今日はお礼を言いに。

明智   いえ・・・私は何も。

遠藤   そうですね。

明智   ぐさっ・・・ええ、確かに。存分にお礼を言ってやってください。

遠藤   ええ。

荒巻   ・・・これから、君はどうするんだ?

遠藤   あ、心配してくださるんですか?



荒巻、走って逃げる。



荒巻   べ、別にそういうわけでは・・・。

遠藤   そうですか。では、もう会うこともないでしょうから、私のことなど忘れてください。

荒巻   ・・・・・・

小次郎  お礼を言いに来たんだろう。

遠藤   ・・・。荒巻探偵事務所の皆さん、本当にありがとうございました。これでいいですか?

小次郎  君がそれでいいなら。

遠藤   ・・・・・・みなさん。本当にありがとうございました。おかげさまで父とも仲直りできましたし、本当に感謝しています。

小次郎  ・・・うん。

遠藤   これ、菓子折りです。よかったら皆さんで食べてください。

明智   へぇ、ありがとう。

遠藤   では私はこれで・・・

明智   え。もっとゆっくりしていけばいいのに。

遠藤   いえ。・・・やることはたくさんありますから。

明智   そう・・・頑張ってね。

遠藤   その言葉、お返ししますよ。あなたこそ頑張ってくださいね、明智の名に恥じぬように。

明智   ぐさっ・・・ちょっと、あなたねぇ・・・

遠藤   冗談ですよ。

明智   ・・・・・・じゃあ、握手。

遠藤   いいですよ。

明智   ・・・・・・手、小さいね。

遠藤   やめてください。

明智   ・・・じゃあね。

遠藤   はい。



荒巻   ・・・遠藤さん。

遠藤   ・・・はい。

荒巻   ・・・・・・何かあったら、また来てください。助けになります。

遠藤   ええ・・・気が向いたら、また来ます。さようなら。



遠藤、はけようとして。



遠藤   ・・・・・・あ。・・・・・・ここだけの話なんですが・・・。

三人   うんうん。

遠藤   実は今我が社は総力を挙げてあるものを極秘裏に回収しようとしているのです。

三人   うんうん。

遠藤   そのあるものというのは、・・・・・・実は私が持ち歩いていた爆弾なんですが。

三人   え?

遠藤   どこかへ落としてしまったみたいなんです・・・・・・。よかったら探してもらえないでしょうか。・・・・あれ?



間。



遠藤   え、なんですか。・・・いや、それは・・・私の不注意だってことは分かってるんです。でも、このままだと街がめちゃくちゃに・・・・・・

小次郎  そ、そんな威力だったの!?

遠藤   え? ・・・・・・え?

小次郎  遠藤さん。実は君にとても大切な話があるんだ・・・。

遠藤   ええ。



暗転



小次郎  ペプシ!



明転



明智   遠藤さん・・・

遠藤   ・・・・・・まあ、いいです。笑って許します。

荒巻   あは・・・はは・・・

明智   じゃあ、またね。

遠藤   はい。さようなら。





暗転。

これにて閉幕。