ミナイミライ

作・なかまくら

2015.12.31

登場人物

亀竹(かめたけ) ・・・ 亀竹宗二郎。未来通信研究所で携帯電話の開発をしていた。

薬袋(みない)  ・・・ リリィと呼ばれていた。助手。

黄野(きの)   ・・・ トゥモローコーポレーション所属。未来人。

足達(あだち)  ・・・ 亀竹の友人。





占い師 自分の未来が知りたいって?



舞台にはふたりの人間が。占い師の前には水晶があり、水晶の前にはカメの甲羅を背負った男が座っている。



亀竹 ・・・・・・ええ。未来が見えないんです。どうしたらいいですか?



ふたりの前に悪い大人たちが現れる。大人たちは口々に言う。



大人1 そんなこともできなくてどうするんだ!

大人2 約束は守るためにあるんだよ。

大人3 ねえ、私の言ってること間違ってるかな?

大人2 だいたいカメはいつだって遅いんだ。

大人3 カメだから仕方がないとか言わないでね。そういうの今いらないから。



亀竹  誰もがもの分かりよくハイそうですかなんて生きてはいけないのです。



カメ、走り出す。音楽。



大人3人 その瞬間!

大人1  カメは、ぐんぐん加速する。

カメ   地球はぐんぐん小さくなる。

大人2  カメはどんどん小さくなる。

カメ   太陽はどんどん大きくなる。

大人3  カメはまったく見えなくなった。

大人1  浦島太郎はちぎれ飛んだ。

大人2  イカロスは燃え尽きた。

大人3  カメはまったく見えなくなった。

4人   それも光の速さで!



カメ   僕は方向を転換する。

大人2  我々は方針を変更する。

大人1  携帯電話はいかがっすか~。

大人3  未来へ向かう携帯電話。

大人2  あなたの言葉を伝えます。

大人1  あなたの思いを伝えます。

3人   それも光の速さで!



大人1  私は世界一周旅行に行って参ります!

大人2  私はかれこれもう10年も海を揺れるタンカーで探しています。

大人3  SOSの石畳も造りました。

大人1  地平線のその先に彼が居るんじゃないかって、老いさらばえた目で探したものです。



大人3  彼の姿を探したのです! 夢の形を追いかけるように、彼の姿を探したけれど、

大人2  探すけれど、

大人1  探そうとするけれど、

大人3  地球を七周半も回った頃には、我々も変わったものでした。けれども、





占い師  大人たちは尽きるその命の果てまで探したんだ。



亀竹   僕はぽつりと浮かんでおりました。ぐんぐん加速して。

大人1  それも光の速さで。

亀竹   気がついたら見たこともないところまで来ていたからあわてて戻ろうとして、

大人2  それも光の速さで。

大人3  戻ってきたら、こうなっていたのです。





占い師 さて。今回のこの一件。誰が悪かったでしょう!?





大人1  私が悪かったんだ。

大人2  私こそ悪かったんだ。

大人3  いえいえ、私が。

亀竹   あの、僕が。



大人3人 そうだよ。お前が悪かったんだ。

亀竹   なんだよ。はめられたんだ!



大人3人 その瞬間!

大人1  カメはぐんぐん加速する。

大人2  それも光の速さで。

大人3  それも光の速さで。はえー。



占い師、ひもを引っ張ると、カメが釣れる。



占い師  あのねぇ。

亀竹   僕のせいじゃないんだ。浦島太郎はどこにいったんだ。





亀竹、逃げる。占い師、追いかけない。



部下   薬袋(みない)課長。

薬袋   うん?



よくみれば、そこはオフィス。占い師は課長と呼ばれる。



亀竹   お仕事中、失礼します。

薬袋   ええ。

亀竹   ・・・。

薬袋   ・・・。

亀竹   ・・・お呼びでしょう。

薬袋   そうだ。どんな気持ちだ?

亀竹   嫌な予感です。

薬袋   そうだろうそうだろう。ぐふふ・・・。

亀竹   なんでそんなに嬉しそうなんですか。

薬袋   なんでだろうな。なぜだか、そんな気持ちなんだ。

亀竹   失礼ですが、愛の告白ですか?

薬袋   失礼な奴だな。

亀竹   すみません、分不相応で。

薬袋   身分の違う恋に憧れちゃうお年頃か。

亀竹   へぇ、そのようで。

薬袋   これ、仕事。明日までにやっておいてね。

亀竹   あのですね・・・、薬袋課長、覚えてらっしゃいます?

薬袋   なにかな?

亀竹   ほんの30分前に山の様な仕事をあれしましたよね。

薬袋   あれしたね。まだなの?

亀竹   動かざること、山の如しです。

薬袋   ウサギのようにはいかないか。

亀竹   新作のラビットフォン、使ってみました?

薬袋   うん。

亀竹   どう思います?

薬袋   どうって、まあ、ウサギよりネコの時代だから・・・

亀竹   そう思うでしょう!?

薬袋   冗談だ。

亀竹   え?

薬袋   冗談なんなんだが。

亀竹   にゃー。

薬袋   (ぴく)

亀竹   うにゃ~ん。

薬袋   (ぴくぴく)・・・何の真似だ。

亀竹   ・・・・・いえ。ただ、

薬袋   ん?

亀竹   なんとなくですよ?

薬袋   ええ。

亀竹   なんとなく、僕にもあれくらいなら作れそうな気がするな・・・なんて。

薬袋   ・・・冗談だろうな。

亀竹   え、ええ。

薬袋   冗談でも許さん!

亀竹   ひぃ!えぇ!

薬袋   仕事しろ!

亀竹   し、失礼しましたー!!



亀竹、はける。

黄野が入ってくる。



黄野   課長さん。

薬袋   確かに、私の肩書きは、課長さ。だがね、

黄野   いいの。それよりも、亀竹さん。

薬袋   うちの亀竹がなにか?

黄野   放っておいていいのかな? って思ってね。

薬袋   いいんだよ、あいつはああいうやつだ。

黄野   ああいうやつって、こういうやつって、そうやってすぐに決めつけるんだから。くないと思うなあ。そうやって、人の未来を決定づけようってするんだから。

薬袋   私の肩書きは、そういう肩書きだから。評価して、使える奴にボーナスを。使ない奴には別れを告げなくてはならない立場だから。あんまり仲良くなってもね。

黄野   課長さん、課長さん。課長さんだねぇ。気になってるんでしょ、ホントはさあ。

薬袋   薬袋さんと、呼んでくれないかな。なんか、その課長さんっていうの、慣れないんだ。もう10ヶ月にもなるのに。

黄野   スルーなんだ。お似合いだと思うのに。お見合いの話、来てるんでしょう?

薬袋   なんのことだか。ん、どうしてそれを?

黄野   いいえ、あと5分でお昼ね。亀竹さんは、だいたい屋上だから。

薬袋   私には関係がないことね。



薬袋、はける。



黄野   ねぇ、本当にあなた達は、それでよかったの?



黄野、はける。





舞台の端。電話をしている。



亀竹   僕の仕事? 僕は、携帯を作っているんだ。

足達   そうなのか。

亀竹   そうさ。

足達   今は何をしているんだ。

亀竹   携帯を売っているんだ。

足達   作るのはどうしたんだ。

亀竹   それは・・・、

足達   わかった。何かやらかしたんだな。

亀竹   悪い。うまく言えないんだ。

足達   うまく言えないのか。

亀竹   なあ、足達よ。

足達   なんだ。

亀竹   お前は、いまどこでなにをしているんだろう。あの頃共に学び遊び花火した俺達は、どこへ行ってしまったんだろうな。

足達   それは、なんだ。想像したいのか? それとも、俺に聞きたいのか?

亀竹   まずは現実的に。

足達   うん。今ね、俺は、ある事件を調べているんだ。

亀竹   探偵気取りで?

足達   そうそう、探偵気取りで。

亀竹   どんな事件?

足達   不思議な事件でさ。誰が殺されたのかもはっきりしないんだ。

亀竹   ほう。

足達   ただ、ある廃工場で、今から10ヶ月前の12月19日、2人の男女が殺された。それだけははっきりしている。なぜだか、すごく印象に残っているんだ。ところがどうだ、この事件は明るみに出ていない。

亀竹   よくわからないな。

足達   俺はね、隠蔽されたと思っている。これを突き止めないといけない、そう思うんだ。

亀竹   うん、がんばれ。ちなみに、想像のほうは?



足達   え、あーうん。・・・そうだな。俺はちょうど、デリーシャス惑星の輪のサンプルの採集が終わって、一週間のオフにはいったところさ。

亀竹   それはいいな。

足達   いいだろう。こっちにこいよ。こっちはいいところだ。

亀竹   いや、いい。こっちもいいところだ。

足達  これからそうなるのか?

亀竹   そうだといいなって、そういうことさ。

足達   そうか。そろそろ午後のタイムラインが動く頃だ。俺はもう行くよ。

亀竹   ああ、ありがとう。何かあったらまた連絡するよ。

足達   何もなくてもいいんだよ。連絡ぐらい。お前の作った携帯で、俺は連絡を待っているぞ。・・・銀河の彼方で!

亀竹   ああ。





黄野   もし、

亀竹   ・・・

黄野   もし、そこの若人。携帯は売れているかね?

亀竹   何をやっているんですか、黄野さん。

黄野   そう。いかにも黄野だが。

亀竹   その格好はなんですか?

黄野   占い師だが。

亀竹   マッチ売りの少女じゃないんですから・・・。

黄野   マッチ売りの・・・

2人   少女? ・・・おろろろろ。

亀竹   おばさんが少女気取らないでくださいよ。

黄野   若干の無理があったねー。若干ねー。

亀竹   ・・・え、ええ。若干?

黄野   そして、携帯を売らない私は・・・(ちらっ)、総務部の携帯を売らない私は・・・(ちらっ)

亀竹   なんですか。言いませんよ。言いませんよ。言いませんよ。紫のかぶりもの、怪しげな水晶。

黄野   私の使命・・・それは占い師。そう、占い師。占い師なのに、携帯を・・・

亀竹   言いませんよ。うっ・・・。もう、なんなんですかっ!

黄野   言え。

亀竹   言いません。

黄野   誰か・・・誰か。

亀竹   誰にも言いません。

黄野   何を?

亀竹   えっ?

黄野   なにか、あるんだろう。

亀竹   ・・・。

黄野   確かに。青年の悩みを共有するには私では役不足かも知れない。でもね、違うんだ。昔は私も若かった!

亀竹   違わないですよ。そういうろくでもないものですよ。

黄野   でも、七でもないし、八でもないことだ。

亀竹   は?

黄野   それは、九。クエスチョン。自分が体験したあれは、いったい何だったのか。そして、その直後に伝えられた開発から営業への配置転換。

亀竹   どうしてそれを・・・。

黄野   あれはいったい夢だったのか?

亀竹   夢。

黄野   だが、夢にしては妙にリアルなそれだ。現実は隠され、事象はわい曲されてしまったが、魂は覚えているんだ。そうして10ヶ月、その疑問が晴れないんだろう。



TRUUUUU

電話。



亀竹   はい、もしもし・・・



電話に出ると、照明が変わる。10か月前である。



このシーンでの明郷は音声での登場。(薬袋の声)



明郷   「どうしてこの携帯の電話番号が?」そう言いたいんだろう。

亀竹   どなたですか? 僕の知らない番号だ。





隣にいる黄野に声をかける。

亀竹   ここは・・・?

黄野   ここは未来通信研究所。君と課長さんが10ヶ月前までいた場所よ。

亀竹   ここで僕が働いていた・・・?

黄野   今は事故を理由に閉鎖されている。





亀竹、携帯を伏せて、



亀竹   リリィ、逆探知だ。出来るな?

リリィ  はい。やってみます。



明郷   私は、明郷。次世代通信研究所の亀竹宋次郎というのは、君であっているかな?

亀竹   さて。そうだったかな? 最近、働きづめで、記憶が曖昧になっているんだ。今日は、何月何日だったかな? それとも、地球が何周回った頃だろうか?

明郷   時間をかけたところで私がどこから電波を送っているかということを君が知るすべはない。だが、偶然にしてはできすぎているいい質問だ。お答えしよう。今は、地球が誕生してから1億6千8百万回とんで何回か回った2月3日。分かるように言うならば、今は、君たちがいる世界からちょうど、1年後の世界なんだよ。

リリィ  亀竹さん(首を横に振る)

亀竹   一年後の世界・・・?

明郷   そう。君が今開発しているその端末、時間を飛び越える電話、ラビットフォンが、それがこれから歴史を変える。それもとびきりに悪い方へとね。

亀竹   あのですね。

明郷   ああ、君もそう言うんだろう。

亀竹   そんなことを信じられるわけがない。

明郷   電波の発信源を君たちは探知したはずだ。その場所は、今、君が立っている場所だろう。今はもう解体されて倉庫となっている次世代通信研究所から私は電話をかけているのだから。

亀竹   ・・・

明郷   そうだな。こうしよう。君、競馬はやらないのだったかな? まあ、いい。よくある話だろう。明日君は競馬場に行くことになるんだから。





すこしの無声芝居の後、切れる。



リリィ  亀竹さん。今の電話は・・・?

亀竹   分からない・・・。分からないが・・・嘘をついているようにも思えなかった。

リリィ  コンピューターの解析によると、今の証言の信憑性は95%。主な感情は・・・哀しみと恐怖でした。

亀竹   他人のものとは思えなかった。

リリィ  95%の一致。本人または声紋変換器によるものでしょうね。





暗転。

競馬場。

馬券を握りしめる亀竹。

歓声。驚きながらも喜ぶリリィ。

亀竹は、端末を取り出して、じっとそれを見つめる。





研究所に戻っている。



亀竹   リリィ。

リリィ  はい。(紙袋をおいて)

亀竹   これまでのことを少し整理しよう。記録を頼む。

リリィ  分かりました。

亀竹   いつものように、気付いたことがあれば付け足してほしい。



亀竹   そうだな。まずは、この端末だ。この端末はこれまでに3台を作成した。

リリィ  ひとつは、私が。この中に(机をたたいて)。

亀竹   ひとつは、俺が。

リリィ  もうひとつは、・・・確か、ご友人に実験協力をお願いしているのですよね。

亀竹   そうだ。足達梅夫という男で、信頼に足る人物だよ。今度紹介しよう。きっと君も気に入ると思う。

リリィ  是非にお願いします。ああ、でもヤキモチ焼かないでくださいね。

亀竹   妬いちゃうかも。

リリィ  顔が真剣ですよ。そういうとこあるから・・・。

亀竹   えほん。で、とにかく、この端末は、3台しかない。

リリィ  亀竹さん、今お持ちですか?

亀竹   もちろん持っている。ほら。

リリィ  ・・・ということは、一番可能性が高いのは、その足達さんに渡した端末が、何者かに奪われたということでしょうか。周波数が一致しなければ通信はできないですから。

亀竹   どうだろう。連絡をしてみる必要はあるな。でも、もし、この端末が本当に未来と通信をする能力があるのだとすれば、足達には危険が迫っていることになる。

リリィ  もしも、そんなことがあれば・・・ですが。

亀竹   競馬は当たったが・・・。

リリィ  それはそうですが・・・。

亀竹   そして、この予言者は、俺に連絡を取ってきた・・・。

リリィ  それも、1年後の今日からの連絡だと言っている。

亀竹   1年後。1年後、僕は何をしているんだろうか。

リリィ  未来の分かるようになって、そして過ぎ去った1年・・・。

亀竹   新しい理論は未来を分からなくするから。



間。



亀竹   彼の目的は何だろう・・・?

リリィ  彼?

亀竹   彼じゃないのか?

リリィ  私には、女の人のように思えましたよ。

亀竹   いや、分からない。注意が向いていなかった。

リリィ  あくまで、なんとなく、ですが。

亀竹   女性の勘は当たると言うからな。機微に気付く心の細やかさの成し得る技かな。

リリィ  話を戻しましょう。彼の目的です。

亀竹   そう・・・目的だ。ただのいたずらにしては、手が込みすぎている。

リリィ  もし、もし仮にですよ。本当に未来から明郷という人物が掛けてきているとしたら、

亀竹   ありえない。この端末にそんな機能が・・・。

リリィ  ラビットフォンと呼んでいましたね。

亀竹   可能性すらないと思っていた。

リリィ  もしも、です。掛けてきているとしたら、

亀竹   掛けてきているとしたら・・・。

リリィ  我々に何かをさせたいのでしょう。

亀竹   何か。未来を救えとか。

リリィ  あるいは・・・

亀竹   あるいは・・・?





足達   もしもし?

明郷   私は、明郷と言うものだ。君のご友人に危険が迫っている。

足達   あのですね。詐欺の類は間に合っているんですよ。この前も、クッツク靴というものを履きましてね。というのも、海底探検にはクッツク靴が必要不可欠じゃあないですか。分かりますよね、

明郷   分かるさ。海底を踏みしめるためには、クッツク靴がなくてはならないね。でも、全然クッツク様子なんてなくて、前の人をツッツクぐらいにしか使えない靴だった。

足達   はて。どちら様? どうやら、僕のことを知っているようだけど?

明郷   この電話は、1年後の未来から掛けている。君のご友人が開発したラビットフォンのせいで、人類の行く末は大きく変わってしまうんだ。

足達   怖っ。

明郷   え?

足達   じゃあ、俺も知ってるぜ。迫りくる世紀末・・・。未来を救うのは、一人の男だ。奴は、亀仙人と呼ばれている。そしてそれをサポートするのは俺ということさ。メギラスの襲来も未然に食い止めたんだぜ。

明郷   あのですね。

足達   なんか、怖いわ~。そういうのは、僕に任せておけばいいんだ。切りますね。ざしゅっ(と言いながら切る)。

明郷   そんなものじゃないんだ、未来の世界の惨状は!! 未来の世界では・・・



さえぎるように割って入る黄野。



黄野   それから、1年後に向け、君たちは明郷なる人物に会うべく、端末のラビットフォンの研究を続けただろう。

亀竹   そうなんでしょうね。

黄野   そして、ひとつの結論にたどり着くだろう。







足達   なんだこれ・・・?



足達   亀竹に危険が迫っているって・・・?



電話を掛けながら、はけていく。



足達   つながらないな・・・。







亀竹   一つの結論?

黄野   ええ、一つの結論。



リリィ  あれ以来の連絡がないのはなぜでしょう。

亀竹   明郷からの?

リリィ  そうです。

亀竹   この端末は、おそらく未来の同じ場所からしか通信が出来ないんだ。

リリィ  時間は越えられても、空間を越えられない電話、ですか。

亀竹   面白い発想だ。チョコあげちゃう。

リリィ  ありがとうございます。まだ掛け方は分かりませんが。

亀竹   おそらく通信には莫大なエネルギーが必要なんだ。

リリィ  エネルギーがあったとしてもその利用方法が・・・。

亀竹   波動に波動を重ね合せても振幅が大きくなるだけだ。おそらく媒質を工夫するんだろう・・・。あと少し、なにかひとつそれが分かれば、という予感はあるんだ。

リリィ  これはあくまで、電波を発信する機器として作ったんですよね?

亀竹   もちろんそうだ。送信時に脳波の動きを捉えて感情表現の苦手な人の意思疎通を目的に作った。

リリィ  我々はこの使い方を知らないんですね・・・。



間。



亀竹   ん? この基盤の仕入れ元、・・・リストにないぞ。調べたか?

リリィ  ・・・いいえ。

亀竹   調べてみよう。





足達   アキレスと亀、という有名なパラドックスをご存知だろうか。アキレスは世界でもっとも足の速い人間。亀はずいぶんとゆっくりだ。





リリィ  亀竹さん。これ。

亀竹   ・・・有限会社「明郷製作所」これだ!





足達   アキレスと亀は競争をする。亀は、ハンディキャップをもらって、少し前からスタートする。二人の距離はわずかだ。



足達は帽子を投げる。拾う亀竹。



リリィ  行きましょう。行って、話を聞かなければ。

亀竹   もしかすると、このヒントを残すために、予言者は「明郷」と名乗ったのかも知れないな。

リリィ  ・・・



(注:この時点は既に、黄野と亀竹が話をしている現在の数日前のことである)



足達   実際、アキレスは亀の居た場所にあっという間に到着する。ところが、亀はいないのだ。亀は、少しだけ、進んだところをゆっくりと進んでいる。アキレスは、再び走り出す。





リリィ  2ヶ月前に閉鎖されています。

亀竹   明郷から連絡があったのは、今から3ヶ月後の未来のことだ。この空白の5ヶ月、彼女は明郷は、どこにいたのだろうか。

リリィ  亀竹さん。この明郷製作所の社長、明郷慎治という人物なんですが・・・。

亀竹   待ってくれ。中に入れそうだ。





足達   たいてい、いつもそうなのだ。追いつけそうなところにいるが、いくら走っても追いつくことが出来ない。走った分だけ時間は進み、進んだ分だけ亀もゆっくりと進んでいる。それも、光の速さで。





黄野、パン、と手を叩く。





亀竹   え?

黄野   ここから先は、ない。

亀竹   ない・・・?

黄野   そうなんだね。これが、数日前の話だから。

亀竹   数日前って・・・。

黄野   世界五分前仮説って知っているかい?

亀竹   世界は実は五分前に作られたものであり、記憶も歴史も、物理法則さえも、ただ、五分前に作られ与えられたものであったとしても、誰も気付かない。

黄野   その通り。君は、そのように賢い人間だったのさ。すべては、ついさっきのことのように感じられる。そういう時は疑ったほうがいい。

亀竹   なにを・・・?

黄野   敵がいるのよ、君が作り出した素晴らしい未来を横取りしようとする敵が。

亀竹   僕の未来を。

黄野   ええ、未来のあなたは英雄よ。でも、数日前に造り出されたこの未来では、あなたはただの営業マンであり、薬袋さんは、君の上司。このまま行っても、あなたはきっとラビットフォンに翻弄されるだけの人間で終わってしまう。



亀竹   ふたつ、聞いてもいいですか。

黄野   どうぞ。

亀竹   もし、本当に、黄野さんが言っていることが本当だとして、どうして黄野さんはそれを知っているんですか?

黄野   預言者みたいに?

亀竹   そう。

黄野   それはね、私が、あなたのファンだから、かな。

亀竹   ファン?

黄野   私はあなたの伝記を読んで育ったわ。尊敬もしている。だから信じるかどうかはさておき、あなたにこの真実を教えたい。そういう可能性のことを。誰かの悪意に気付くこともなく、あったはずの未来を横取りされちゃうだなんて、ひどいと思わない?

亀竹   ええ、まあ・・・。

黄野   2か月後、10月19日にチャンスが来るわ。ちょうど、1年後のその日。元の正しい未来を取り戻すチャンスが、あの工場で。・・・なんてね。私はね、ただ、君と薬袋くんのその関係が単純に寂しいだけさ。単純にね。

亀竹   単純なものか。なにもかもが複雑だ。





黄野、はける。



暗転。







街角。





足達   もし、そこの彼女。

薬袋   私ですか?

足達   いえ、ちょっと呼んでみただけです。

薬袋   あのですね。見ず知らずの人でしょう、あなたって人は。

足達   本当にそうですか?

薬袋   ええ。



ふたりはすれ違う。



それから、薬袋、ふと立ち止まり振り返る。





薬袋   あの。クッツク靴を履いていますか、もしかして。

足達   そうなんですよ、クッツク靴というものを履きましてね。というのも、海底探検にはクッツク靴が必要不可欠じゃあないですか。分かりますよね、

薬袋   分かりますよ。海底を踏みしめるためには、クッツク靴がなくてはならない。

足達   でも、全然クッツク様子なんてなくて、前の人をツッツクぐらいにしか使えない靴だった。



薬袋   何で私はそんなことを知っているんでしょうか。

足達   実はどこかで会っているんですね。

薬袋   会話もしている。

足達   それだけじゃあない。

薬袋   そんなくだらない冗談までなぜだか覚えていますよ。

足達   きっとどこかで会っているんですね。

薬袋   小学生の頃?

足達   ちがう。中学生?

薬袋   (首を振って)高校生?

足達   それとも、別の未来で。





薬袋   ・・・あなたが明郷さん。ごめんなさい、私、混乱してしまっていて。

足達   明郷? いえ、俺は足達。俺には沢山の名前がある。あるときは、惑星間航行船の乗組員。あるときは、虹を渡るカウボーイ。またあるときは、未来を守る戦士。そして、ある時は工場を守る、迫り来る怪獣からね。俺はやっと、時代に追いついた。

薬袋   ねぇ、私のところに、変な人が現れたわ。

足達   変な人?

薬袋   黄野という男。未来を知っているような口ぶりだった。

足達   ・・・・・・なるほど。

薬袋   もう一度私を導いてほしい。私たちが窮地に陥ったとき、あなたが、あのとき、あなたが現れたように。

足達  だから、それは俺じゃあないんだよ・・・?





照明が変わる。





リリィ  ここは・・・、2ヶ月前に閉鎖されています。

亀竹   明郷から連絡があったのは、3ヶ月後。彼女は我々に電話をかけてくる。

リリィ  亀竹さん。この明郷製作所の社長、明郷慎治という人物なんですが・・・。

亀竹   待ってくれ。中に入れそうだ。



明かりが点く。



リリィ  電源は来ているようですね。

亀竹   そのようだ。

リリィ  亀竹さん、

亀竹   なんだ?

リリィ  どうして、預言者からの電話がないんでしょうか。

亀竹   考えても仕方がないと、思っていたが、僕が思うに、・・・彼は今、電話が掛けられない状況にあるんじゃないか、と思う。我々は、彼を救ってやらないといけないのかもしれない。

リリィ  それが、彼の私たちに伝えたかったこと・・・? そういうこと?

亀竹   とにかく、彼からのメッセージを探そう。





亀竹   モニターだ。外の様子が見える。ん?なんだ。

薬袋   亀竹さん。

亀竹   何者なんだ、こいつらはっ!

薬袋   亀竹さん、こっちに何かあります。



明郷   それは、大きなカプセルのような物だった。



亀竹   こんなもの・・・見たことのない。なにかとてつもなく精巧な機械だ。美しい。

リリィ  なぜ廃工場にこんなものが?

亀竹   分からない。だが、きっと明郷の残したものだ、我々を救うために・・・。さあ、中へ入るんだ。

リリィ  はい。

亀竹   ・・・どうやら一人乗りのようだ。巻き込んでしまってすまない。こんなことになるなんて、思わなかったんだ。いったい、どういう選択をすればよかったんだろうか。どうすれば、幸せな結末を迎えられたんだろうか。いや、そもそも幸せな結末など俺たちに用意されていたのだろうか。あの電話がかかった瞬間から、この結末は運命づけられていたのかもしれない。今となっては、どうしようもないが。

リリィ  彼らにラビットフォンを渡してはなりません。破壊しましょう。きっとそれが、予言者の、最低限変えてほしかった未来だと思うから。

亀竹   その通りだ。我々の最後の反抗として、義務として、これを破壊しよう。



リリィ  でも、亀竹さん。もし、ですよ。もし、この端末を手土産に、この人たちの仲間になったら・・・

亀竹   ・・・

リリィ  ・・・そんな未来はないですか!?

亀竹   その未来でのうのうと生きている自分を想像すると、虫唾が走る。

リリィ  ・・・

亀竹   お別れだ。ありがとう。



ドアをバタンと閉める。



亀竹   ああ、それはどんな未来だろう。生にしがみつき、信念を曲げて、野望を持って生きるのだ。それは、どんな未来だろう。



銃声。暗転。





足達   亀竹!





ここで死ぬ未来は、黄野のやってきた未来へとつながっている。・・・が、端末を破壊した未来は、足達の未来へとつながっている。



「システム、起動しました」との音声が入り、うっすらと明かりが入る。

中央の椅子には、リリィ(薬袋)が座っている。



リリィ  これは・・・?

明郷   やあ。明郷だ。

リリィ  これも、未来からの通信ですか?

明郷   実はね、先日クッツク靴というものを買いましてね。というのも、海底探検にはクッツク靴が必要不可欠じゃあないですか。分かりますよね、

リリィ  ・・・遅いお出ましで。

明郷   海底を踏みしめるためには、クッツク靴がなくてはならない。でも、全然クッツク様子なんてなくて、前の人をツッツクぐらいにしか使えない靴だった。なんて、僕の話、聞いてます?

リリィ  どうして・・・

明郷   どうしてもう少し早く、この未来の結末を教えてくれなかったのか・・・、って? それは、僕が間に合わなかったアキレスだったのさ。

リリィ  足の速いあのアキレスですか?

明郷   いいや、僕は、足の遅いアキレスだったのさ。そう、そのアキレスは気付いたね。前を行く亀には決して追いつくことが出来ないんだ。それは遠い昔に暗示されていた。時間と事象の絶対のルールだった。先に起こった出来事に、追いつくことは出来ない。僕は調べていたんだ。廃工場の変死事件を。何者かが君たちを襲う。隠蔽されたと思っていたこの事件の真相を知ったのは、1年後の今、ついさっきのことさ。トゥモローコーポレーションという会社だ。ここが黒幕なんだ。

明郷   そして、僕はこの装置を作らせた。

リリィ  この装置・・・。

明郷   現在のごく一部を書き換える装置だ。現在が変われば、未来が変わる。すべてが思い通りに行くわけではない。思いがけない結末になるかも知れない。でも、くそったれなこの未来を変えてほしい。そう願っていることは確かなんだ。

リリィ  ・・・

明郷   彼は、亀竹はそこにはいないんだね、ああ、分かっている。端末は破壊してくれたようだね。

リリィ  ええ・・・。

明郷   ああ、分かっているとも。こちらの未来に君たちは向かってきているのだから。どうして、もっと早くに。さっき君はそう言ったね。正直・・・本当に破壊して良いものか不安だったんだ。

リリィ  え?

明郷   結論から言うと、俺のいる未来に、端末は存在する。

リリィ  破壊したのに・・・。

明郷   ああ。アインシュタインが発見しなかったとしても、誰かが相対性理論を見つけたさ。そういう時期が来ていたんだ。でも、未来にあるそれは、本当に2人の作ったものなのか。それとも似せて作った模造品なのか。いやむしろ、模造品だからこそ、恐ろしいことが起こっているんじゃあないかって・・・。

リリィ  未来では、何が起こっているんですか。

明郷   未来だって、あれから10か月が経っている。いろんなことが起こったさ。君にも、亀竹にも。

リリィ  私たちは、そんな未来を生きなければならないのですね。

明郷   いいや、未来とは努力なんてものでいくらでも変わっていく不確定なものさ。

リリィ  私の努力次第で・・・?

明郷   そう、君の力で。今思えばどうしてみんな寄ってたかって彼に求めようとするんだ。彼を探し、彼に何かをさせようとする。そうじゃあない。未来は他人の手に委ねてはならない。

リリィ  未来は他人の手に委ねてはならない。

明郷   さあ、装置を起動するよ。イメージするんだ。これから君が選び取る新しい未来とその幸せのことを。



照明が変わって。



薬袋   部下の亀竹が、本当は私の上司。

足達   本当は好きなんじゃないの? このこの~。何しろ四六時中一緒にいたんだから。

薬袋   四六時中一緒にいたからといって、好きかと言われれば、それは違いますが。

足達   おっと、これは失礼。亀竹が、そう君のことを言っていたものでね。

薬袋   うそね。

足達   えっ?

薬袋   それで・・・?

足達   んん?

薬袋   私にどうしろというんです?

足達   んー・・・、そうだね。きっとこれですでに未来は変わった。けれども、ここに一台だけ、端末が残ってしまった。これをどうしたらいいんだろうか。どうしたものか、この端末は残ってしまった。

薬袋   破壊しましょう。

足達   いや、それは賢明な判断じゃあないな。

薬袋   どうして?

足達   未来から電話が来るかもしれないだろう?

薬袋   知らないんですか?

足達   ひとつはっきりさせておかないといけない。電話を掛けたのは、あくまで2カ月後の俺だということ。今の俺は、まさか自分が電話をかけるなんて、思ってないんだ。

薬袋   そう・・・ですよね。『未来は他人の手に委ねてはならない。』

足達   ?

薬袋   2か月後の未来で、あなたが言う言葉です。・・・あ、ひとつ調べ物をお願いしてもいいですか? トゥモローコーポレーションという会社なんですけど・・・。





場面は変わって。



亀竹   ・・・・・・。

足達   なにしてる?

亀竹   おりがみをね、折ってるんだ。

足達   大学の食堂で?

亀竹   そう、おりがみを。

足達   折ってるんだ、おりがみを。

亀竹   そういうことになるよね。

足達   ・・・何か飲む?

亀竹   スッポンドリンク。

足達   好きだよね、スッポンドリンク。ポカリで良い?

亀竹   うん。元気でるよ。

足達   足りてないの?

亀竹   そうでもないかな。元気玉でちゃうよ、余った分が。

足達   でちゃうの。漏れ出した元気で魔人倒せちゃうの?

亀竹   そうかもしれない。

足達   ああ、そうか。あれだ。甥っ子とかがいるんだ。

亀竹   え?

足達   おりがみ。甥っ子にあげるんだろ、それ。小さい子は、折り紙好きだからな。

亀竹   いないけど。

足達   そうか、俺は好きだぞ、おりがみ。もらってやろう。

亀竹   別にそう言うつもりで折ってるわけじゃないけど。

足達   じゃあ、なんなんだよ、この折り紙は。

亀竹   んー・・・精神統一?

足達   折り紙に統一しちゃうの。

亀竹   そうそう。統一しちゃうの。

足達   で? これ、なに?

亀竹   亀だよ。

足達   じゃあ、竹もあるわけだ。竹は?

亀竹   今のところないね。

足達   じゃあ、俺が折るよ。

亀竹   別に、無理にとは言わないけど。

足達   いや、折るね。日本デジタル折り紙協会の特別顧問を務める俺としては、折るしかないね。

亀竹   なんだそりゃ。

足達   プロ級ってことだよ。

亀竹   じゃあさ。折るとさ、なにが変わると思う?

足達   ほう。なんだ出し抜けに。

亀竹   僕はさ、こう思うね。折るときには、時間を一緒に織り込んでいる。ほら、出来た。

足達   時間が織り込まれた鶴?

亀竹   昔の人が何故、鶴を折ったんだろうね。鶴は千年、亀は万年。長寿の象徴として、鶴を折った。鶴というのは、時を司る動物だと考えられていたんじゃあないかな。

足達   鶴の中には、沢山の時間が織り込まれているって・・・?

亀竹   千羽鶴はどうだい?

足達   千羽の鶴を織り込むと、願いが叶うってやつか。

亀竹   鶴の中には、それだけの想った時間が込められているのさ。

足達   お前、どうしたさ。

亀竹   どうしようかね。

足達   なにを?

亀竹   将来さ。

足達   将来?

亀竹   携帯電話の開発をしないかって、世話になってる教授に声を掛けられているんだけど・・・。

足達   らしくていいな。お前の携帯電話、できたら使わせてくれよ。

亀竹   うん。



電話。2つの電話が鳴っている。





亀竹   はい、もしもし。

黄野   はい、もしもし。



黄野   ・・・そっちはどう? 崩壊はまだうちまでは来てない? うん・・・うん。母さんの容体は? 大丈夫。こっちは、そうさな・・・。未来人Bが現れた・・・ってところかな。うん。今、未来はまだ揺れてるわ。うん、この2ヶ月が勝負。・・・帰るわよ! 私の未来は・・・私の生きる未来は、過去からずっと続いてきた未来は、そこにしかないんだからね・・・。



対比するように明るい声。



薬袋   あ、ねえ、亀竹でた。で、どうすればいいのかしら?

足達   簡単さ! 誘えばいいのさ! 男らしさを見せるのさ! あいつは女々しいところがあるからな。



亀竹   もしもし? 課長?

薬袋   あー、もしもし? あのですね、用件というのはつまりだな。今週末、少し付き合ってもらいたい、とそう言うことだ。

亀竹   なんですか? 仕事ですか。

薬袋   仕事じゃないとダメか?

亀竹   えっ・・・?

薬袋   まあ、いわゆるショッピングというなんだが、・・・ダメか?



亀竹   ・・・いいですよ。ちょうど話したいこともあったので。

薬袋   それでは、駅前の時計塔で待っている。

亀竹   はい。



切る。



薬袋   ・・・やったぞ!

足達   とりあえず、おめでとう。

薬袋   で、どこにショッピングしたものか。任せるぞ。

足達   なんで急にそんなノリノリなんですか?

薬袋   いや、未来を変えてやろうとすると、人は大胆になるものだなと思って。

薬袋   違う結末を迎えるためには、あり得ないだろうことをすればいいんだろう? 例えば、私と亀竹がラブラブになっているとか。

足達   ラブラブ・・・

薬袋   そうだ! ラブラブだ。どうだ。



薬袋、はける。足取りが妙に嬉しそう。



足達   ・・・うきうきやん。



音楽が流れる。



足達   週間未来ニュースのお時間です。明日の未来は、どっちだ? 明日の空は恋模様。西高東低の恋空配置となっていますから、西に行くと、ハッピーをつかめる確率が高いですよ~。





なんか適当に、いくつかのシーン。





薬袋   うー・・・ん。

亀竹   薬袋さん・・・?

薬袋   悩ましい・・・! あ、電話。

薬袋   もしもし、足達さん。

足達   ええ、そこは、キノコのイヤリングはおかしいです。星のネックレスにしましょう。

薬袋   そうですか?? 私としては間違いなく・・・

足達   間違いです。

薬袋   そうですか・・・、あ、亀竹さん。お待ちどうさま。私ね、星のネックレスに決めたわ・・・ええ。

亀竹   そうです?









薬袋   もしもし、足達さん。

足達   今、「急転直下脳天激烈」に乗ろうとしているでしょ。

薬袋   ふふふ・・・わかります?

亀竹   薬袋さん、これはダメです! 僕、絶叫系ダメだって言ってるじゃないですか!

足達   後ろから友人の絶叫が・・・。

薬袋   いやですねぇ、冗談ですよ、冗談。ね、亀竹さん。あっちのデススピン・クラッシュトルネードに乗りましょう。

亀竹   な、なんということだ。









薬袋   ふんふんふん♪

亀竹   何を聞いているんですか?

薬袋   聞きますか?

亀竹   ・・・照れますね(イアホンを片方、つける)



すると、デスメタル。



薬袋   (早口)はいはい、足達さん

足達   (早口)それダメそれダメ。デスっちゃうデスっちゃう。

薬袋   仕事はかどるのに・・・。

足達   (ゆびぱっちん)



ダースベイダーのテーマ♪



薬袋   あ、間違えた。



ラムのラブソング♪



足達   違う違う。



クラッシック(鱒)♪



亀竹   はっ・・・。なんだか夢を見ていたような・・・。

薬袋   良い夢だったでしょう。











薬袋   もしもし、足達さん。

足達   おはよう、薬袋さん。まだ朝ですよ~・・・。

薬袋   ええ。そんなことよりも、いいですか。今日の髪留めは、青がいいのか、赤がいいのか・・・。写真送信!

足達   ん~、赤です赤です、赤ですねー。

薬袋   そうか・・・いつも、助かるよ。ありがとう。今日な・・・亀竹から連絡があってな・・・デートなんだ。(はける)

足達   あ、今日は俺も例のトゥモローコーポレーションの調査で出かけますので。ええ、では。



足達、出かけるところに、黄野が声をかける。



黄野   待ってくださいよ。











薬袋   まさか、君の方から誘ってくれるとはね・・・。

亀竹   いえ、まあ・・・。その・・・まあ。「なかなか言い出すチャンスがなくて」

薬袋   なに 言いたいことがあったら、言って欲しい。

亀竹   ええ、その。なんというか。最近、薬袋さんなにかありました?

薬袋   えっ・・・? べつになにも。

亀竹   (探るように)なんといいますか、気のせいならいいのですけど、なんか未来が見えていると言いますか・・・。いつも言い得て妙と言いますか。

薬袋   確かにそう言う側面もあるかもしれないが。

亀竹   僕がいうのは失礼かもしれませんが・・・何か隠していません・・?

薬袋   どうかな。

亀竹   人は、ごまかしたい事実があるとき、手を隠すんですよね。

薬袋   ・・・。

亀竹   携帯、鳴ってますよ。

薬袋   そうだな。・・・隠し事なんて、誰にでもあるものさ。

亀竹   ですよね。でも、未来が分からないのは、お互いに隠し事があるからだと思いません? 

薬袋   すまないが、ニュアンスすら伝わって来ないぞ。

亀竹   だから、ええと、もし、すべてのことが判明していて、それをコンピューターに滞りなく入力することができたとしたら、

薬袋   できたとしたら、

亀竹   未来を知ることができるんじゃないかって、思うんですよ。

薬袋   どうしてそんなことを考えたんだ?

亀竹   それは・・・薬袋さんが、未来に取り付かれているように見えるから、ですかね。

薬袋   未来に・・・?

亀竹   ええ。僕に、未来が分かるといって、近づいてきた人物がいました。でも、僕には彼女が正しいことを言っているのか、分からなかった。

薬袋   彼女?

亀竹   ? ええ。

薬袋   私はあなたの未来を守ろうとしているのよ。

亀竹   やっぱりそうなんですよね。いや、そうなんだ。

薬袋   でも、彼は本当に・・・

亀竹   考えたんだ。ある場合にはいくら未来を見通す力を持っていたとしても、未来が見えなくなるんじゃないかって。

薬袋   それは一体どんなとき?

亀竹   思いついたんです。思うにひとつは、自分自身にも、隠し事がある・・・とき。

薬袋   (メール着信)あ、ちょっとごめんね。・・・危険!?(画面に『危険』の文字)。・・・亀竹くん!



薬袋は、亀竹の手を取って走り出す。



薬袋   立ち止まったらきっと、過去に足を取られてしまう。



立ち止まる亀竹。少し微笑んで。



亀竹   ねぇ、薬袋さん、教えてほしい。本当のことを教えてほしい。本来の僕は・・・次世代通信研究所でラビットフォンを生み出した亀竹宗二郎という人物は、一体どうなったのか?



はけて、出てきて、言う。



薬袋   亀竹くんの言う通り、未来から来た男などいないのかもしれない。私は悪い悪夢にうなされているだけなのかも知れない。それでもいい。私の聞いた、君の未来を伝えよう。私と君は、2095年、11月19日、廃工場で殺されるはずだった。しかし、私は、彼の協力を得て、その未来を回避した。

亀竹   回避した? どうやって。

薬袋   明郷という男が、不思議な装置を用意してくれたんだ。そして、私と亀竹さん、あなたの未来を書き換えた。それで私さえ黙っていれば、すべては幸せな方向に進むと思っていたんだ。

亀竹   でも、そうはいかなかった。

薬袋   私は、つい最近になって、ついに明郷と接触できた。

亀竹   未来を知る・・・最初に、ラビットフォンの危険性を連絡してきた女。

薬袋   そうだ。時間は進み、あの時連絡してきた未来と別の形に、私たちはたどり着こうとしている。

亀竹   総務の自称未来人の黄野さんが言うには・・・、

薬袋   黄野? やっぱり彼女が・・・

亀竹   ああ、彼女は未来から来たんだと思う。だから、彼女が明郷なんじゃないかって、

薬袋   でも、違うわ。私に連絡してきた明郷さんは、足達さんだもの。

亀竹   待って、今、足達って?

薬袋   ええ。

亀竹   足達って、僕がラビットフォンを渡した、

薬袋   そう、あなたの親友の足達さん。







足達   だれだ。

黄野   黄野です。トゥモローコーポレーションの黄野です。

足達   昨日なのにトゥモローなのか。

黄野   よく言われます。

足達   何か俺に用でも?

黄野   あなたは、実にイレギュラーな存在だ。

足達   人違いじゃあないかな。

黄野   盲点だったわよ。あの装置を、この時代に作り上げるなんてね。あの装置で、未来の都市が、一瞬で砂に変わったのよ。人も木も、車もね。すべてのものが分子にまで分解されて、二度と還らなかったわ。当然のように禁止されて、みんな忘れ去っていたものだから。

足達  俺達の方が、うまく未来をコントロールできるってことさ。なぁ、未来、俺達にくれないかなぁ。

黄野   あんたらは、進歩が遅いだけだ。本来時間はね、我々が委託管理することになってるんですよ。

足達   もう少しわかりやすく。

黄野   未来に関わらないでいただきたい。

足達   ・・・友人の未来に関わるなって? それは無理な相談だ。

黄野   あんたの存在が明らかになるのはちょうど1年後だ。今から2週間後、男女二名の死体が廃工場から発見されるはずだった。ところが、どうだ。死体は見つからず、ニュースにもならなかった。だから、取り潰しになるはずだった未来通信研究所は存続し揺り戻された未来で二人は未来電話を作り続ける。未来は誰にも想像できないものへと変わってしまおうとしている。

足達   結構なことじゃないか。

黄野   我々の作り上げた未来では、2500年後の未来においても人類が生存することが予見されている。ところがどうだ。おまえたちの描こうとしている未来は。歴歴の社会学者が口をそろえて言うのではないなのか。「世界大戦が起こるのは時間の問題だ」って。

足達   ・・・そんなことが。

黄野   さあ、ラビットフォンをこちらに渡してもらおう。

足達   まあ、そうはいかないよね(拳銃を構えている)。形勢逆転、かな。

黄野   どうかな。

足達   (引き金を引くが、弾は出ない)

黄野   未来が見えるんだ。弾ぐらい抜いておくさ。

足達   うっ・・・

黄野   彼らには予定通り、あの工場で死んでもらわないと。

 

黄野はける。



足達   (携帯を取り出して)知らせないと・・・。



暗転。





薬袋   私は・・・ここは?

亀竹   はいはい、いらっしゃい。ここでは、クスリを売っているよ。

薬袋   薬をください。

亀竹   薬ね。どんな薬がいいんだい?

薬袋   未来が、見えるようになる薬を。

亀竹   ほほう、未来をね? お客さん、名前は?

薬袋   ミナイです。薬の袋と書いて、薬袋と読みます。

亀竹   なるほど、薬袋さん。それでは、誰の未来が見たいのですか?

薬袋   正直に言うと、

亀竹   正直に言うと?

薬袋   よく分かりません。

亀竹   未来が見たいのに?

薬袋   ええ。未来を知ってしまったら、私はどうすればいいのか分かってしまったら、それが例えば、恐ろしいことであった時に、私はその未来をきっと全うできない。

亀竹   ええ、では、あなたにはこれを差し上げましょう。

薬袋   何もないですが。

亀竹   ええ。あなたにとって一番の薬は、何もあげないことですよ。

薬袋   クスリとも笑わないんですね。

亀竹   ええ。その薬を湿度80%以上、水温40度の場所で飲んでください。

薬袋   お風呂のサービスシーンとかありませんよ。ありませんからね。

亀竹   ええ、いいでしょう。

薬袋   表情の曇り方が、まったく言葉と合っていないんですが!

亀竹   えほん

薬袋   失礼しました。

亀竹   震えていますね。

薬袋   そうですか?

亀竹   自分の身体をよくご覧なさい。

薬袋   本当だ、震えているんだ。

亀竹   未来が見えないことは、そんなに凍えるようなことなのですか?

薬袋   未来に向かう安心感には、温かさがありますから。

亀竹   未来が見えないことは、そんなに恐ろしいことなのですか?

薬袋   未来が見えれば、危険を回避することができます。

亀竹   そうですか。じゃあ、見えるといいですね、明るい未来。

薬袋   そんな適当な! ・・・(ハッとする)そもそも興味がない。

亀竹   それでは、また次の未来でお会いしましょう。

薬袋   待ってください。本当に私は、このまま投げ出されるのですか!? この先どうなるのかも分からない! ただ、ただ歳月が流れ、死が近づいて来る日々を。なんの希望もなく・・・こうして、生きていくしかないのですか!

亀竹   お話は以上です。

亀竹   お話は以上です。

亀竹   さようなら。





摩訶不思議な音楽終わり。



亀竹、入ってくる。手には、食料品。あれから家には帰っていないのだ。



亀竹   薬袋さん?

薬袋   未来を知っている敵からどうやって逃げればいい? 黄野が言った約束の日は2日後だろう? どんな手を使ったって、私たちを・・・殺しに来るのよ。

亀竹   薬袋さん、少し整理しよう。

薬袋   ?

亀竹   気づいたことがあったら、付け加えてほしい。

薬袋   そんなことをしたって・・・、だって、あれから連絡がないんだ!

亀竹   ・・・

薬袋   連絡がないってことは、足達さんはっ! 私が、トゥモローコーポレーションを調べろなんて、言わなければっ!

亀竹   薬袋!

薬袋   ・・・!

亀竹   落ち着け。落ち着くんだ。・・・目を開けて、未来をじっと見るんだ。今分かっていることを整理して、どうしたら幸福な未来を迎え入れることが出来るのか、考えよう。誰が何と言ったって、未来へ向かっていくのは、僕たちなんだから。



薬袋   ・・・はい。



亀竹   まず、1年前、明郷から電話があった。

薬袋   これが、すべての始まりだった。

亀竹   明郷からの電話は、ラビットフォンが未来を変えると言った。そして、足達は、明郷さんから危険が迫っていると言われた。

薬袋   どうして、明郷はあいまいな表現をしたんだろう。

亀竹   正確な未来なんて分からなかったから・・・、じゃあないだろうか。

薬袋   そして、私たちは、一度は危機を回避した。

亀竹   それは、黄野のやってきた未来じゃないんだろうね。

薬袋   ・・・やってきた未来が、変わってしまったら、彼女はどうなるのだろう。

亀竹   分からない。・・・消えてなくなってしまう、とか。

薬袋   ・・・。

亀竹   未来に関するパラドックスは、昔からなんども想定されてきたんだね。本当のことは、もうすぐわかる。

薬袋   明後日なんだ。

亀竹   え?

薬袋   明後日、明郷は未来通信研究所から、電話を掛ける・・・。でも、明郷だった足達さんはもういない。じゃあ、明後日を切り抜けても、今の私たちは消えてしまうのかもしれない。

亀竹   ・・・・・・きっとそうはならないさ。僕たちの未来を取り戻すんだ。



薬袋   気になっていることがあるんだ。亀竹さんがこの前言っていたこと。未来が見えなくなるっていう話。

亀竹   ああ・・・。

薬袋   黄野さんは、今の状況をどう思っているんだろうか? 着々と準備をしているのか、それとも、こちらの状況が分からないでいるのか・・・?

亀竹   もし、分かっていて、工場で殺されたようにしたいなら、今からどこかに閉じ込めておいて、その日に殺せばいい。

薬袋   じゃあ、未来のそんな詳しいことまではわかっていない・・・?

亀竹   揺さぶってみようか? 衛星を介して、発信元を隠して。





黄野   ・・・・・・。

亀竹   お元気ですか?

黄野   どこまでわかっているのかな?

亀竹   10ヶ月前、僕たちを工場で襲いましたよね。

黄野   そうね。まんまと逃げられた。

亀竹   それからずっと僕たちを監視していたんだ。

黄野   その通り。

亀竹   そして、明後日、工場に僕たちは行かない。

黄野   ・・・どうかしら。

亀竹   行かない。



薬袋   黄野さん、無駄ですよ。

黄野   その声は、薬袋課長。元気そうで何よりね。

薬袋   本当は未来なんて見えないんでしょう?

黄野   ・・・どうしてそう思うのかしら?

薬袋   未来のことで確かなことなんて、きっとなにひとつない。だって、どうするかは、私たち次第なんだもの。別の未来人は、そう言っていた。

黄野   ・・・言いたいことはそれだけ?

薬袋   私たちは、逃げ切る。あなたの描く未来から逃げ切るから、指をくわえてみているといいわ!



電話を切る。



黄野   ・・・あの場所に彼らは必ず現れるわ。間違いなく。



黄野はける。



亀竹   ・・・やっぱり僕らはあの場所へ向かうべきだと思うんだ。

薬袋   そうですよね。

亀竹   明郷に会わないといけない。足達が生きているなら、彼に。

薬袋   そうでなかったら、私たちを助けてくれている誰かに。



暗転







亀竹   ・・・誰もいないようだ。

薬袋   明郷さんはこれからくるのかな。

亀竹   来るはずだ・・・僕たちは、知らないんだ、電話の掛け方さえも。

薬袋   そうですね。



間。



薬袋   私たち・・・・・・ほんとに巻き込まれただけだね。

亀竹   そう、今になって人違いじゃないかって、思いさえするんだ。

薬袋   えっ?

亀竹   足達が追っていたほうが本物で、僕らは、偽物だ。たまたま同じような境遇で、勘違いから狙われたんじゃないかって、ね。

薬袋   そうだったらどれだけよかったか。未来がかかっているなんて、



黄野   まあ、でもそうなのよ。



亀竹   ・・・黄野さん。

黄野   別に、頼んだわけでもないけれど、あなたたちに掛かってしまったのよ、未来の糸が。

亀竹   未来のことをまるであったことのように語らないでほしい。

黄野   ・・・。

亀竹   僕にとって未来はまだ形のないものだ。この形がないということは、何物にも代え難いという事なんだ。僕の未来を誰かに決めることなんてできはしないんだ。

黄野   なんとでも言うといい。それでも、私は未来を手に入れる。

薬袋   もし、もし、そうならなかったら?

黄野   そんなことあるわけないわ。だって、この場所はもううちの社員にとり囲まれているのよ。

薬袋   それでも、もし、そうなったら・・・?

黄野   まあ、その時は、親殺しのパラドックスが起こって、私は消えるんでしょうね。私の親が出会ったのは、未来の戦争の中だったっていうから。



亀竹   やっぱりそうなんですね。

黄野   なによ。私は未来を取り戻すために、ここに来た。

薬袋   ・・・それが不可能だったとしても??

黄野   不可能?

薬袋   ええ、不可能なんです。あなたの未来はもう初めから失われていた。

黄野   そんなの嘘。

薬袋   私たちは、1年前、明郷という人物に電話をもらいました。

黄野   それで、未来が変わってしまったのよ。

薬袋   あのとき、電話をもらったから、私たちは、今ここにいる。そして、今、誰かが電話をかけないといけない。でも、明郷は、私たちじゃあない。

黄野   あるわ。掛けるのよ。そして、私があなたたちを拉致し、そして、あの工場で息の根を止めたとき、私たちの未来は再びその時計の針が動き出すの!



亀竹   どうやって・・・?

黄野   この、電話で、掛けるだけじゃない!

薬袋   どうやって・・・?

黄野   馬鹿なの!? あなたたちが作ったんじゃない!



間。



黄野   ・・・本当に、知らないの。

薬袋   ええ。

亀竹   知らないんですよ。



黄野   そんな馬鹿な話がありえるっていうの!?

亀竹   もっと時間があれば、何かわかったかもしれないんだ。もし、あれからの1年が、研究所での時間であったら、未来は変わっていたかもしれない。

黄野   ・・・私のせいだって、そう言いたいの。

薬袋   私のせいですよ。でも、もうどうしようもない。



間。



黄野   私のいた未来の話をするわ・・・。これから少しして、未来を奪い合う戦争が起こったわ。時間と空間を捻じ曲げ、破壊する。時限爆弾。人とその人の歩んできた過去を破壊する爆弾。

薬袋   そんな兵器が。

黄野   未来を誰かに支配されるということは、可能性を支配されるということよ。そうやって可能性が失われた世界がどうなると思う・・・?

亀竹   可能性の失われた世界。

黄野   人間は可能性を好物に生きている生物なの。そこはね、無なの。でも、人は希望を失わないわ。私がこうして未来を取り戻すためにここにいたように。



間。



黄野   あなたたちは未来が分からないというけれど、私は、そのあなたたちがよく知らない場所で、生まれて、育って、生きてきた。ええ、確かにたくさんの不幸も起こったわ。でも、たくさんの幸福もあったことを知っておいてほしい。

薬袋   ・・・・・・。

黄野   それだけよ。本当にそれだけ。ああ、意味はないわね。あなたたちも消えるんだから。本当に、意味がない。





黄野、はけようとする。





亀竹   黄野さん! ・・・未来はわからないでしょう! 僕はあきらめない。この瞬間に電話が来て、未来への道がつながるかもしれない。その瞬間を逃さないように、その時を全力で生きるんだ。



黄野、何も言わずはける。



ゆっくりと暗転。



電話が鳴っている。



明転。



足達、黄野、薬袋がそれぞれ電話をしている。

それを、亀竹がとる。未来通信研究所のようだ。



亀竹   はい、もしもし・・・。





これにて、閉幕。