Gimmick

作・なかまくら

2010.6.29

き キャスト き

有村みき・・・・・・♀or♂

(↑男だったらタクヤ)

伊織なのか・・・・♀

上杉・・・・・・・・・・♂or♀

レモン・・・・・・・・♀



明転。

ふたりが、そろりと出てくる。



伊織   ここ・・・かな・・・



そこ、男子トイレです。



伊織   誰も見てないですよね・・・

有村   見てないから早く・・・

伊織   うん。秘密のスイッチが・・・ぽちっとな。



ういーんと、何か装置が作動するのだが・・・が、超狭い。見えない。



伊織   え・・・せまっ!



伊織、振り返る。



有村   いや、今のであってるあってる。



誰か、入ってくる。



三人   あ。



ボーイ  お取り込み中失礼しましたぁー!!

有村   はーい。

伊織   失礼しちゃう!

有村   ・・・いいから、早く。

伊織   ・・・いや、これ、無理ですって。

有村   いいから、行く!

伊織   いや、無理無理無理・・・・・・

有村   おりゃあ!(はける)



入れ替わりにレモンさんが現れて、看板を持ち上げる。

『よい子の夢を守るため、舞台裏はお見せできません』と書いてある。



伊織   あ・・・狭い・・・

有村   たしかに・・・ふたりは狭い。

伊織   なんで地下に降りるのにこんなに苦労しないといけないんですか。

有村   しょうがないでしょ、地下なんだから。



反対から出てくる。

反対側に、わりとまったりな感じでレモンさんがはける。



伊織   とーちゃーく

有村   ふぅ・・・

伊織   あ、ひび

有村   え、ひび!?

伊織   ほら。ほらほら。

有村   うわぁ・・・

上杉   おそいぞっ、なにやっとったんだ。

有村   上杉さん、見てください、ひび! ひび!

上杉   ひびぃ!?



有村   そう、ひび(ぽーず)?

上杉   そんなのも・・・・・・ドリルでガガガッガガガ!

有村   うわぁ・・・・・・やめろなにをするっ!

上杉   酢昆布でもつめとけ!

有村   うわぁ・・・無茶苦茶だ。



伊織   あ、かわいー。(猫を抱いている)

有村   え?

上杉   ・・・どこから入ったんだ?



伊織   え、ここで買ってるんじゃないんですか?

上杉   そんなわけなかろう。ここは国家直属の組織だぞ。

伊織   あう・・・怒られた。

上杉   あう・・・って・・・言ってて恥ずかしくないか?

有村   ああ、この子、地でこんなです。

上杉   おおっと、これは失礼。

伊織   この子、ここで飼ってもいいですか?

上杉   え、だめ。



間。



伊織   えぇぇええっ! やだやだやだやだ!

上杉   やだって言われても・・・。おい、有村なんとかしろ!

有村   え、嫌ですよ。

上杉   うわー・・・

伊織   飼ってくれなきゃヤです!

上杉   家で飼え!

伊織   うちのマンション、ペット禁止なんです!

上杉   そんなん知るか!

伊織   番犬にもなります! 飼ってください。

上杉   番犬?

伊織   番犬になります! ほら、この子もそう言ってます!「あっし、番犬・・・いけますぜぇ・・・」

上杉   うわぁ・・・おい、有村。・・・これは・・・あるまじき痛い子じゃないか?

有村   これでいいところもあるんですよ。

上杉   でもなぁ・・・

有村   じゃなきゃあ、連れてきません。



伊織   (土下座して)どーかこのとーり! あ、ジャックザリッパーもお願いして!

上杉   ネーミングセンス・・・!

有村   たぶん・・・立派なジャックという名前にしたかったんだと思います。

伊織   どーかこのとーり!

上杉   ・・・・・・猫のためにここまで頑張れるのはすごいな・・・。

伊織   え、じゃあ・・・ここで飼ってくれますか!?

上杉   だめー。

伊織   ええっ!

上杉   お前が飼え!

伊織   だからペット禁止で・・・

上杉   ここに猫籠をおいて、あんたが責任を持って・・・

伊織   いや、この子は番犬なんだから、イヌです!

上杉   どういうことだ!

有村   まあ、そういうことで・・・

上杉   わかった・・・・・・犬小屋を用意して、お前が責任を持って飼うこと。排泄のしつけをすること。壁のひびを補修すること。以上。

伊織   ありがとーございます! ほら、ジャックザリッパーも! ありがとーございます!



上杉   面白いやつ、連れてきたな。

有村   どうも。

上杉   せっかくだからふたりには一緒に行動してもらおう。仕事も覚えてもらわないとな。

有村   はい。あの、伊織には私のバックアップについてもらおうと思うんです。

上杉   ふむ。

有村   昔、バトミントン部の時にタッグを組んでいたんです。

上杉   バーチャルじゃないヤツ?

有村   そうです。本物の汗かいてやるやつです。

上杉   物好きだねぇ。

有村   まあ・・・。

上杉   分かった。じゃあ、伊織ちゃん? には私からバックアップの仕事、教えてくよ。

有村   よろしくお願いします。伊織。

伊織   あ、はい先輩。

有村   採用だって。今日からよろしく!

伊織   あ、はい! 私、頑張りますよ!

上杉   なぁ、ひとつ聞かせてくれ。

伊織   はい。

上杉   伊織って苗字?



暗転。





起動音。

そう、そこはバーチャルリアリティーの世界。

なんか半透明のモニターがたくさんあるパソコンの様子をアクリル板を駆使して作ってください。小道具さん・・・やっちゃってくれたまえ。



伊織   ダイブ開始!

上杉   ・・・・・・

伊織   ダイブ成功です・・・か?

上杉   有村、問題ない?

有村   OKです。

上杉   うん。成功。これで彼女はバーチャル空間に入ったわけ。

伊織   ・・・はい。

上杉   ここまでOK?

伊織   OKじゃないです。

上杉   んー・・・OKね。

伊織   ええっ・・・

上杉   じゃあ、有村、ちょっとゆっくり歩いてみて。

有村   了解です。



足音、一歩ずつにSE。なんか空間に反響する感じで。



伊織   うわぁ・・・データめっちゃ増えた。

上杉   慣れ慣れ。

伊織   でも、ちょっとした前兆とかって、こういうところに現れるんですよね。

上杉   ま、そうなんだけど。とりあえずは、座標が大事。プレイヤーの位置が、他の物体と重ならないように気をつけること。こっちにおいてある身体にも影響あるから。

伊織   ええっ、そうなんですか・・・

上杉   そうなの。気をつけること。分かった?

伊織   はい。

上杉   じゃあ、次は、走ってみようか。有村!

有村   了解です。



有村、だっ、と走る。そのままはけて、別の場所から出てくる。有村、頑張って。



伊織   えー、ちょ、ちょっとストップです! なにこれー。



暗転。明転。

伊織、死んでいる。上杉、いない。有村、はいってくる。



有村   伊織―・・・生きてるかー??

伊織   有村さん・・・私・・・びっくりデス! あ、ご心配なく。生き返りました。

有村   元気そうで何より。

伊織   そんなー冷たいです。あれ、冷たい。

有村   チョコレート。冷蔵庫で冷やしといたんだ。食べる?

伊織   いただきます!

有村   はい。

伊織   ありがとうございます。



有村   伊織。

伊織   はい。

有村   びっくりした?

伊織   ・・・何がです?

有村   この仕事のこと。

伊織   そりゃあ、びっくりしましたよ。だって、有村さん、銃バンバンぶっ放しちゃって、もう、キャラ違いすぎてびっくりです。

有村   だよねー。私もちょっとだけ・・・悩んでるんだよね。この仕事・・・

伊織   そうなんですか?

有村   そう・・・だって・・・・・・このままじゃ、結婚できない。

伊織   う・・・・・・確かに。



そこに上杉がのそっと現れて、ふたりは溜め息。

動揺する上杉。



上杉 え、俺? 何?

有村   なーんてね! ・・・悩んでもしょうがないんだけどね! さ、午後もあるし。ちょっと寝てくるわー。おやすみー。あー、もう、いろいろあるんですよ。



上杉を有村、はける。



伊織   悩むこと・・・私は大事だと思いますよ、先輩。



伊織、何かを思いつく!



伊織   考える人!



暗転。



明転。

ダンボールがいくつか置いてある。



上杉   次! 拳銃を一丁、転送!

伊織   はいっ!



レモンさん、舞台裏からトス。有村、キャッチ。



上杉   次! 爆弾の位置をデータ情報から確定、プレイヤーに知らせる!

伊織   はいっ! 先輩、右のBのブロックです!

有村   右のB! あった!

伊織   先輩、爆弾処理マニュアルを送ります。

有村   OK!

伊織   インストール開始・・・・・完了です!

有村   了解。爆弾を止めます。

上杉   はい、そこまで! 有村、帰っておいで。

有村   はい。



照明が変わる。

有村が帰ってきたら



上杉   ふたりとも、よく頑張った。最終試験、合格だ。明日から、実際の現場に出てもらおう。

ふたり  はい!

上杉   バーチャル空間での凶悪犯罪は日増しに増えているからね。いつか、今日の試験のような状況にも出会うだろうが、落ち着いて対応してほしい。

ふたり  はい。

上杉   以上だ。



上杉、はける。



伊織   先輩! ご飯、食べに行きません?



暗転。



ふたり 『いっただっきまーす』

『バクバクもしゃもしゃばくばくもしゃもしゃ・・・』

『ごちそうさまでしたー』



明転。



有村   ぶはぁー・・・食った食ったー

伊織   先輩、はしたないですよ。

有村   そう?

伊織   イメージ崩れます。

有村   まあ、三面六臂というか怪人二十面相というか・・・まあ、そんな感じだ。

伊織   それ、間違ってません?

有村   細かいとこは気にしない!

伊織   ・・・・・・・・・

有村   あれ?

伊織   ・・・・・・先輩、私のバックアップ、少しうざくないですか?

有村   え?

伊織   なんか細かいところに気を取られすぎて、操作性が悪いというか・・・

有村   そんなことないよ、全然。あ、デザート食べる?

伊織   食べます。

有村   甘いものには目がないねぇ・・・

伊織   ほっといてください。

有村   ・・・・・・そんなの、気にしなくて大丈夫だよ。

伊織   でも、私が何かミスしたら先輩が傷付くんですよ。自分のことだったら、どんなに楽か・・・。

有村   ひとりじゃ全部は出来ないから、チームを組むんでしょ。

伊織   そうですけど。・・・有村さんは知ってると思いますけど、私、あんまり人を信じられないんです。

有村   知ってるよ。伊織は昔から何でも一人でできるもんね。

伊織   そうじゃなくて・・・

有村   そうだね。できるんじゃなくて、やってきたんだ。

伊織   だったらどうして・・・

有村   ・・・しゃべり方もそのせいだよね。

伊織   私・・・・・・私はきっと自分に自信がないんです。本当の自分で誰かにぶつかっていって、裏切られても平気でいられる自信が、ないんですよ。

有村   平気でいなくたっていいんだよ。

伊織   ・・・・・・でも、

有村   平気でなくたっていい。平気でいる人間はきっと平気で人を傷つけるから。傷つけられた分だけ、人に優しくできるでしょ。だから私は伊織を信じられる。あ、そうだ。いいものあげる。

伊織   なんです?

有村   ん? お守りなんだけど・・・たしかこのへんに・・・あ、あった。初めての任務に行くときにね、ずっと反対してた私の父が黙って渡してくれたんだ。それからずっと、ダイブするときは、これを持っているわけ。だ、か、ら、相当ご利益あるよ。

伊織   そ、そんな大切なもの・・・第一、実際に行くのは先輩なんですから・・・

有村   私? 私は大丈夫。だって・・・伊織が守ってくれるでしょ?

伊織   そう・・・ですけど・・・

有村   けど・・・何?

伊織   どうしてそんなに信じられるんですか?

有村   さっき言ったでしょ。仲間だから。・・・理由なんてそれで充分じゃない。あ、でも、車の運転と一緒。慣れてきた頃が一番危ないんだからね。

伊織   はい。肝に銘じます。えい!

有村   うん、・・・よろしく。

伊織   私・・・全力で守りますっ!



有村   なに、そのポーズ?

伊織   絶対防御の構えです!

有村   ・・・少しずつ大人になろうか。



暗転。



明転。

翌日になっている。





有村   おはよーございまーす。

上杉   有村、気持ちよく寝ていたところ悪いんだが、事件だ。

有村   ふぁ・・・え、事件。(準備に入る)

上杉   そう。場所はバーチャル空間内のタクノプウの保育園。

有村   保育園・・・まさか子どもを狙った犯行・・・

(準備しながら、はける。別の入り口から入ってくる)

伊織   ダイブ成功です。

上杉   直接狙ったわけじゃない。大丈夫だ。どうやら、その保育園の園児のひとりに小包で人形が届いたらしいんだが、・・・その人形の腕が切り落とされていたらしい。

有村   よくありそうな話ですね。

上杉   それが、すこし妙なのは、ダミー(擬似体)に送られてきたことなんだ。

有村   そうですね。子どもに恐怖心を与えたいのなら、本物の子どもに送り付けないと意味がない。ましてや人数合わせに作られた仮想現実だけの人間に送っても・・・。

上杉   妙でしょ? それでうちの出番ってわけ。ファーストミッションにはうってつけでしょ?

有村   まさか人権擁護団体とかじゃないですよね。

上杉   ダミーに人権をってやつ?

有村   あれ、面倒ですよ。

上杉   まあ、大丈夫でしょ。



伊織   先輩、状態はどうですか?

有村   あ、伊織? んー、ちょっと動きにくいんだけど、もうすこし活動用のメモリもらえない?レモンさんが、ダンボールの箱をせっせと動かしている。

バーチャル空間っぽいイメージの�'font-size:18.0pt;line-height:200%;font-family:"MS 明朝",serif'>有村   お、いい感じ。何したの?

伊織   いや・・・それは・・・

有村   いいから言う。

伊織   実は、バックアップにと思って、ジャックザリッパーの構造プログラムをバーチャル空間内に組んでみたんですけど・・・・・・ちょっと重かったみたいです。

有村   なにそれ。聞いてないよ!

伊織   言ってませんでした。

有村   勝手なことをしない!

伊織   はい・・・すみません。

上杉   ふうん・・・どんなプログラムなの?

伊織   あ、ええと、赤外線探知とか、あと情報ノイズとかを感じ取って反射行動を取れるんですよ。

上杉   それは面白いな・・・

伊織   でも・・・ダメでした。

上杉   今日ダメでも、また改良すればいいさ。今度は企画書を作ってね。

伊織   あ、はい。・・・あれ、上杉さん、どこか行かれるんですか?

上杉   ああ、うん。ちょっと別の事件があって・・・アップローダーっていう凶悪犯探し。

伊織   え、でも、私、ふたりも一度にバックアップできませんよ。

上杉   ああ・・・心配しないで。中継してもらって、別の支部の子にバックアップお願いしてるから。

伊織   はぁ・・・

上杉   じゃあ、あと、よろしく!

伊織   え、ホントに行っちゃうんですか! ・・・行っちゃった。



伊織、お守りを出す。



有村   伊織、ターゲットに接触するよ。

伊織   あ、はい。



レモンさんが、ダンボールの箱をせっせと動かしている。

バーチャル空間っぽいイメージの配置。



有村   レモンちゃんだね?

レモン  だれ、お姉ちゃん。

有村   有村みきっていうの。警察のほうから来たのよ。

レモン  刑事さん?

有村   んー・・・ちょっと違うんだけど、そんな感じかな・・・

レモン  どうしたの?

有村   人形、もってる?

レモン  あれなら、あそこ。

有村   ああ・・・ちゃんとお片づけしたんだね。偉いね。



有村、段ボール箱のひとつから、人形を取り出す。



有村   ふうん・・・これが例の人形か・・・

伊織   先輩後ろっ!

有村   え・・・わっ(転がって避ける)

レモン  お姉ちゃん、どうしたの?(手には銃)

有村   伊織、どうなってる?

伊織   先輩、なんか、ヘンですよ・・・なんでその幼稚園、その子しかいないんですか?

有村   ああん? そんなことじゃなくて。

伊織   とりあえず、その人形、置いてください。

有村   どうして?

伊織   いいから早く! それが一番ヘンなんです。

有村   ・・・伊織、でかした。

伊織   先輩、私が合図したら一目散にそこから逃げてください。

有村   了解。

レモン  お姉ちゃんあそぼ。

伊織   ・・・今です!



有村、勢いよくダッシュして、はける。



レモン  鬼ごっこ? たのしそー。



追いかけて、レモンもはける。

別の場所から、有村、出てくる。



有村   伊織、どういうことかな。

伊織   先輩の行ったところ、データ上は、保育園でもなんでもないんですよ!

有村   え?

伊織   確かに、似た形はしてるんですけど、座標もあってるんですけど・・・書きかえられてるというか・・・なんか・・・

有村   なるほど。伊織!

伊織   はい!

有村   銃をくれ。レモンちゃんが追ってきた。

伊織   先輩、その子もレモンちゃんとはちょっと違います!

有村   伊織。あの子は正真正銘レモンちゃんだよ! ちょっぴりプログラムとか乗っ取られちゃってるけどな。

伊織   先輩、左手が・・・

有村   人形を握ったところからウイルスが感染したんだろう。

伊織   今ワクチンプログラムを

有村   後でいい! それより銃を!

伊織   でも、一般市民は撃てないように銃のプログラムのほうに道徳的ロックがかかってます。

有村   いいからよこす!

伊織   ・・・・・・



上杉、舞台裏から、拳銃を放る。有村キャッチ! 振り向きざまに発砲!

が、しかし、不発。



レモン  私を撃つの? あ、分かった。殺し合いゲームなんだ。

伊織   道徳的ロックがかかってます!

有村   道徳的に撃ってはいけないものを撃てなくする・・・って、これじゃあ、アップローダーの思う壺だな!

伊織   アップローダー?

有村   人格を乗っ取って自在に操る。最近噂のアップローダーの仕業に間違いないね。

伊織   そんな・・・

有村   伊織。

伊織   はい。

有村   今日、まだ私のバックアップ、できる?

伊織   ・・・できます。

有村   そう。なら、フォローよろしく。



有村、飛び出す。



有村   レモンちゃん。

レモン  お姉ちゃん、みいつけた。



有村、自分の左手を出して、左手越しにレモンちゃんを撃つ。

倒れるレモンちゃん。痛がっている。



有村   っー・・・!



倒れこむ有村。



伊織   先輩!

有村   どうだ・・・悪いことしようとしてる人間の手なら撃てるだろ!

伊織   今、再生プログラムと、ワクチンプログラムを送ります! まったく、無茶しすぎです!

有村   ハハハ、なんのこれしき。これくらい日常茶飯事さ。

伊織   インストール完了です。調子はどうですか?

有村   んー・・・まだ痛いんだけど・・・

伊織   ウイルス、ほっとくからです。

有村   あそこでインストール開始したら、処理速度落ちて危ないでしょうに。

伊織   あ・・・・・・すみません。気付きませんでした。

有村   うん・・・次、うまくやろう。

伊織   はい。



痛がっているレモンちゃんに、有村、近づく。



レモン  うー・・・うー・・・

有村   さて。問題は、この子をどうするかだ。

伊織   心臓は動いています。

有村   うん。・・・・・・まあ、幸いこの子はダミーだし、バグとして、保健所で処分してもらうか。

伊織   処分、されちゃうんですよね。

有村   そうだよ。普通じゃん。

伊織   はい。

有村   ・・・・・・普通じゃん。



暗転。





有村   はぁ!? ここじゃ処分できない? どういうこと!? 言えないって・・・なにそれ。だめだねぇー。



明転。

レモンちゃん座って、止まっている。寝ているに近い?

有村、その隣。



伊織   先輩。

有村   何。

伊織   怖い・・・

有村   怒ってないよー。

伊織   余計に怖いです。

有村   用件をさっさと言う!

伊織   はいっ! ええと・・・レモンちゃんについて気になったので詳しく調べたんですが・・・

有村   調べたって・・・調べてなかったわけ?

伊織   いえ・・・そうじゃなくて、ちょっとこう、言葉にしてはいけないような気がする・・・こう・・・道なき道を・・・といいますか・・・

有村   なるほど。それで?

伊織   どうやら、彼女、連邦の大統領の所有らしいです。

有村   はい?

伊織   しかも娘と名前が同じです。レモンちゃん。

有村   え、だって、だったら、レモンちゃん本人じゃない理由が分からないじゃない。レモンちゃんは、ダミーなんだよ。本当にいる人間じゃないの。

伊織   本当のレモンちゃんは、2年前に事故で亡くなっているんですよ。

有村   ・・・・・・悪趣味ね。自分の子に似たダミーを作るなんて。

伊織   そうですね・・・

有村   オッケー。謎は解決。どうして保健所で処分してもらえなかったのか。それはお偉いさんのものだったから。だったら、こっちで勝手にDELETEしちゃうしかないね。

伊織   先輩。

有村   伊織、出来るよね。

伊織   その・・・

有村   出来るよね。

伊織   はい。ただ・・・・・・その前に、もう一度、どうして彼女がアップローダーという犯罪者に狙われたか、考えた方がいいと思うんです。

有村   え?

伊織   最初はただ間違えて届けられてしまったんだろうって思ったんです。・・・でも、大統領のダミーに届けられたんですよ。・・・何か、裏があるんじゃないでしょうか。

有村   裏・・・ねぇ・・・。

伊織   私に少し時間をください。彼女のデータを徹底的に解析してみます。

有村   どれくらい?

伊織   10分ください。

有村   了解。

伊織   ありがとうございます!

有村   だけど、次、動き出したら、また撃つからね。



暗転。



明転。



上杉、ひとり、立っている。



上杉   配置についた。ルートの確保、ありがとう。次の指示を。・・・了解。大統領室へ侵入する。・・・大統領。お聞きしたいことが。・・・大統領は今世間をにぎわせているアップローダーというハッカーをご存知ですか? おや、ご存じない。・・・そのアクセスに・・・ここの端末が使われている、と言ってもですか? なるほど・・・。え・・・極秘に伝えておきたいことがある? こ、これは・・・大統領・・・これは一体どういうことですか!?



暗転。

明転。

3人。元の配置。



有村   ・・・伊織。まだ?

伊織   もうちょっとです。



上杉、別の場所から、登場。



上杉   伊織、聞こえるか!

伊織   上杉さん? はい、聞こえます。

上杉   非常事態だ。手を貸してくれ。

伊織   落ち着いてください!

上杉   ああ・・・そうだな。宇宙ステーションが一機、制御を失って地球に落ちてくる。

伊織   えぇっ!

有村   ん? どうした?

伊織   宇宙ステーションが地球に落ちてくるみたいです。

有村   ・・・はい?

伊織   あ、こうすれば、聞こえますね。

上杉   大統領はこの日が来ることを・・・

有村   あ、聞こえる。

上杉   ・・・予感し、バーチャル空間のどこかに子どもの姿を借りた姿勢制御プログラムを保管してあったらしいのだが・・・

ふたり  それって・・・

有村   この子じゃない?



レモン、急に目覚めて走り出す!



伊織   確保―!!

有村   了解!

上杉   ん? どうした!?

伊織   もしかしたら、私たち、今その子と一緒にいるかもしれません。

レモン  放してっ! レモンは、あっちに行きたいの!

上杉   なんだって!? 今、どこだ!

有村   伊織! 解析まだなの!? 解析すればプログラム、宇宙ステーションのサーバーのに更新して、万事解決じゃん!

伊織   もう少し、かかります!

上杉   私もすぐにそちらへ向かおう!

有村   もう少しとか、待てない!

レモン  はーなーしーてー

有村   ウイルスがレモンちゃんから侵入してくるっ・・・!

伊織   ・・・・・・

有村   伊織? ちょっと早くどうにか・・・

伊織   先輩。・・・・・・ちょっと危険なこと、乗ってくれます?

有村   ・・・・・・いいよ。ちゃんと守ってくれるんでしょ。

伊織   はい。全力で!

有村   OK! で、どうすればいいの?

伊織   今から、解析プログラムを有村さんにインストールします。それを、有村さんのウイルスに感染している部分に馴染ませて、レモンちゃんに逆に侵入させます!

有村   そんなの、可能なの!?

伊織   できます!

有村   信じるわ。

伊織   ありがとうございます。行きます!

有村   ・・・・・・・・・・・・・・・

伊織   成功です!

有村   え、終わり?

伊織   はい、成功しました!

有村   あ、そう・・・えいっ!



ちょっぷで、レモンちゃんを気絶させる。台詞なくて、ごめんよう。



伊織   今から、宇宙ステーションのほうに、衛星制御プログラムを転送します。

有村   あ、伊織!

伊織   はい!

有村   こっちにはワクチンプログラム頂戴。こっちももう、阻止限界点って感じ。

伊織   あ、はい。すみません・・・直ちに。



伊織、忙しそうに、している。



上杉   終わっちゃったみたいだな。

有村   ええ。なんとか。

上杉   この子は・・・?

有村   レモンちゃんです。アップローダーにすっかり侵食されてしまったみたいで、・・・もう、ダメですね。

上杉   ダメじゃないさ。ここにレモンちゃんのオリジナルプログラムがあるから。

有村   上杉さん、どこでそれを・・・?

上杉   大統領に会ってきた。・・・・・・我々は大統領こそがアップローダーだと思っていたんだが、どうやら、側近がアップローダーだったらしい。大統領はその唯一の打開策を安全に保管する場所として・・・この子を選んだ・・・らしい。

有村   なんだか・・・悲しいですね。

上杉   悲しい?

有村   ええ。姿かたちと言う記号で、家族を認識し、こんな大切なものを託そうとするんですから。

上杉   なるほど。だが、それが人間ってものの面白いところさ。

伊織   送信、完了しました! ふたりとも、早く帰ってきてください!



上杉   帰ろうか。

有村   はい。



暗転。



薄明かり。



伊織、寝ている。

有村、はいってきて、



有村   伊織、いる? ・・・今日一日、頑張ったもんね。・・・お疲れ様。



暗転。



明転。

音楽がF.I.



有村   ふぁ・・・おはようございます。

上杉   おはよう。事件だ!

有村   ・・・事件。またですか。

上杉   有村、伊織、準備だ!

伊織   はいっ!

有村   昨日の今日で、よく元気だねぇ・・・

伊織   先輩・・・そこ頑張ってくださいよ!

有村   まあ、普通に頑張ってきまーす。

上杉   頑張れー。

伊織   普通に? 普通ってなんですかー!



エンディングが流れる中、段々暗くなって、暗転。



これにて閉幕。