緋蜜蜂が飛んでいく

作・なかまくら

2008.10.6

総長・・・・・・秘密結社の社長。野村さん(仮名)

山根・・・・・・総長の右腕。働いております。

斉藤ゆみ子・・・・・・二三歳、独身。妹のゆき子と父の仇を探している。

中年の男・ヒーロー1・・・・・・ゆみ子の殺したい人。苗字は斉藤。

謎のヒーロー・ヒーロー2・・・秘密結社のヒーロー(女)。苗字は真田。

猿渡・ヒーロー3・・・・・・・・・爆弾魔。ゆみ子の父を付け狙う。



エキストラ

男(キャスト的に無理なら、総長と兼役)





















若い女①     すいませーん・・・



とあるオフィスビルの一室。

ドアから顔を覗かせる若い女。しかし部屋の中には誰もいない。

壁には『一日一善』と書かれた張り紙があった。



若い女①     お邪魔しまーす。

男        お!

若い女①     お!?・・・お邪魔します

男        ようこそ。きみ・・・ここがどういうところか、分かっているんだろうね?

若い女①     わ、分かっているつもりです!(声を潜めて)秘密・・・結社ですよね

男        そうか。そこまで知られてしまったなら・・・ただで帰すわけには行かないな・・・・・・。

女        総長!何言ってるんですか、そんなこと言ったら・・・

男        社長と呼んでくださいといつも言っているだろう!

若い女①     ・・・呼んで、ください?

総長       ・・・ゴホン。それよりも!山根さん、お茶は淹れてくれたんだろうね。

女        もちろんです。はい、紅茶です。熱いので気をつけてくださいね。

若い女①     あ、ありがとうございます。それで、あの・・・

総長       そうだね。ここにたどり着いたからには、我が社の秘密を少しだけ教えてあげよう。

若い女①     よろしくお願いします!

総長       よろしい。まず、我が社の工作員だが・・・その数はゆうに十万を超えているのだ!

若い女①     えええっ!

山根       その嘘、もう辞めませんか?

若い女①     あ、嘘なんですか。

総長       いや、嘘じゃない。たしかにしっかり会員数は十万を超えている。

山根       パソコンでボタンをクリックしただけで会員になるやつですけどね!

若い女①     クリック詐欺じゃないですか!

山根       そうなの、うちの総長、ホンっト意味わかんないことにお金つぎこんでるの

総長       そんなことないぞ!我々の活動をメルマガで配信することで、やがて日本国民は我が社に同調していくことになる。そしてゆくゆくは、我が社こそが日本政府と呼ばれるようになるのだよ。君にわかるかな?この素晴らしい計画が。

若い女①     も、もちろんです!・・・・・・失礼ですが・・・これ、面接ですよね?

山根       ・・・・・・

総長       いつから・・・気付いていた?

若い女①     そうですね・・・たぶん先ほど咳払いをしたときです。なんとなくですが、山根さんの雰囲気が変わりましたので、あるいは・・・と。

総長       そうか・・・・・・じゃあ、そういうことにしようかな。

若い女①     え!?

総長       いいですよね、山根さん?

山根       ええ、構いませんよ。ええと、あなた、まさかとは思うけれど、履歴書を書いたりしてないわよね?

若い女①     も、もちろんです!そんなものは組織を危険にさらすだけですから。信じられるのは、自分と組織の目標だけ。

総長       ほう・・・

若い女①     私・・・自分で言うのも何なんですが、結構役に立ちますよ?大学も一応出てますし、国家公務員の資格なんかも持っています。

総長       ところであなたはどうして秘密結社に入りたいのかな?それから、どうやってうちに来たのかも教えてもらえないかな?

若い女①     私・・・・・・言わないとダメですか?

総長       これは面接だからね。

若い女①     ・・・・・・

総長       どうしても言えないというのなら・・・

若い女①     私・・・・・・許せない人がいるんです。

総長       ・・・・・・それはその、つまり

山根       その人をどうにかしたい、と言うことですよね?

若い女①     どうにかしたいのではなくて、殺したいのです。

総長       ・・・・・・

若い女①     殺したいのです。

山根       ・・・・・・どうして・・・って聞きたいけど、やめておくわ。あなた、それを聞かれたらどうしよう、って、すごくおびえた目をしてるから。

総長       ・・・・・・殺すって、そんな簡単に口にしていい言葉じゃないよ?

若い女①     言うは易し、行うは難し。そうですか?私はようやくここまできました。あと何歩か先にはあいつがいるはずなんです。

山根       ・・・・・・

総長       じゃあ、変わりと言っちゃなんだけど、もうひとつだけ、聞いてもいいかな?

若い女①     はい

総長       もしもだよ・・・・・・君の大切な人と組織、どっちかしか守れないとしたら、・・・君ならどっちを選ぶ?

若い女①     それは・・・・・・そんな質問、ずるいです。だって、これは面接なんだから・・・・・・だから、組織を選びます。でも本当は・・・

総長       よし。わかった。合格だ。君を正式にわが秘密結社の工作員として採用しよう。

若い女①     え、ホントですか!?ありがとうございます!

総長       ただし!さっき言ったこと、忘れちゃいけないよ。

若い女①     え?

総長       大切な人、組織。本当に大切なものはひとつしか守れないんだ。そうじゃなきゃ、自分の命を代わりに失うことになる。

若い女①     でもそれは・・・

総長       面接だったから?どんなに言葉を飾り立てたって、言ったことは事実だよ?

若い女①     ・・・はい。私頑張りますので!よろしくお願いします!

総長       うん。契約の準備をするから、明日同じ時間にここに来てくれるかな?

若い女①     はいっ!失礼します。



若い女①出て行く。



総長       ・・・ふぅ。緊張したよ。

山根       いいんですか?

総長       お茶が冷めちゃったな。おかわり、もらえないかな?

山根       いいですけど、もったいないので去年のやつ使いますよ?

総長       そんなケチらなくても・・・・・・。

山根       だって最近ボランティアに精を出しすぎてろくに稼ぎがないじゃないですか!?

総長       ・・・・・・おっしゃるとおりです。

山根       いつまでも表社会の私におんぶに抱っこでいるのはやめてください。私は、引きこもりたいんですから。

総長       ・・・だから、新しく採用しただろう、今。

山根       総長、あなたの考えることは本当にわからないです。本当はあの子が役に立つなんて思ってないんでしょうけど!

総長       ゆみ子ちゃんは優秀だよ?

山根       ゆみ子ちゃん?誰ですかそれ。

総長       ほら・・・



     総長の手にはゆみ子ちゃんの保険証が握られている。



山根       ・・・・・・いつの間に。

総長       まあ、油断も隙もあったわけだ。まだまだ青いね

山根       それよりも総長、あなたあの子の目を見ました?あの子の目はとてもじゃないけど、この世界で生きていけるような光を持っていませんでした・・・。

総長       そんなの、まだわからないさ。君だって初めはそうだっただろう?夢も希望も失って・・・

山根       だからあの子はまだ幸せを探してる!

総長       そうかもしれないなっ・・・と。

山根       あれ?どこへ行かれるんですか?

総長       うん。ゆみ子ちゃんの覚悟をちょっとだけ調べてくるよ。・・・留守を頼むね。

山根       ・・・はい。変な人に関わらないように気をつけてくださいね?

総長       わかってるよ。



     暗転。

     舞台変わって、病室。

     静かに眠り続ける女性の前にゆみ子ちゃんが立っている。



ゆみ子      ゆき子、お父さんのかたきは私が取るから。だから、ゆっくり休んでて。・・・今日、またあいつに一歩近づいたから。・・・怖くなんかないよ!今でも笑い声が頭にこびりついてはなれないの。おかしいよね、会ったこともないのに。正直言うとね、ちょっとだけ不安なんだ。でも大丈夫。私、大丈夫だから。じゃあね。



     ゆみ子の照明が落ちて、入れ替わりに総長に照明が当たる。



総長     斉藤ゆみ子ちゃん、二三歳。独身!ふぅーん、なるほどねぇ・・・

中年の男   ちょっとあなた何ですか?

総長     え?いえ、わたしは・・・

中年の男   ごまかそうったってそうはいきません。あなた、斉藤さんのこと調べてるんでしょ?そのイアホンはなんです?まさか・・・盗聴っ!

総長     待ってください。人を呼ばないのは、あなたもこちら側の人間だから。違いますか?

中年の男   ・・・そうですね。全くその通りです。でも、彼女は全く関係ありません。

総長     あなた・・・何か間違っていませんか?

中年の男   はい?

総長     こちらに未練を残したままでは、いずれ必ず取り返しのつかないことになりますよ?

中年の男   はあ。しかし、私は幽霊とかそういった類ではないので・・・別に未練たらたらでやっていきたいと思っていますよ。むしろあなたこそ、何か焦っているんじゃないですか?たとえば・・・ほら、大竹ビル十三階の事務所が燃えているとか??

総長     ふっ・・・そんなまさか・・・

中年の男   知っていますか?優れた嘘つきは本当のことを話すんです。まるで御伽噺か何かのようにしか考えられないようなことを見事やり遂げて、それを真剣に話すんです。彼らは嘘を言ってない。でも、彼らは嘘つきと呼ばれる。可哀想に、可哀想に、可哀想に。でもそんな彼らは可愛くて仕方がない!そうは思いませんか?

総長     ・・・・・・つまり、何が言いたい?

中年の男   今日のところはただの嘘です。

総長     そういうことなら、失礼させてもらうよ

中年の男   引っ越すのなら、夜がいい。それも、月のない新月の夜に。・・・少なくとも彼女には気付かれないように、そっと・・・ね。

総長     ご忠告、どうも。



     暗転。再び場面は事務所。



総長     ただいま。

山根     あ、遅かったですね?どうかしましたか?

総長     山根さん、荷造り、お願いできるかな?

山根     ・・・・・・五分いただければ。

総長     頼む。

山根     何かあったんですか?

総長     危険な奴にここを嗅ぎ付けられたみたいだ。一刻も早く離れた方がいい。

山根     もしかして、ゆみ子ちゃん?

総長     ・・・・・・あの子も当然連れて行く。

山根     やっぱりそうなんですね。

総長     あの子を放ってはおけない。・・・これはあくまで私の推測だが・・・おそらく私が遭遇したあの男は、ゆみ子ちゃんに人を殺させたいのだと思う。

山根     え!?

総長     秘密結社とはいえ、人ひとりこの世から消し去るなんてそんな簡単なことじゃない。だから、人をうまく使うんだ。

山根     なるほど。でも、どうやって・・・

総長     方法はいくらでもあるだろう?情報屋を騙って近づき、殺したい人物を犯人だと紹介する。うちのこともきっとあの男が教えたんだろうね。うちだってプロだ。なにかおかしいと思ったんだ。

山根     ・・・準備できました。

総長     うん。じゃあ、明星ビルの事務所に移ろうか。あそこの会社は何になってたかな?

山根     たしか・・・・・・なんでも屋みたいなのになっていたと思います。

総長     そうだったかな?まあ、よしとしよう。



     暗転。翌日になっている。



ゆみ子    おはようございます!・・・・・・え!?



     がらんとした部屋には誰もいない。



ゆみ子    ・・・・・・なんで・・・なんで誰もいないのよっ!

山根     こんにちは

ゆみ子    ・・・え!?

山根     時間があまりありません。急いでここを離れます。

ゆみ子    え、何が・・・

山根     口じゃなく身体を動かしなさい。

ゆみ子    は、はいっ!



舞台は新しい事務所に移る。壁には「一日一善」の張り紙が。



総長     やあ、すまなかったね、突然引っ越してしまって。

ゆみ子    いえ・・・何かあったんですか?

総長     いや、まあ・・・・・・ね。ちょっと。それより、新しい事務所へようこそ。

ゆみ子    ちょっと?

総長     いや、本当にたいしたことじゃないんだ。耐震偽装が発覚したとか、家に悪霊が取り付いてるとか、そんなレベルの話だよ。

ゆみ子    それがちょっとですか!?・・・・・・さすがは秘密結社。懐が広いですね!

総長     ま、まあね

ゆみ子    それで、契約書のほうは・・・・・・

総長     それなんだけど、ごめん!こんなだったからさ、準備できなかったんだ。もう少し待ってくれるかな?

ゆみ子    え・・・はい。わかりました。

山根     心配しなくても、あなたはちゃんと、うちのメンバーだから。

総長     うん。その通り。そうだな、ちょっとかけてくれないかな。少し話でもしようか。

ゆみ子    はい。

総長     いいかい?秘密結社で一番大事なことは?

ゆみ子    えーと・・・・・・なんでしょう?

山根     難しく考えることはありません。秘密ですよ。

ゆみ子    まんまですか・・・?

総長     そう、そのまんまだよ。秘密を作らないこと。これが大事なんだ。

ゆみ子    え?逆じゃないんですか?

山根     私たちにとって秘密はとても覚悟のいるものなの。秘密を持った数だけ、私たちは孤独になるわ。

ゆみ子    でも・・・・・・嘘をついたほうが幸せなことだってあります。

総長     もちろん今言ったことは、我々秘密結社の中で、ということだよ。社会に対しては我々は多くの嘘をついている。

山根     秘密は私たちの武器なの。情報に溢れかえる世界の中でわたしたちが生きていくための。でも、ひとつ扱いを間違えれば・・・つまり、もし嘘をついたら・・・

ゆみ子    もし嘘をついたら・・・・・・

山根     そうしたら私たちは、外の世界の人たちと同じになってしまう。

総長     だから、お互いに隠し事はなしだよ。いいかな?

ゆみ子    ・・・はい。



総長     さて!じゃあ、今日の仕事だけど。

ゆみ子    はいっ!

山根     あれ・・・そういえばまだ決めて・・・

総長     猫の捜索です!

山・ゆ    へ!?

総長     猫の捜索です。

山根     ・・・・・・

ゆみ子    ・・・にゃあ

山・総    へっ!?

山根     い、今のは!

ゆみ子    い、いや、なんでもないんです!その、すいません!気の迷いで・・・

総長     萌えだ・・・

ゆ・山    え?

総長     すばらしいじゃないか!日本を席巻するオタク文化。これを我が社も取り入れようというわけだな!?よし、もう一回やってくれ!

ゆみ子    え、そんな・・・

山根     私からもお願いするわ!・・・さあ

山・総    さあ!

ゆみ子    に、にゃあ~

山・総    ・・・・・・お?お、おお~・・・

ゆみ子    で、でも! 別にただ猫を探すわけじゃないんですよね?

総長     ん?いや、会社に依頼が来てたんだ。ええと、猿渡さんって人から。なんでも、愛猫のオリオンが行方不明だそうな。ん?どうかした?

ゆみ子    え!?え・・・いや、なんでもないです。

山根     思っていたのと違う?

ゆみ子    いえ、まあ・・・はい。その、ちょっと。

総長     まあ、何やるにもお金がないとね。というわけで、ひとつ探そうか。オリオンがよくいなくなるのは、このあたりらしいから、お昼食べたら探しに行こう。

ゆみ子    ・・・手分けして探した方がいいですよね?

総長     んー、まあ、そうだね。

山根     でも・・・

ゆみ子    じゃあ、決まりです。私、なんかお腹へってないので、先に行って探してますね。

総長     そう?うん。じゃあ、何かあったら連絡を頼むよ。

ゆみ子    はい。



ゆみ子、事務所を飛び出していく。



総長     ふぅ・・・疲れたよ。

山根     お疲れ様です。

総長     なんでだろうね。ゆみ子ちゃんは明るい元気な子だし、なにより、人に愛される子だよ。なのに、なんでうちなんかに来たんだろうね?

山根     さあ・・・。ただ、だからといって必ず上手くいく保証なんてないでしょう。私だって、昔は普通の女の子でした。

総長     女の子、ねぇ・・・。

山根     いけませんか?

総長     いや、なんだか面倒くさいなあ、と思っただけだよ。

山根     昼ごはん、どうします?

総長     出前でいいよ、出前で。

山根     分かりました。・・・今日は総長が電話かける番ですよ?

総長     ・・・何か余り物で済まそう・・・

山根     そうはいきません!私出前食べたいですから。

総長     電話、かあ・・・。しょうがない。ごほん・・・・・・あ、もしもし、そば・・・・・・ふた皿で。はい明星ビル五階です。はい。はい、お願いします。はい。はぁ・・・

山根     お見事です。

総長     ありがとう。



その時、謎のヒーローが飛び込んでくる。手にはバットを持っている。



謎のヒーロー とうっ!!

総長     なんなんだ、お前は!

謎のヒーロー チクショウ出やがったな悪党め!(ポーズを決めて)ヒーロー見参!

総長     いや、現れたのはそっちでしょう?

謎のヒーロー ええい、ぬけぬけと!赤面の恨み!

山根     え!?

総長     いやいやいや、私はなにもしてないよ?

謎のヒーロー 失礼。積年の恨み!!今日こそ果たしてくれる!

総長     だから知らないって!

謎のヒーロー とぼけるなっ!

山根     言いたいことはそれだけですか?(銃を向ける)

謎のヒーロー な、なんだそれは!脅しか?は、ハッタリだ。ハッタリに決まってる。あんたらみたいな悪の組織は滅びなければいけないんだ!!



謎のヒーロー、バットを構えて襲い掛かるも、山根がそれをかわして、謎のヒーローの足元に銃を発砲する。



謎のヒーロー あ、あぶなっ・・・

山根     脅しとハッタリは違いますよ?脅しは実際に使えないと意味がない・・・。そしてこれは脅しです。何もせずに出て行けば、こちらも何もしません。

謎のヒーロー その顔だよ。そんな済ました顔をして、あんたたちは平気で人を不幸にする!

山根     我々が何かしましたか?

謎のヒーロー とぼけるんじゃないよ!炭鉱爆破事件・・・

山根     !

総長     あれは!・・・あそこからは公害物質が・・・

謎のヒーロー そんなことはどうでもいいんだ!問題なのは、その時私の仲間が爆発に巻き込まれたってことだけ

山根     ・・・・・・それはお気の毒に。

総長     いくら出せばいい?

謎のヒーロー ・・・とことん救えないな!

総長     お互い様だろう?あんただって、秘密結社の人間だ。社会から除け者にされて、裏の世界に流れ着いたんだろう?

謎のヒーロー いや、私は表の世界のヒーローなんだ!

総長     表の社会に媚を売って、そうやって生きて楽しいのか?

謎のヒーロー うるさいうるさいうるさい!斉藤さんのかたきだ!これは正義の戦いなんだ。さっきあんたらの事務所から出てきた女の子・・・

総・山    !

謎のヒーロー 今頃は私の仲間の車の中かな・・・。では、さらば!はっはっはっは。



謎のヒーローはける。



総長     困ったことになったな・・・・・・。

山根     そんな事言っている場合じゃないでしょう!?早く助けに・・・ん?何を笑ってるんです?

総長     いや、君もゆみ子ちゃんを仲間だと思ってくれたんだなと思ってさ。

山根     何をバカなことを・・・

総長     なんにせよ、これで探しにいける。急いで行こうか。





暗転。

場面は変わって、どこかの路地裏。

     どうやらひとりの男が追い詰められているようだが、追ってはまだ来ない。



男          なんなんだよ、あの連中は!

ヒーロー1(斉藤)  とうっ!我ら

ヒーロー2(真田)  光の速さでやってきた

ヒーロー3(猿渡)  正義の味方

ヒーロー1・2・3  なのだぁー。しゃきーん(決めポーズ)

男          うわあ、きたぁ・・・もう勘弁してくれよ・・・

ヒーロー2(真田)  そうはいかない!赤面の恨み!・・・じゃなかった。積年の恨み!

男          しらねぇよ、そんなもん!

ヒーロー1(斉藤)  よーし、かかれ!必殺!袋叩きー

ヒーロー2・3    とうっ!ぽかすかぽかすか

男          待て、ちょ・・・

ヒーロー1(斉藤)  (観客席のほうを向いて)よいこのみんなは絶対に真似しないでね?

男          あんたら正義の味方なんだろ!?よい子じゃないのかよ。痛い、痛いって!

ヒーロー1(斉藤)  だってもう、いい大人だもーん。

男          いい大人がなにやってるんだよ!

ヒーロー2(真田)  はっはっは。これに懲りたら二度と犯罪なんてするんじゃないぞ。

男          ・・・・・・。

ヒーロー3(猿渡)  さて、と。出すもの出してもらおうか?

男          なんだよ・・・?

ヒーロー3(猿渡)  スった財布だよ。だしな。

男          あんたら、これ、どうする気だよ?

ヒーロー3(猿渡)  それはあんたには関係ないね。消えな!

男          チクショウ。何が正義の味方だよ!教えてくれよ・・・俺の正義の味方はどこにいるんだよ。息子たちが・・・待ってるんだよ!

ヒーロー1(斉藤)  それは・・・



     男、突如逃げ出す。



ヒーロー2(真田)  あ!・・・・・・

ヒーロー1(斉藤)  追わなくていい。・・・・・・帰ろうか。

ヒーロー3(猿渡)  ま、待ってくれ。

ヒーロー1(斉藤)  ん?どうした?

ヒーロー3(猿渡)  いや、それがな、秘密結社「大黒」の拠点を見つけたんだ。

ヒーロー1(斉藤)  なに!?それはほんとか

ヒーロー3(猿渡)  ああ、さっき偶然戦闘員が一般人とすれ違いながら出てくるのを見たんだ。多分間違いないと思う。

ヒーロー2(真田)  まさかこんな近くにあったなんて。

ヒーロー3(猿渡)  だが、今の戦いで消耗している。リーダーはあんただ。行くかどうかはあんたが決めてくれ。

ヒーロー1(斉藤)  ・・・・・・行こう。いつ移動するかもわからない。

ヒーロー2(真田)  でも・・・

ヒーロー1(斉藤)  発見できたのは人の出入りが盛んだったからだ。近いうちに何かやる気なのかもしれない。その前を、叩く・・・。五分だけ休息をとる。そうしたら案内を頼む。

ヒーロー3(猿渡)  ・・・頼まれた。



ヒーロー1(斉藤)、なにやら写真を取り出して眺めている。



ヒーロー2(真田)  斉藤さん、それ・・・

ヒーロー1(斉藤)  ああ、うちの家族だよ。上の子がこの前小学校を卒業してね。その時の写真なんだ。

ヒーロー3(猿渡)  へぇー。かわいいですね。

ヒーロー1(斉藤)  だろう?

ヒーロー2(真田)  お守りですか?

ヒーロー1(斉藤)  うん。でも最近ちょっと反抗期でね・・・

ヒーロー3(猿渡)  反抗期って。正義の味方も愛娘にはたじたじですか?

ヒーロー1(斉藤)  猿渡、お前も子どもを持ってみれば分かるさ。これがなかなか・・・(ピピッ、とアラームが鳴って)時間だ・・・。行こうか。



そこは炭鉱の中。薄暗いがわりと歩きやすい道が続いている。



ヒーロー1(斉藤)  まさか我々にもこんな日が来るとはな・・・。悪の結社の存在を知ってから我々には、安らかな夜がくることはなかった。この社会の中であたかも存在しないかのように扱われてきた者たちのこと。だが、そんな方法では社会は、世界は変えることができない。それを報せてやるんだ。

ヒーロー2(真田)  はい。

ヒーロー3(猿渡)  そこの角を曲がった先です。

ヒーロー1(斉藤)  よくやった。後ろは頼んだ。

ヒーロー3(猿渡)  はい。

ヒーロー1(斉藤)  いくぞ・・・3、2、1・・・



ヒーロー1、飛び出すと同時に身構える・・・も、なにもない。

振り返れば、真田が猿渡に腕をねじり揚げられ、爆弾を取り付けられていた。



ヒーロー1(斉藤)  おい、どういうことだ・・・。なにもない・・・な!?

ヒーロー3(猿渡)  くくくっ・・・ひゃっはっはっは・・・。嘘だよ。ここに大黒の拠点なんて元々なかった。第一、俺がこれから所属する組織の拠点なんて教えるわけないだろ?ぷっ・・・はっはっは。

ヒーロー2(真田)  猿渡、あなた、なんで・・・

ヒーロー3(猿渡)  俺は、いやになったんだよ。あんたらみたいにこそこそと世界をよくしようと動き回ることによ。どうせだったらどーん、とでっかいこと、したいんだよ。・・・・・・気付いちまったんだよ。あんたらじゃ、一生かかってもこの世界の何一つ変えられないってな!



猿渡、真田を斉藤のほうに突き飛ばす。



ヒーロー2(真田)  うわっ・・・

ヒーロー1(斉藤)  猿渡・・・お前・・・

ヒーロー3(猿渡)  その爆弾は特別製でね・・・娘さんがあんたにプレゼントした腕時計に反応するんだ。あんたが少しばかりの時間、そばから離れたら爆発するようになっている。

ヒーロー1(斉藤)  な、なんだと・・・

ヒーロー2(真田)  卑劣な・・・

ヒーロー3(猿渡)  ふっ、なんとでも言うがいい。(拳銃を取り出して、真田の足を撃つ)

ヒーロー2(真田)  ぐあっ・・・

ヒーロー1(斉藤)  な・・・

ヒーロー3(猿渡)  二人仲良く追いかけてこられても困るからねぇ。足止めは、させてもらったよ。じゃあな。

ヒーロー2(真田)  行ってください!

ヒーロー1(斉藤)  何を言うんだ!?そんなことをしたら君は・・・

ヒーロー2(真田)  見てください。この爆弾、どうせ時限式みたいです。時間がたてば爆発してしまいます。だったら・・・・・・え、斉藤さん何を・・・

ヒーロー1(斉藤)  ・・・爆弾を解除する。猿渡はひとつ大きな誤算をしていた。私は、昔爆弾の解体の方法を学んだことがあるんだ。・・・取り外しても爆発するようにしてあるか・・・。なら、コードを経由して切っていくしかないな・・・。



     薄暗い坑道に、コードを切る音が響く。

ゆっくりと暗転し、一気に明転。



ヒーロー1(斉藤)  なんだこれは・・・こんな配線は見たことがない・・・。

ヒーロー2(真田)  ・・・どっちかを切ればいいんですよね

ヒーロー1(斉藤)  ダメだっ・・・!間違った方を切れば君は・・・

ヒーロー2(真田)  ・・・・・・・・・じゃあ、猿渡に聞いてきてください。

ヒーロー1(斉藤)  ・・・え?

ヒーロー2(真田)  まだそう遠くには行っていないはずです。

ヒーロー1(斉藤)  確かにこの爆弾に私の時計は何も関係がなかった!だが、私がいなかったら・・・誰が・・・

ヒーロー2(真田)  どうせこのままじゃ二人とも・・。だったら、あなただけでも・・・。それに、娘さんはどうなるんです?

ヒーロー1(斉藤)  ・・・・・・。

ヒーロー2(真田)  可愛がってあげてくださいね。

ヒーロー1(斉藤)  分かった・・・・・・必ず戻ってくる。必ず猿渡から解除方法を聞きだして・・・必ず!

ヒーロー2(真田)  ・・・はい。待ってます。



     それぞれ、舞台の端へ。真田は、爆弾の最後のコードを切る。

その時、斉藤の走っていった方で、爆発が起こる。斉藤の走っていった方が暗

転。



ヒーロー2(真田)  そ、そんな・・・(爆弾をはずす)爆弾は外れました・・・。なのに・・・なんでこうなるのよ!



     真田の側、暗転。斉藤は、反対の端でうつぶせになっている。

そして、ゆっくりと起き上がる。

奥へと続く坑道は、埋められていた。



ヒーロー1(斉藤)  み、道が・・。俺か・・・。俺が・・・俺が真田を殺してしまった・・・・・・。俺が・・・。



     斉藤は、そしてゆっくりとはける。

     暗転。



     そこはどこかの路地裏。猫が一匹毛繕いをしているだけの静かな袋小路。

     ゆみ子がそうっと、近づいて、抱き上げる。それから、振り返った。



ゆみ子    つっかまーえた。

猿渡     おめでとう。

ゆみ子    ありがとうございます。これ・・・猿渡さんが考えてくださったんですよね。

猿渡     なにが?

ゆみ子    私が、組織の信頼を勝ち取れるようにって・・・

猿渡     俺は何もしてないよ?何も見てないし、聞いてない。

ゆみ子    そうですか。ありがとうございます。

猿渡     それじゃあ



総長、山根が現れる。一瞬早く猿渡がはける。



山根     ゆみ子ちゃん、怪我は・・・?

ゆみ子    え、何かあったんですか?

山根     え?

総長     ・・・い、いや、大したことじゃないんだ。ちょっと心配になってね。

山根     ゆみ子ちゃん、その猫・・・。

ゆみ子    はい。この子が探していたオリオンだと思います。首輪のプレートに名前が刻んであるので。

総長     うん。写真とも特徴が一致している。そうだね。いい仕事をしたね。

ゆみ子    そうですか?

山根     ええ。初めてにしては、出来すぎなくらいね。

ゆみ子    ありがとうございます。

総長     じゃあ、後は私たちでやっておくから、また明日、事務所まで来てくれるかな?

ゆみ子    私も一緒に・・・

山根     今日は疲れたでしょう?だから、家へ帰って休んだほうがいいわ。明日も頑張ってもらうんだから。

ゆみ子    ・・・・・・はい。

総長     それじゃあ、また明日。



総長、山根はける。それを、ゆみ子はひとり見送った。

     暗転。

     

     場所は公園。ゆみ子、総長、山根さんが集まっている。



ゆみ子    それで、今日私は何をしたら良いのですか?潜入調査ですか?それとも、敵の拠点の破壊とか・・・?

総長     うん。山根さん、説明よろしく。

山根     はい。本日の活動は、この近隣住民憩いの場、緑山公園の清掃です。

ゆみ子    はい?

山根     近隣住民憩いの・・・

ゆみ子    それはわかりました。でも!清掃が目的じゃないですよね?なにか・・・そう、例えば、政府高官の足跡の採取とか・・・・・・?

総長     ああ、なるほどね。

ゆみ子    なるほどって・・・

総長     ああ、何か不審な足跡とか見つけたら、まあ、写真でも撮っといてよ。写メで良いからね。

山根     まあ、そういうわけで本日は公園の清掃です。はいこれ、軍手とゴミ袋。

ゆみ子    え・・・あ、はい・・・その・・・

総長     ああ、そうだ。ひとつ言い忘れてたけど、我々はあくまで秘密結社の事業としてこれを行うわけだから、・・・くれぐれも不自然でないように振舞ってもらいたい。頼めるかな?

ゆみ子    は、はいっ!



     一同掃除を始める。



山根     総長、相変わらず人をその気にさせるのがお上手ですね。

総長     ・・・まあね。

山根     それで、総長はあの子に何をさせたいんですか?

総長     やだなぁ・・・私は何も・・・

山根     ・・・・・・

総長     ・・・その、そんな真顔で聞かないでください。

山根     じゃあ、何を?

総長     なんでもないよ。ちょっとまあ、うちのスタイルを知ってもらいたいだけ

ゆみ子    総長さん!ちょっときてください。

総長     何であの子まで総長って・・・社長と・・・いや、野村さんと呼びなさい!

ゆみ子    の、野村さん・・・って名前だったんですか?

総長     何言ってるんだ仮名だよ仮名。

ゆみ子    え、そんな大きな声でばらしちゃっていいんですか?

総長     あー・・・じゃあ、今日は内海さんにしておくよ

ゆみ子    え、なんか意味なくないですか?もういろいろばれてますよ

総長     だから、今日は・・・

ゆみ子    そういえば名前ってどうやって決めてるんですか?

総長     ただの思い付きだよ

ゆみ子    思いつき!?そんなテキトーでいいんですか

山根     ・・・・・・なるほど

ゆみ子    あ、山根さんも早く!

山根     どうしました?

ゆみ子    ちょっとこの足跡見てください。この尖ってるとこ、ナイフか何か仕込んであるように見えるのですが・・・

総長     どれどれ・・・うーん・・・うーん?(と山根さんのほうを見る)

山根     たしかに、そう見えますね。昨日の夜は雨でした。

ゆみ子    ということは・・・これは今朝ついた足跡ってことですね!おお・・・なんか私たち探偵みたいです。

総長     なるほどなるほど・・・そして、足跡をたどると・・・

ゆみ子    ・・・・・・マンホール。地下組織でしょうか!?

総長     かもしれないな

ゆみ子    なんか怪しいです!負けていられません!

総長     うーん・・・

山根     危険ですよ?

ゆみ子    危険など覚悟の上です!

山根     下手をすれば、中が組織の拠点になっている可能性だってありえます。

ゆみ子    じゃあ・・・

総長     そうだな・・・・・・(コロッと変わって)よし、行こう!

ゆみ子    そうですよね危険ですよね・・・でも・・・って、えぇ!?

総長     よし。そうと決まったら、・・・先に様子を見てきてもらえるかな?斥候はちょっと危険な任務だけれど、お願いできるかな?

ゆみ子    ま、任せてください!

総長     うん。じゃあ、よろしく頼みます。

ゆみ子    ・・・五分たって戻ってこなかったら・・・・・・できれば助けに来てください。

総長     よし。了解です。よろしく。



ゆみ子はける



総長     ゆみ子ちゃん、ノリノリだねぇ・・・

山根     ノリノリですね・・・。ふぅ・・・この人ですか?

総長     うん、この人だよ。

中年の男   これはこれは明星ビルの清掃会社の皆様。お久しぶりです。お連れの女の子は誰ですか?ちょっと見かけたことがある気がしてねぇ。

山根     失礼ですが、どちら様でしょうか?

中年の男   なに、わざわざこの辺りを通りがかったただの通行人ですよ、今日はね。

総長     いったい彼女に何をさせるつもりなんだ

中年の男   何を・・・?それはこっちが聞きたいくらいだ。私は彼女にかかわる気はない。ただ、遠くから見守っていられればいいんだよ。

総長     え?

山根     いわゆるストーカーってやつですか?

中年の男   う・・・あながち間違ってはいないが・・・実際にそういわれると想像以上に傷つくな・・・。ううっ・・・古傷までも・・・。

総長     しかし、放っておけば彼女は人を殺し、殺されてしまうだろう!それが目的なのだろう!?本当のことを言ったらどうなんだ?

中年の男   いったい何を言っているんだ?私はただ・・・

総長     ・・・・・・・・・

山根     ゆみこさんは、父親の仇を討とうとしているんですよ?

中年の男   そうなのか!?・・・・・・しかし、それは無駄だよ。その仇はもうこの世にはいないから。父がいなくなったのは、あの子の幸せのためには仕方のないことだったんだ!・・・・・・彼女にはそう伝えて・・・・・・それから、さっさと彼女の前から消えてほしい。それが私からの要求だ。守られなければ今度こそ・・・・・・

山根     ちょっと待ってください。ということは、我々の事務所を彼女に教えたのは誰でしょう?

総長     ああ、そういえば

中年の男   まて、どういうことだ?

山根     我々だって、そう簡単に見つかるようなことはないはずです。彼女のような一般人がそれを知る可能性なんてほとんどゼロに等しいはずです。

中年の男   ・・・・・・つまりどういうことなんだ?

総長     誰かが、彼女に父親の仇を討たせようとしている。私はそれがあなただと思っていた。しかしあなたは・・・・・・

中年の男   それは私ではない!

山根     つまり、第三者がいるんです。彼女に本当に人を殺させようとしている誰かが。・・・・・・そういえば彼女は・・・

総長     中に入ったきりだ・・・ああっ、これってもしかしてまずいのか!?

山根     至急、助けに向かいましょう。何かあったのかもしれない。

中年の男   いったい何をやってるんだあんたたちは!?ゆみ子!



中年の男マンホールに飛び込む(普通にはける)



総長     ・・・・・・やっぱりね

山根     え?何です?

総長     いや、ちょっとね

山根     総長・・・隠し事は、へそくりだけにしませんか??

総長     わ、分かった!だから、見逃してください!

山根     それで?

総長     うん、だからあの人は・・・・・・



暗転

場面変わって、地下通路



中年の男   ゆみ子!・・・猿渡、やはりお前かっ!

ゆみ子    この人・・・なの?

猿渡     そうだよ、斉藤さん。こいつが君のお父さんを殺したんだ。さあ、その手首に巻いた爆弾でお父さんの仇を討つんだ!

ゆみ子    で、でも・・・・・・

猿渡     何を迷っているんだい?簡単なことだよ。さっきも説明したけど、その爆弾についているボタンを押せばいいんだ。大丈夫、彼は逃げはしないよ。彼も君を殺したがっているんだから・・・・・・

中年の男   そんなバカな話があるか!私はゆみ子の・・・・・・

猿渡     斉藤さんの・・・・・・なんだって?後半聞き取れなかったよ?

中年の男   ・・・・・・

猿渡     (中年の男に近づいて)父親だ、なんて言えないよなぁ・・・・・・。

中年の男   ゆみ子・・・さん。聞いてくれ。私は・・・本当に申し訳ないと思っている。だが、君がその命を賭けるような・・・そんな真似はしないでほしい!

猿渡     ハッ、何を言ったところで、許しなどない。だって、お前はこの子の父親を殺したんだぞ!・・・・・・ごめんね、斉藤さん・・・そんなものしか準備できなくて。

中年の男   ぐ・・・・・・

ゆみ子    いえ・・・・・・猿渡さん・・・離れていてください。あなたまで爆発に巻き込まれてしまう・・・・・・。

猿渡     斉藤さん・・・・・・じゃあ、健闘を祈るよ。

ゆみ子    ありがとう・・・ございます

猿渡     そうだ、斉藤さん。(振り向きざまに、銃で、ゆみ子の足を撃つ)

ゆみ子    ぎゃっ・・・

猿渡     あなたに追いかけて来られると困るのでね。それではごきげんよう。



猿渡、去り際に中年の男に近づいて



猿渡     仕組みはあの時と同じだよ。あんたが真田を見殺しにするとは思わなかったけどな・・・。今度も見捨てるか?それでもいいぜ?俺はまたあんたの大切な人を奪ってやるからな。じゃあな。

中年の男   ・・・猿渡ぃいいいー!!



猿渡、はける。



中年の男   ゆみ子・・・さん?

ゆみ子    助けて・・・誰か助けて!

中年の男   分かった!今行く!

ゆみ子    あなたは来ないで!



総長、山根はいってくる。



総長     やっとついた・・・・・・

山根     こっちが近道だとか、総長が意味のない自信を見せるからですよ!

総長     申し訳ないっす・・・・・・と?

山根     お取り込み中ですか・・・

中年の男   ・・・・・・背に腹は変えられないか!あんたたち、ゆみ子を・・・頼む。

ゆみ子    まて、逃げるな!

中年の男   同じハッタリが二度も通じるわけがないだろうに。

ゆみ子    え?

中年の男   ・・・落ち着いて聞いてほしい。私は猿渡から解除方法を聞きだしてくる。そうしたら必ず戻ってくる。だから、待っていてほしい・・・・・・。

ゆみ子    え?・・・・・・



中年の男はける



ゆみ子    ・・・・・・お父さん?

総長     そうだよ。おそらくあの人は君の父親だろう

ゆみ子    そんな・・・でもだって

総長     でも、いたほうが良いじゃないか。さて、その爆弾、取り外そうか。

ゆみ子    でも、そんなこと・・・

山根     できるわよ、総長なら。

ゆみ子    え?

山根     この人、普段は頼りないけれど、いざって時は信じられないほど信じられるの。この人は、そんな時絶対に逃げないから。

ゆみ子    山根さん・・・・・・?

山根     だから、あなたも信じてあげて。私たちの総長でしょ

ゆみ子    ・・・・・・はい



音楽

徐々に暗転。

明かりがつくと、公園に総長がひとり、たっている。



中年の男   彼女は・・・?

総長     ・・・・・・・・・(首を振る)

中年の男   そ、そんな・・・・・・そんなバカなことがあるか!

総長     彼女は保護しましたよ

中年の男   え?

総長     彼女はいま私の新しい事務所にいます。

中年の男   ・・・・・・私をだましたのか?

総長     やっと本当のあなたが見えてきました。あなたは、ゆみ子ちゃんとどういう関係ですか?

中年の男   ・・・・・・関係ないだろう

総長     関係ありますよ。彼女は正式にうちの工作員になりましたから。

中年の男   手を引けといったはずだ!

総長     そうですね

中年の男   ・・・・・・彼女をどうするつもりだ?

総長     五百万で手を打ちませんか?

中年の男   何をふざけたことを・・・・・・

総長     あなたの娘の身代金です。安いものでしょう?

中年の男   なぜそれを・・・・・・。

総長     そうだな・・・お金の受け渡し場所は県立病院。期日は一週間後とか、どうでしょう?

中年の男   ・・・・・・分かった。

総長     そうしたら、どうするつもりです?

中年の男   ・・・・・・どうもしないさ。今まで通りだ。

総長     そしてまた、彼女たちは巻き込まれるかもしれない。でしょう?

中年の男   あれは事故だったんだ。私を狙う猿渡の悪質な罠だった。もう、あの子たちを直接見たいなんて贅沢は言わない。もっと遠くから、見守ろうと思う。

総長     それでいいんですか?

中年の男   身代金は言われたとおり用意する。それでもう十分だろう!?

総長     私は納得しませんが・・・・・・

中年の男   だから、お金がものを言うんだろうさ。ホントに・・・・・・いやな世の中だ。

総長     まったくです。それでは・・・・・・一週間後に。



ふたりともはける。

暗転。

舞台は事務所に壁には「一日一善」と書かれた紙が貼ってある。



ゆみ子    おはようございます!

山根     おはよう。総長は?

ゆみ子    まだ見てませんが・・・・・・

山根     寝坊ね・・・・・・。

ゆみ子    でも、なんだか安心しますよ。

山根     そうなの?

ゆみ子    なんだか、平和だなぁ・・・って。

山根     ・・・・・・・・・

ゆみ子    ・・・・・・・・・

山根     ねえ、なんで、やめなかったの?

ゆみ子    ああ・・・そろそろ聞いてくるころかなぁ、と思ってました。・・・そうですね・・・なんででしょうね。総長に惹かれたというか・・・やっぱりあれがお父さんだったなら、ここにいればまた会える気がして

山根     そうなんだ。あんなに怖い思いしたのに・・・お父さんに会いたいんだ?

ゆみ子    ・・・はい。・・・やだなぁ、なんだか真面目な顔して聞かれると照れますよ

山根     それにしても起きてこないわね・・・・・・総長のへそくり、もらっちゃおうかなぁ

ゆみ子    え!?へそくりなんてしてるんですか!?

山根     そう!でも・・・隠し場所を変えたみたいなの。

ゆみ子    あっ、そういえば昨日山根さんが帰った後、そこの引き出しでなんかコソコソやってましたよ?

山根     へぇぇえ!そうなんだー?

総長     うわああああ!そこには何もないよ、何も・・・・・・。ふぅ・・・

山根     やっと起きましたね。じゃあ、明日の活動を説明しようと思います。



山根が取り出したのは・・・



ゆみ子    え・・・それは・・・?

総長     正真正銘、本物の爆弾です。

ゆみ子    ・・・・・・え(乾いた笑い)

総長     うちはね、創業記念日だけ、世の中の悪を倒すどえらいことをしてきたんだ。今年は、県立病院を爆破しようと思う。

ゆみ子    ・・・・・・なんで・・・

総長     あの県立病院はあれこれ理由をつけては膨大な治療費を患者から請求しているんだ。

ゆみ子    そ、そんなことないです!

総長     何でそんなことがゆみ子ちゃんに分かるのかな?

ゆみ子    そ、それは・・・・・・

総長     それは?

ゆみ子    い、妹がいるんです!今まで隠していてごめんなさい。妹が入院してるんです。

総長     そうか・・・じゃあ、早めに他の病院に移してもらったほうがいい。

ゆみ子    でも、他にも大勢の人が・・・・・・

総長     悪を正すためには、多少の犠牲は必要なんだ。分かるね?

ゆみ子    多少・・・って・・・

総長     じゃあ、実行は明日だから、それまでにこの計画書をよく読んでおくこと。解散!

山根     ・・・・・・・・・

ゆみ子    ちょっと待ってください!

総長     え、何か問題でも?

ゆみ子    どうしてそうなるんですか!?どうしてそんなことするんですか!

総長     どうしてか・・・って、それは決まってるよ。私たちは今のこの社会が嫌いなんだ。それを何とかしたいんだよ。

ゆみ子    だったら・・・病院が悪いことをしてるなら、警察に通報すればいいじゃないですか!そうしたら・・・

総長     そうしたら、病院のトップが捕まるね。でも、それだけだ。他にもそんなことをしているところは星の数ほどあるんだ。そんな連中は「ああ、あいつらは運が悪かった」と思うだけだろうね。

ゆみ子    でも・・・

総長     それに、みんながみんな、それを言えるわけじゃない。自分のために、良心を押し殺して生きている奴だってたくさんいる。だから、私たちのような裏道を歩く人間がいるんだ。そんな社会には、もう、飽きたんだ。

ゆみ子    総長・・・さん・・・

総長     明日は大仕事になるよ。しっかりと計画書を読んで、早く寝ること。いいね。じゃあ、解散!



暗転

舞台は病院



山根     いいですか?何事もないように座って、置く。そして、何事もないように立ち去る。これが大事です。監視カメラにも気をつけてくださいね。

ゆみ子    ・・・・・・はい。

総長     ・・・・・・ついてこないと思ったよ。

ゆみ子    私は、やめてほしいんです。総長さんも・・・山根さんも・・・。似合わないですよ・・・爆弾なんて・・・・・・。

総長     ・・・そうかな?

山根     ゆみ子ちゃん、私たちは何もおふざけで秘密結社なんてものを作ったわけじゃないの。私たちは、今の世の中が嫌いなの。それを変えたいと思った。それなりの覚悟を持って、思ったの。だから・・・・・・

ゆみ子    でも、変える方法だって他にももっとあるはずです・・・

山根     ・・・・・・

総長     ・・・・・・そうかもしれないなぁ・・・

ゆみ子    え、じゃあ!

総長     でも、そうじゃないかもしれない。今まで頑張ってきて、でもやっぱりダメだったから。ゆみ子ちゃんはもう、敵討ちしないんだよね?

ゆみ子    ・・・はい。お父さんが生きてるって分かったし・・・

総長     じゃあ、もし本当に死んでたら、どうしただろう?

ゆみ子    そ、それは・・・・・・もしももしもはずるいです。

山根     私たちはきっと・・・・・・自分たちの敵討ちがしたいの。

ゆみ子    自分達の・・・?

山根     そう。世の中は私たちを受け入れてくれなかった。私たちは神様じゃないから・・・・・・嫌われたら、その人達のこと、嫌いになっちゃうんだ。

ゆみ子    で、でも!私の敵討ちはやめさせてくれた!私にだって、ふたりの敵討ち、やめさせるチャンスをください!

山根     ・・・・・・

総長     チャンス・・・ね・・・チャンスって、自分で見つけるものなんだよ。

ゆみ子    分かっています。

総長     ・・・・・・じゃあ、ここからは手分けしてやろうか。私は三階、山根さんは二階。一階はゆみ子ちゃんにお願いしようかな・・・・・・?

ゆみ子    ・・・はい!・・・・・・必ず、とめて見せますから!



ゆみ子、はける。



総長     まぶしいねぇ・・・

山根     いいんですか?

総長     我々は確かに世の中から締め出された。でも、こうやって、誰かとつながってるってことは、まだどこかこの世に未練があるんじゃないかって思ってね。だから、生きているんじゃないかな。じゃあ、私は三階へ行くよ。ああ、身代金はもらっとこうよ。せっかくだしさ。

山根     了解です。



暗転

一階ロビーにて



中年の男   ・・・・・・

山根     こんにちは

中年の男   金は用意した。彼女を返せ

山根     はい。

中年の男   中身は確認しないのか?

山根     何故です?

中年の男   いや、特に理由はないが・・・

山根     娘のためにならないことはしないでしょう?

中年の男   私も甘く見られたもんだ。

山根     ・・・・・・そうだ。ついでにもうひとつ。ここだけの話ですが・・・今、この病院には爆弾が無数にセットされています。

中年の男   ばく!・・・だんだと・・・あんたら今度はいったい何を・・・!?

山根     大丈夫です。安心してください。ここにこの病院の地図があります。赤くチェックされたところに爆弾が置いてあります。赤いコードと青いコードがあるので、青いコードから切ってください。それで爆弾は止まります。

中年の男   何故私にそんなことを?

山根     さあ?うちの総長がそう言ったので・・・・・・ああ、それから・・・



暗転



ゆみ子    どうすればいいの?とりあえず見つけられるだけ全部回収したけど私には・・・・・・

中年の男   貸してみなさい。

ゆみ子    お・・・・・・お父さん?

中年の男   もう十年も会ってないのによく分かったね。そうだ。爆弾魔から手紙を預かったんだっけ・・・。

ゆみ子    手紙?

中年の男   はいこれ。読み終わったら燃やしてくれって。

ゆみ子    ・・・・・・

中年の男   爆弾はこれだね・・・どれどれ?

ゆみ子    ・・・ありがとう。ありがとう。

中年の男   いち、にい、さん・・・そこに地図があるから、爆弾が残ってないかチェックしてきてくれないか?

ゆみ子    ・・・・・・

中年の男   ・・・・・・どうした?

ゆみ子    どっか行ったりしないよね?

中年の男   ・・・・・・

ゆみ子    いやだよ?またいなくなるなんて・・・絶対いやだよ?せっかく会えたのに・・・・・・

中年の男   ・・・・・・大丈夫。ちゃんとここにいるから。

ゆみ子    ・・・うん





エピローグ



駅のホームにゆみ子がいる。電話越しに話をしている。

駅は人で混み合っていて、話し声は、その中に埋没している。



ゆみ子    うん。そっか・・・・・・やっぱりもう、会えないのかなぁ・・・。ううん。いいよ。それより、早く就職しなくちゃね。今日は横浜に泊まるから、うん、うん、・・・・・・あ、電車来たみたい。じゃあ、切るね・・・うん、バイバイお父さん。



暗転。

ホームに電車の入ってくる音。

人の声がますますうるさくなる。

少しの停車の後、ドアが閉まって発射する音がする。

これにて閉幕。