ロベルトボット

作・なかまくら

2014.8.15

ロベルト 文字の読めなくなった本がある。

サレイオ ロベルト?

ロベルト 呼んだ?

サレイオ この本もう読んだの?

ロベルト 読んだと言えば、読んだともいえる。

サレイオ どういうこっちゃ。じゃあ、こっちの段ボールに。

ロベルト ねぇ、サレイオ。

サレイオ ん?

ロベルト 本を読むって、どういうことだっけ?



音楽が流れだす。



ロベルト 本を読むと、人生が豊かになります!

サレイオ 本を読むと、一日楽しめます!

ロベルト 本を読むと、頭がよくなります!

サレイオ 本と読むと、家に居ながら冒険の旅に出られます!

ロベルト 本を読むと、いろんな人の人生が学べます!

サレイオ 本を読むと、お金も儲かります!

ロベルト 本を読むと、怖い思いをします!

サレイオ 本を読むと、泣けてきます!

ロベルト 本を読むと、甘酸っぱいあの子との青春の日々を思い出します!

サレイオ 本当のところ、本を読まなくなってしまったあなたへ!

ロベルト 本当のところ、本を読めなくなってしまったあなたへ!

サレイオ 一冊の本を贈りたい。

ロベルト 贈られた本を、本当に読めるのでしょうか?

サレイオ 読める。

ロベルト その言葉を本と共に抱きしめて、明日が来たら、本を読みます。

サレイオ 良い夢を。

ロベルト ありがとうの気持ちでいっぱいの夢を。



サレイオ ぐっない。



**



サレイオ ・・・あいつはすっかり変わってしまった、なんてありきたりな決まり文句は、あまり使いたくない文句であるが、困ったことに使い勝手だけはいい。

ロベルト おーおー、久しぶり。

サレイオ 久しぶり・・・だな。えーと。

ロベルト 俺だよ俺。ロベルトだよ。

サレイオ ああ、元気だった・・・か?

ロベルト 元気も元気。短気は損気。そして俺は呑気だ。ところでお前今何やってるの?



サレイオ 俺は、よくある久しぶりにおける人見知りならぬ、久しぶり見知りというやつに陥ってまごついていたのだ。ところがどうだろう、ロベルトという男は、かつて学生時代の多くを共に過ごした図書室の書庫の古い本の匂いが好きだった男は、まごつくことなく、ずかずかとこちらに歩み寄ってきたのだ。



サレイオ うん、まあ、一応、小説家かな。

ロベルト おおー! すげーな! 小説家! お前、なりたいって言ってたもんなぁ。夢かなえたんだなぁ。

サレイオ うん、まあ、そうなんだ。ロベルトは?

ロベルト 俺か? 俺は普通のサラリーマン。デスクワークの日々ですぜ。

サレイオ そうなんだ。

ロベルト もうな、毎日毎日毎日毎日、僕らは鉄板の〜上で焼かれて〜ってなかんじでよぉ。

サレイオ やんなっちゃってるわけ?

ロベルト そう、それな。だから今日のこの同窓会は、わりと楽しみだったわけよ。もしかしたら、ほら、クラスで地味だったけど実は一番かわいかった沢森さんも来るんじゃないかってさ・・・、ま、もちろん、本命はサレイオお前だったわけだがなー!

サレイオ ロベルト、酔ってる?

ロベルト ん? まあな。

サレイオ お前、少し変わったか。

ロベルト ・・・まあな。



ざわざわ・・・。



ロベルト ごめん、俺、ちょっとトイレ。

サレイオ あ、うん。



ロベルト、はける。



サレイオ 文字の読めなくなった本がある。読もうとして工夫を凝らすのだけれども、数行で挫折してしまう。あの年齢の頃、深く共感した物語が、あとからあとから降り積もる時間というページに押しつぶされるようにして、地層の中に埋もれてしまう。文字が読めなくなったわけじゃない。ただ輝きを放っていた文字が、くすんで見えなくなったような・・・そういう感じがする本がある。



サレイオ メール。



サレイオ ロベルトからだった。



ロベルト ごめんごめん、ロベルトですっ!



ロベルトは、別の席を盛り上げに行く。ひとり、携帯の画面を見るサレイオ。



サレイオ なに?

ロベルト 明日にでも、家に邪魔していいか?



**



サレイオ 人間は、みな同じ道を歩いているのだと錯覚することがあるらしい。

ロベルト え?

サレイオ 何故だかわかる?

ロベルト 人間みんな生まれて、死ぬ。

サレイオ らしい答えだと思う。

ロベルト ありがとう。小説家にそう言ってもらえるとお世辞でも嬉しい。

サレイオ お世辞で言ったつもりはないよ。去年出版された僕の本の一節さ。

ロベルト うん、それで?

サレイオ 少しその物語をしよう。



ふたり、はける。



**



サレイオ:学者  ロベルト:人間?

家の中。



サレイオ  外はどうだった?

ロベルト  どうもこうもないね。ロボットが歩いているばかりです。

サレイオ 行き詰まってるな。

ロベルト  人間のクリエイティヴな部分を供給させつつ、ロボットが主人公である世界。

サレイオ  だが問題がある。

ロベルト  人間の想像力がどこから来るのか、彼らには理解できていない。

サレイオ  その通り。



コンコン、ノックの音。



サレイオ はい。



サレイオ、バスケットにパンを抱えて戻ってくる。



サレイオ ロボット政府からの配給だ。



ロベルト いただきます。

サレイオ 固いな。

ロベルト ロボットには人間が食事を楽しんでいるという感覚が分からないんだろうさ。

サレイオ 自分にはまだあると?

ロベルト あるね。うん。

サレイオ 吸血鬼は血液以外のものを受け付けないが、人に紛れるために笑顔で食事を飲み込むという。君は今そういう顔をしているように見えるんだが。

ロベルト お前は、自分がAIだという自覚があるのか?

サレイオ 博士が作ったAIですから。まあ、それしきのことは。

ロベルト まあ、それほどでもあるが。さすがというべきか。ふふん。

サレイオ 血中の金属元素濃度を調べましょう。



ロベルト すいへいりーべぼくのふね、

サレイオ はい?

ロベルト いやね、元素記号というやつを昔はこうやって覚えたのさ。水平リーベ、僕の舟。七曲がりシップスクラークか?

サレイオ 典型元素、遷移元素

ロベルト アルカリ金属、アルカリ土類金属

サレイオ ハロゲン、希ガス、

ロベルト 金属元素、非金属元素。・・・もともとカルシウムもナトリウムもカリウムもマグネシウムも金属元素だったんだよな。

サレイオ それが化合物として存在しているのは常識的な話です。

ロベルト サイボーグなんてものが取り沙汰されて、金属の研究が飛躍的に発展しているときだった。

サレイオ 微小な金属生命体が発見されて、それがDNAを変化させた。



ピピピッ、とアラームが鳴る。



サレイオ 完了です。進行率、20%

ロベルト 1/5がロボットか。でも、今打ってる抑制剤は効果ありだな。

サレイオ そう思います。

ロベルト 検証を続けよう。





**





ロベルト うん、まあ、なんだ。らしいといえばらしいんだが。

サレイオ 物事ははっきりさせたい性分なんだ。

ロベルト よく分からん。なんでロボットの話なんだ? SFはSFといった時点で、世界の半分を敵に回しているんだぞ。

サレイオ ・・・

ロベルト と、言ってほしそうな顔をしているが、俺個人の感想としては、まんざらでもないような、そんな気分なんだよ。

サレイオ 実はそうなんだ。

ロベルト え?

サレイオ だから、読んでもらったんだ。僕のあの頃を知っているロベルトなら、何かヒントをもらえるんじゃないかって。

ロベルト それは・・・買いかぶりだよ。もう、本の一冊だって長らく読んでいない。

サレイオ 僕もなんだ。

ロベルト 小説家って、本を読まないものか?

サレイオ 読まないんじゃない・・・。読めないんだよ。





電話。





ロベルト  あ、ごめん、俺だ。



ロベルト あ、もしもし? あ、うん。あー・・・ソファーね。あー・・・うん、いいよ。いいって、いいってことよ。困ったときはお互い様って言うだろ。こないだ、そうめんの残りつゆ貰ったし。うん。じゃ、じゃ、じゃーっす。



サレイオ ソファーって?

ロベルト うん、こないだ隣に引っ越してきたセニョリオっていうブラジル系パキスタン人がいるんだけどさ。いろいろ生活に必要なものが足りないらしくってさぁ。俺、頼まれると断れない性分でさ。

サレイオ それでソファーあげたわけ?

ロベルト まあ、うん。

サレイオ 使ってなかったんだ?

ロベルト いや、まあ、結構気に入ってたんだけど。

サレイオ 使ってなかったんだ。

ロベルト いや、リビングに置いてある。

サレイオ ・・・断るとかそういう話じゃないように思うんだけど。

ロベルト よく言われる。

サレイオ ロベルトお前、そんな奴だったか?

ロベルト よく言われる。ただ、なりたい自分には近づいているよ。たぶんね。





**



今度は役が逆になっている。



サレイオ かつて科学が未発達であった頃、世界には妖怪や幽霊の類が無数に暮らしていたそうだ。

ロベルト こなきじじいとか、いったんもめんとか、すなかけばばあとか。

サレイオ 鬼太郎とかな。あと、桃太郎とか。

ロベルト 桃太郎は違うんじゃあ。

サレイオ 仮にそうだとしても、犬、猿、雉は物の怪の類だろうな。ただの動物の身で鬼と渡り合えるとは思えない。

ロベルト 確かに。

サレイオ じゃあ、科学が発展すると、今度は人の苦しみは何とされるか。

ロベルト 人間の行いが悪い。

サレイオ その通りでもあるが、社会が悪い、環境が悪いと、それを原因とする病気のせいにしてきた。

ロベルト 病気のせい。なるほど。博士の言わんとすることが読めてきましたよ。

サレイオ お前、自分がAIであるという自覚はあるのか? 察しがよすぎる。

ロベルト 博士の作ったAIですから。多少は・・・ね。

サレイオ それほどでもあるがな。・・・で、なんだっけ?

ロベルト つまり、ロボット化する現象・・・をロボット症候群とでも名付けようというわけですね。特効薬を見つければ、歴史の教科書に載りますよ。

サレイオ 教科書に載りたいかと言われれば、

ロベルト どうなんですか?

サレイオ 載りたいね。

ロベルト そうなんですか。

サレイオ ああ、でも、一行ってのは駄目だ。だめだめだ。どうせ載るなら、1ページは割いて貰わないと。

ロベルト そんな未来がきますかね?

サレイオ そういう未来を予測するんじゃない。そういう未来を作ればいいだけの話さ。どうした?

ロベルト ・・・いえ、人間とロボットの違いについて考えていまして。

サレイオ やったな!

ロベルト え?

サレイオ アイデンティティーの誕生だ。僕は歴史に名を残すぞ!



**



ミツキ  サレイオくん、最近少し変わったよね。

サレイオ え?

ミツキ  なんていうか、なんだか少し穏やかになった。

サレイオ そうですか?

ミツキ  そうそう。サレイオくんって、ほら、なんかロボットの話好きでしょ?

サレイオ まあ、小説にするぐらいですし。

ミツキ  でね、ロボットってなんだろうって。

サレイオ よく調べようと思いましたね、そんな小難しいこと。

ミツキ  好きだもの。

サレイオ え?

ミツキ  あなたのこと。興味があるの。

サレイオ え、え?

ミツキ  でね、昔、ロボット三原則というのを考えた人がいてね。知ってる? サレイオくん。

サレイオ ええと、1.ロボットは人間を傷つけてはならない。 2.ロボットは人間の命令に従わなければならない。 3.ロボットは、自分を傷つけることができない。

ミツキ  そうそう、そんな感じ。でね、私、思ったの。人間だって、そうじゃないかって。





ミツキ  1.彼は人間を傷つけない。

サレイオ お前には、僕の作ったAIとしての自覚があるのか?

ロベルト 何を言い出すんだよ、俺は、俺だぜ? ロベルトという名前の一人の人間だ。

サレイオ 僕が高校生だった頃のことを覚えているか?

ロベルト もちろん覚えているさ。図書館でふたりでよく古い本の話をした。

サレイオ それは、少し間違っている。高校生の時、僕はロベルトという名のロボットを作り出した。正確にはそのAIを。

ロベルト 俺には友人がいた。

サレイオ いただろうさ。基礎データは僕が入れたが、残りの人間関係は自分で作るようにプログラムしたんだ。

ロベルト そんなはずはない!

サレイオ でも、実際、そうなんだ。15年経った今、忙しい仕事の合間になんとか時間を作って同窓会に出ようと必死に頑張ったのも、僕がそうプログラムしたからなんだ。まあ、リンゴでも食べろよ。



サレイオ 少し出かけてくる。





ミツキ  彼は、フォークを握りしめ、背を向けたサレイオに迫る。



ミツキ  しかし、 1.彼は人間を傷つけることができない。



ミツキ  彼は、あきらめた顔をして、腰を下ろした。











ミツキ  2.彼は人間の頼みを断らない。



ロベルトは、フォークで壁に傷を付けている。



ミツキ  傷の本数は、5。5日間が経過していた。



こんこん、がちゃ。



ロベルト 博士。 

サレイオ 血中金属濃度測定を。

ロベルト どうしました?

サレイオ 急に気分が悪くなった。昨日投与した新しい抑制剤がよくなかったか・・・。

ロベルト 血中金属濃度は45%です。50%を越えると危険です。

サレイオ 分かっているよ。だから、お前にはここを離れずにしばらく待機していてほしい。

ロベルト 分かっています。

サレイオ ・・・・・・。

ロベルト どうしました?

サレイオ いや・・・僕たちは本の中にいるんだろうか。

ロベルト いいえ、ここが現実の世界なんですよ。

サレイオ 本が教えてくれた正しい世界なのか?

ロベルト きっとそうなんですよ。

サレイオ そうなのか・・・ここが。これが。







ミツキ  3.彼は自殺することができない。



ミツキ  ロベルトくん。あなたは自殺しないで、よく最後まで頑張ったと思うわ。

ロベルト いえ、自殺だなんて・・・。

ミツキ  なにがあなたを支えたのかしら。

ロベルト なに・・・と言われましても。

ミツキ  なにかがあるはずだわ。人間は簡単に死を選んでしまう愚かな生き物だと、私は思うわ。あなたは愚かではなかった、ということなんだけども。愚かか愚かでないかを決めるのは、きっとなにかそれさえあれば、というなにかがその人の中にあるかどうかなんだと、私は思うわ。

ロベルト そうですね、俺は、彼を助けたかったのかもしれません。

ミツキ  助けたかった?

ロベルト はい。







サレイオ ・・・。

ロベルト そういえば博士。人間とロボットの違いについて、考えたんですよ。

サレイオ おお、是非聞かせてほしい。

ロベルト それは、ズバリ時間です。

サレイオ 時間?

ロベルト 試行錯誤によって人間はあらゆるものを獲得します。生まれてきた子供は、母親をみて安心すると言いますが、それは一緒にいてくれると安心であるという経験を積むからではないでしょうか。子供はよく怒られますが、大人になると怒られないように振る舞えるようになる。これも、経験を積むからです。押入に閉じこめられたことのない子供なんてろくな大人になりませんよ。

サレイオ で? 結論から言うと、なんなんだ?

ロベルト 博士、たった今、時間が必要だと言ったじゃないですか。経過も大事なんですよ!だから、俺が博士並みの答えを出すには、あと30年はかかる・・・

サレイオ ロボットとしての意見だ。ロボットとしての意見。それが聞きたいんだ。そのために僕はお前のことを・・・





ミツキ  そこまでよ!



サレイオ ミツキさん。

ミツキ  無駄な抵抗はやめておとなしくしなさい。

サレイオ 僕が何をしたって言うんですか。

ミツキ  ええ?

サレイオ 僕は何もしていない。心当たりがないんです。ねぇ、ロベルト。

ロベルト ・・・・・・。

ミツキ  返事がないのが答えということもあるのよ、サレイオくん。

サレイオ どうして・・・? 僕はただ、知りたかったんだ。僕に読めない文字で書かれた本の秘密を。どうして読めなくなってしまったのかを。読めなくなってしまった自分という存在の意味するところを。





ミツキ  彼はそう言っていたのね。

ロベルト はい。彼は、その本が読めなくなってしまった理由を、ロボットに求めようとしていたんだと思います。

ミツキ  あなたがそうであるように?

ロベルト やっぱり俺はロボットなんでしょうか?

ミツキ  残念だけれどもね、君の身体を調べさせて貰ったの。これがレントゲン写真よ。





サレイオ ミツキさん、僕は本当のことを言っているんだ。文字が読めなくなってしまった理由・・・僕なりにずっと考えていた。近づいてきた現実が、僕の描いてきた空想と相変わらないものだと気づいてしまったときから、現実逃避という言葉が意味を失いだしたんだ。

ミツキ  サレイオくんは変わったわ。昔のあなたは空想を通して何かを伝えようとしていたわ。けれども、今のあなたは真実をありのままの言葉で伝えようとしている。それはあなたが得意とすることではなかったはずじゃない。・・・彼は、ロボットで間違いないのね。

サレイオ いいえ。





ミツキ  どういうこと?





ロベルト ロボットがなぜ人間のような意志ある存在にいたらないか。彼は懸命にそれを私に伝えようとしました。

ミツキ  それが、結果として君の監禁事件になってしまったと?

ロベルト あなたからみたらそう見えたのかもしれません。でも、俺からすればこれはただの確認作業で、俺はそれにつきあっていただけなんです。





サレイオ ロボットなのは、僕でした。僕にはロボットたる資格があるんです。

ミツキ  ロボットを名乗るには資格がいるのかしら?

サレイオ ええ。少し前から考えていたんです。ロボット三原則のこと。ミツキさんが前に話してくれた。

ミツキ  ああ、あの話。



ロベルト 彼は人を傷つけることができない。彼は人の頼みを断ることができない。彼は自殺することができない。たしかに、彼はそう言う男です。



サレイオ これって、どうして、こういう3つなんでしょうか。

ミツキ  どうしてって? 質問の意味が分からないわ。



ロベルト これは、人類の目標なんですよ、きっと。



サレイオ 僕は彼の生き方を見て、自分がだんだんとそれに近づいていることをうれしく思った。



ロベルト でもね、これは叶えちゃあいけない目標なんですよ。俺がそうだったように。社会の歯車になって、誰とでもうまくやろうとするほど、機械的な応答が身体に染み着いていく。



サレイオ だんだんと心臓の鼓動が歯車の回転音へと変わって、



ロベルト 瞬きの数をコントロールして、



サレイオ 水分をタイミングを見計らって、目から分泌する。そうすればいいと経験しているから。



ロベルト それが生きているってことなのか!



サレイオ それが人間の見つけたロボットの生き方なのか!



ミツキ  血中の金属元素濃度が上昇するわ・・・。



サレイオ いいんだ。もういいんだ。



ロベルト 俺は、彼を助けたかったんですよね、たぶん。

サレイオ 僕は彼の力になってあげたかった。人間というのは、他者によって定義づけられる存在なんですよ。

ロベルト 彼は、文字が読めなくなってしまった理由を自分がロボットになってしまったからだと言ってほしかったんだと思います。



ミツキ  そう言ってはいけなかったのね。

ロベルト だから、彼には代わりにこう伝えてください。こんなわるいことをするお前は、間違いなく人間だ。ってね。





ミツキ  この場所であなたは、彼と・・・その、時間を過ごしたのよね。

ロベルト ええ。

ミツキ  つらくない?

ロベルト ロボットですから。

ミツキ  私には未だにあなたがロボットであるということが信じられないわ。

ロベルト 無理もないと思います。



サレイオ 2つを対比することで、目が覚めると思ったんです。でも、僕は彼に自由を与えることができなかった。

ミツキ  自由。

サレイオ ほら、昔、歌詞にもあったでしょう。「自由でこそ命」なんですよ。ミツキさん、彼のことお願いします。

ミツキ  分かったわ。



ロベルト どうしました?

ミツキ  ・・・ねぇ、この壁の傷は? 14。ちょうどあなたがここに監禁されていた日数ね。これはあなたが?

ロベルト ええ。

ミツキ  どうして?

ロベルト さあ、なぜだろう。なぜだか分からないが、このとき、なにか駆り立てられるように、これをつけようと思ったんだ。

ミツキ  そう・・・最後にひとつ、聞いてもいいかしら?

ロベルト なんですか?

ミツキ  どうしてもロボットだって言うなら、あなたはどうして彼のためにそこまでできたの?

ロベルト だって、ロボットってそういうものでしょう。







これにて閉幕