サテライト=チャンネル
≡キャスト≡
@大阪
@千葉
@静岡
どこか。地球のどこかにある科学館。
とりあえず、朝。誰にも邪魔されることなく、やってきた朝。
大阪、寝袋からもそもそと起き出す。辺りを見回して、アンテナのついたヘルメットをかぶる。
大阪 ぴぴぴ・・・・・・今日もメッセージ、無し・・・。こちらから、メッセージを送ります。やあ、おはよう。世界に、おはよう。
千葉、入ってくる。
千葉 おはよう。昨日も泊まったんだね。何か成果はあった?
大阪 おはよう。
千葉 おはよう。寝癖、直してきた方がいいよ。
大阪 今日は早いんだな。
千葉 まあね。朝一番に来て、事務員の人が開けてくれるの、待ってたから。
大阪 今日の朝ごはんは?
千葉 ・・・じゃん!頭脳パン。
大阪 頭脳パン?
千葉 そう。大阪さんは外に出ないから知らないかもしれないけど、最近流行ってるみたいなんだ。身体の一部をパンの名前にするのが。
大阪 ピーターパンとか?
千葉 ピーターさんの手作りパン、おいしいよね。
大阪 ・・・そうだね。
千葉 だ、だからつまり、なぞなぞだよ。パンはパンでも食べられるパンは、みたいな?
大阪 ああ・・・コレシストキニン・パンクレオザイミンとか、か。
千葉 え、・・・え?
大阪 コレシストキニン・パンクレオザイミン。消化管ホルモンの一つで、十二指腸 や空腸のL細胞から分泌されて、33個のアミノ酸からなるペプチドで、小腸のI細胞で作られる。By Wikipedia。
千葉 ごめん、頭脳パンは、僕が食べるね。
大阪 そうするといい。
千葉 じゃあ、大阪さんは、これをどうぞ。かにぱん!
大阪 かにぱん。
千葉 実はかにぱんっておいしいんだよ。子どものおやつと馬鹿にしちゃいけない。
大阪 カロリー的な意味で。
千葉 そうそう、カロリー的な意味で。最近カロリーが気になって気になって・・・って、違うって。
大阪 ・・・千葉、なんか悩みごとがあるのか?
千葉 ・・・ないよ、別に。大阪さんは。
大阪 月が、地球から離れてくこと。
千葉 そう、だった、の? それは、大変だね。
大阪 そう、大変だ。月が出来た頃、地球との距離は今の二十分の一から、十六分の一くらいだった。なのに、今ではすっかり遠いところにある。あの頃月に移り住んだ人々は元気にやっているだろうか?
千葉 月には酸素がない。大気もない。もし移り住んでいる人がいたとしたら、その末路は分かっていることだよ?
大阪 月の裏側は?
千葉 1968年、アポロ8号に搭乗したフランク・ボーマン船長、ジム・ラベル飛行士、ウィリアム・サンダース飛行士は、人類史上初めて月の裏側を見た。ぴぴぴ・・・通信願います、こちらヒューストン。こちらヒューストン。アポロ8号、聞こえますか?ヒューストン宇宙センターは緊張に包まれていた。
大阪 月の裏側へは、地球人のちゃちな電波など届かない。
千葉 本艦、アポロ8号は、只今から地球へ帰還するためにエンジン噴射を敢行する。コレが最後のチャンスになる。ダメなら・・・銀河の果てまで宇宙旅行としゃれ込むことにしよう。そうしたら、いつか、人類が進歩と調和を果たした時、我々の船を見つけてくれることだろう・・・。コレを、ここに残しておく1968年12月25日、フランク・ボークマン、ジム・ラベル、ウィリアム・サンダース。
大阪 ・・・・・・月の裏側に、神様はいなかったんだね。
千葉 そうだね。僕らはまた、信じられるものをひとつ失くしてしまったのかもしれない。地底人や月のウサギ。僕らはどこへ逃げていくのだろう?・・・アポロ8号、聞こえますか?こちらヒューストン。こちらヒューストン、聞こえますか?・・・でも、何度呼びかけても・・・
大阪 ぴぴぴ・・・ヒューストン、こちらアポロ8号。
千葉 アポロ8号!・・・良く聞こえます。
大阪 了解。みんなに伝えてくれ。月にはサンタクロースがいる!
大阪 会いに行きたいよね。
千葉 え?
大阪 月のサンタクロースに。
千葉 でも、たぶんそれは気の利いたジョークで・・・
大阪 わかってる。でも、会いに行きたいな。
千葉 どこへ行くの?
大阪 月。・・・でも、その前にトイレ。
千葉 そう・・・よかった。
暗転。
静岡 それで、そのあと、どうされたんですか?
千葉 分かりません。どこをどう歩いたのか、気がついたら自宅の前でした。時々思い出したように地面を照らし出す外灯の光に目がくらんでいました。
静岡 目がくらんで・・・だから、大阪さんとは、連絡がつかなくなってしまったんですね。では、それ以来、大阪さんとは・・・。
千葉 違います!
静岡 え?
千葉 いえ、違うのは、そのことじゃありません。・・・大阪さんは、ずっとそうでした。彼女の心は月にあったのかもしれません。僕の声は、それほど彼女から遠かった。
静岡 ああ、だから、「ぴぴぴ・・・応答願います。」こんな言葉があなた方のあいだでは良く交わされていたんですね。
千葉 僕は最初、冗談だと思っていました。科学館のロビーで、・・・今思えば、彼女は確かに少し変わっていました。空の向こうの星空が見えているような、そんな瞳で、僕を・・・・・・
静岡 見てくれてはいなかったんですね。
千葉 仕方ないことなのかもしれません。僕はこの宇宙のなかで、あまりにもちっぽけで、どうしようもなく、卑怯で、でも宇宙はそんな僕を受け入れてくれます。彼女は僕なんかよりもずっと宇宙に近いところにいました。
静岡 では、彼女は孤独だったんでしょうか?
千葉 いいえ。
大阪 ぴぴぴ・・・応答願います。私は月に向かいます。月から見たら、地球は綺麗でしょう。人間が地球をめちゃくちゃにしなくても、10億年もすれば太陽の熱で地球の命は途絶えます。ぴぴぴ・・・誰か、助けてください。願いを込めて、この衛星を飛ばします。ボイジャー1号はただいま、太陽から約163億4400万km離れたところを、太陽との相対速度秒速17.09kmで飛行中です。誰か拾ってやってください。誰か、私を拾ってやってください。
千葉 大阪さんは言いました。The Sounds of Earth
静岡 訳せなかった英語みたいだね。
千葉 すみません、先生。・・・どうしても、訳しちゃいけない気がするんです。
静岡 千葉君は詩人なんだね。
千葉 いいえ・・・もし僕が詩人なら、
静岡 詩人なら・・・
千葉 別れの詩だけはけっして歌いません。
静岡 The Sounds of Earth。君には別れの詩に聞こえるのかい?
千葉 はい。The Sounds of Earth・・・それはまるで、地球の音。・・・地球の鼓動。そんな大切なものを誰かに手渡すのは、本当は誰の手にも渡らないところに棄てていることと同じではないんですか?
静岡 1977年9月5日。ボイジャー1号は地球を旅立った。ボイジャーはある重要な使命を持っていた。それは、まだ見ぬ誰かに僕らの詩を届けること。ボイジャー1号に積み込まれたゴールデンレコードには、考えうる限りの我々の存在の証明を刻んだんだ。
千葉 旅・・・ですか?
静岡 え?
千葉 二度と戻れない行程を、旅と読んでいいのでしょうか?
静岡 見て、聞いて、感じて。旅はいいものだよ。君も行ったらいい。そうだな、ピクニックでもいい。外に出て、蚊に刺されるといい。でも、僕らが生きている限り、蚊に・・・(パン!・・・と、腕を叩く)
暗転
千葉 かにパンのおいしい食べ方?そんなものボイジャーのゴールデンレコードには書いてないよ。うん。僕らにとって本当に大事なことは、きっと、人類にとっては、ほんの些細なことなんだ。
大阪 それで、どこから食べようか。
千葉 うん。これね、クリームかにパンなんだけど・・・あ、今、元祖のかにパンじゃないんだって、そんな顔したね?
大阪 そんなことない。何故人は古いものを大切にするのか、少し考えただけ。
千葉 そうなんだ。ならよかった。実は、クリームかにパン、すごくおいしいんだ。まずは足から食べようよ。
大阪 足にはクリームが入ってないんだな。
千葉 そうだね。
大阪 製造上の問題かな。
千葉 いや、たい焼きには入っていて、かにパンには入っていない。コレがどういうことか分かるかな。
大阪 さっぱりだな。
千葉 かにパンの足は元祖のかにパンと同じ味なんだ。まずは元祖かにパンを味わって、それからクリームかにパンを味わう。順番は並び替えることが出来ない。昔からずっと繋がっているんだ。アポロ1号がなければ・・・途中ひとつでも欠けていれば、アポロ11号が月にたどり着くことはなかったのと同じように。
大阪 1967年1月27日。アポロ1号は訓練中に火災を起こした。
千葉 ん?なんか焦げ臭くないか?・・・・・・か、火事だ!船内で火事だ!
大阪 おいおい、嘘だろ!
千葉 嘘じゃない!消火だ!消火器もってこい!
大阪 ・・・お前は、ここをどこだと思ってるんだ?ここは宇宙に一番近いところだぞ?そんな無粋なものがあるわけないだろう?
千葉 大阪さん・・・君はどうしてそんなに落ち着いているんだ。死ぬのが怖くないの!?綺麗ごとだけじゃ、人は生きていけない。Hey!ハッチをこじ開けるんだ!
大阪 無駄だよ。船内は高圧の酸素で満たされている。俺たちの旅はここで終わりだ。
千葉 そ、そんな・・・僕たち、こんなところで終わっちまうのか?まだ地上からわずか数十メートル。終わるにはちょっと早すぎるんじゃねぇのか?・・・うぁあああ!熱い!やめろ!やめてくれ!
大阪 おい、
千葉 なんだよ!
大阪 月にサンタクロースはいると思うか?
千葉 (急に冷静になって)宇宙人ってことか?
大阪 いいや、サンタクロースだ。
千葉 いるわけないだろ?
大阪 じゃあ、なんでお前は月を目指した?
千葉 ・・・(こと切れている)
大阪 なんで月を目指したんだ?こんな、こんな棺おけに乗り込んでまで。
千葉 ・・・・・・ぴぴぴ、応答願います。
大阪 なんだ、千葉か。どうかしたのか?
千葉 かにパン、どう、おいしい?
大阪 まあまあだな。
千葉 大阪さんのまあまあはわりといい出来ってことだから。
大阪 そんなものか?
千葉 そんなものだよ。実はね、そのかにパン、僕が焼いたんだよ。
大阪 卑怯だな。
千葉 ・・・え?
大阪 お前は、卑怯だな、そう言っている。
千葉 そうなのかな・・・深く考えたことなかったけど。
大阪 じゃあ、考えた方がいい。
千葉 うん。・・・・・・ねぇ、月へはもう行ったの?
大阪 見ればわかるだろう?ロケットがない。
千葉 そうだね。科学館のサターンロケットじゃ、月へはいけない。
大阪 そうか! ロケットを作ればいいのか。
千葉 え?
静岡 へい!全世界のリスナーのみんな!こちら、サテライト☆チャンネル!前回の放送からすっかり間が空いてしまってソーリー。今日たまたまめぐり合えた君はラッキーボーイ、ラッキーガールだね!今日の放送は、今この星で一番月に近い建物・・・TAIPEI 101からお届けするよ!
千葉 大阪さん、聞いてる?
大阪 聞いてる。
千葉 面白いよね、この番組。
大阪 まあまあだな。
静岡 じゃあ、次のお便りを紹介するよ!えーと、千葉・・・くん。ジャパンからのお手紙だね!
千葉 えっ!?
静岡 なになに・・・月にサンタクロースはいると思いますか?宇宙人はいると思いますか?おおっと、欲張りだね、ミスター千葉。でもサービスだ。答えちゃうよ!まずは月にサンタクロースがいるか、だよね。これはね・・・うーん、まだ分からないと思うんだ、ごめんチャイニーズマフィア! 僕もいつも月を見ているけど、その答えにはたどりつけてないんだ。いないってことを証明するのは、いるってことを証明するより、ずっと難しいんだ。でも・・・心だけはあるのかもしれないね!月からのメッセージが誰かをサンタクロースにするのかもしれない。ほら、ジャパンでは子どもにサンタクロースを信じさせる風習があるだろう?あれって、不思議だよね。つまり、サンタがメッセージを送ってるってことなのかもよ!私はここにいるんだってね。大人のどこか子どもの部分に語りかけているのかもYO!次は宇宙人だよね。宇宙人は、いるよ!絶対いるよ!我らの偉大なポストマン、ボイジャーが今も手紙を届けにいってるんだ!
大阪 ・・・・・・(ラジオをきる)
千葉 どうして切るんだよ。せっかく僕のが読まれてるのに。
大阪 今日のは面白くなかった。・・・でしょ?
千葉 そう・・・かな。そうかもね。
大阪 千葉。
千葉 どうしたの、大阪さん。
大阪 今日はパンを焼かなくていいのか?
千葉 ああ、仕事のこと? ほら、今日は日曜日だからお休みで、明日は月曜日だから、また、毎日毎日、パンを焼くんだ。
大阪 パンは缶詰にすれば、月での食料にもなるからな。
千葉 宇宙食のパンの缶詰! 美味しいらしいね。
大阪 かにパンはまだか。
千葉 かにパンはまだ宇宙には行けないかな。
大阪 そうか。
千葉 もしかして食べたかったの?
大阪 月曜日か。
千葉 ああ、うん。明日は月曜日だね。
大阪 月曜日は・・・月に帰りたくなるな。
千葉 えっ?
静岡 このときですか。
千葉 ええ、このときでした。彼女は不意に遠くの月を見つめ始めるのです。そして彼女はふわりと立ち上がって、そこにまるで、月からのお迎えが来ているように、立ち居ふるまうのです。彼女の腕は目にも見えない天衣無縫の衣を纏うようにしなやかに動いて見せて、それで、彼女の横顔はすごく、すごく魅力的なんですが・・・、
静岡 このままだと、
千葉 そうです、このままではいけないのです! だから、僕はこのときとっさに頭に思い浮かんだ言葉を彼女にめがけて言ったんです。
静岡 ほう、なんと。
千葉 「じゃあ、火曜日はどうしよっか」
大阪 む? うーーん、そうだな。
千葉 ・・・時間をかけて、話せば話すほど、彼女は遠ざかっていく気がするんです。
静岡 落ち着きなさい。
千葉 コレが落ち着いていられますか!時間をかけたことが間違いだったのかもしれません。もっと早く、気付いていれば・・・。
静岡 後悔は、いつも後からやってくるものです。チャンスには前髪しかない。
千葉 よく言いますよね。チャンスの神様には前髪しかない。ストレスでみんな抜けてしまったんでしょうか?
静岡 え?
千葉 だって、あまりにも意地悪じゃないですか。みんな待ってれば来てくれると思うから、そんな期待に押しつぶされて、チャンスの神様は前髪しかなくなってしまったんじゃないでしょうか。
静岡 そうかもしれない・・・な。
千葉 だから、このままじゃ、いけないんです!もう、まもなくチャンスの神様は前髪も抜け出します。その前に・・・チャンスを掴まなきゃ!
静岡 どうして?
千葉 万博・・・
静岡 え?
千葉 そう、万博に連れてったんです、彼女を。
静岡 よく彼女は了承しましたね。普段は科学館から一歩も出なかったんでしょう?
千葉 月の石をみに行こうって誘ったんです。
静岡 なるほど。それで?
千葉 石を見たら、夢から醒めると思ったんです。幻想にとらわれているんです。あそこは、ただ広大な真空の砂漠です。大きさは地球の四分の一しかなくて、重力も地球の六分の一。決して人が住めるような環境ではないんです。彼女は、帰って、一人泣いていました。静かの海で泣いていました。
静岡 静かの海って?
千葉 彼女が作ったレジャーシートのことです。月面の図柄がプリントされていて、彼女はその上を静かの海と呼んでいます。
静岡 彼女は、だから、月にいるのですね。
千葉 いつまでも月にいさせるわけには行かないのです。
静岡 どうして?
千葉 どうしてって・・・それは・・・
大阪 (月に向かって祈りを捧げている)・・・帰ろう。月に帰ろう・・・。
静岡 大阪さん、だね。
大阪 え、あなたは?
静岡 静岡といいます。
大阪 静岡さん。
静岡 ええ。
大阪 静岡さん・・・
静岡 はい。
大阪 一緒に月へ帰りませんか?
静岡 え?
大阪 宇宙はやがてエントロピー増大の法則に従って緩やかな死を迎えます。しかし、その前に地球はその高々100億年程度の歴史に幕を閉じるでしょう。
静岡 その前になくなってしまうかもしれませんが。
大阪 だから、月へ帰りましょう。私たちとともに
静岡 私たち?
大阪 そう、美しきノクターンの神様のもと、月から生まれた命は月へ帰るのです。
千葉 彼女は、良く分からない宗教にのめりこんでいるのです。どうか、とめてください!
静岡 なるほど・・・。それもいいかもしれません。
千葉 ちょっと待っ・・・
大阪 そうですか!
静岡 月へ行きましょう。私はあなたのことが気に入りました。
大阪 ええ、月へ行きましょう。月へ帰りましょう。私はかぐや姫に付き添うお供の一人でかまいません。故郷に帰りたいのです。
静岡 ロケットが必要ですね。NASAへ行きましょう。余ったロケットを分けてくれるかもしれません。
千葉 何を言っているんです! だいたいあなたは・・・・・・あれ、あなたは誰です?
静岡 私?私はずっとあなたといましたよ。あなたの先生です。
千葉 はい。いいえ。あなたは、僕と一緒にいた。でも、先生ではない。何の先生です?
静岡 物理学の先生。いえ、心理学の先生かもしれない。ボイジャー1号と私の間には万有引力が働いています。
千葉 え?
静岡 繋がっているのです。あなたと私も。そして、大阪さんも。
千葉 だからなんだというんです。ちっぽけな力ではないですか。そんなものに頼るよりも、ひとつの言葉で。一歩踏み出すことで、僕たちは近づくことが出来る。
静岡 その通り。でも、頼ってきたのはあなた自身だ。
千葉 僕は・・・・・・どうしたらいいんでしょう?
静岡 大阪さんの気持ちを考えたことはありますか? 彼女はなぜ、科学館にずっといたのでしょう。例えば、何を、誰を、待っていたのだとしたら。千葉くん、君が答えになり得ますか?
千葉 僕は、答えを知っているのでしょうか。
静岡 難しく考えることじゃありません。ありのままに。だって、その答えはずっとあなたの中に眠っていたはずです。月が隠れて見えなくなれば、また、朝が来ます。眠っていた答えは目を覚ますでしょう。
千葉 ・・・いいえ。答えは、夜行性かもしれません。
静岡 なるほど。それはあいにくと気がつかなかった。夜だというなら、火を灯して行くといい。私は一足先に。
千葉 行くのですか?
静岡 どこへ?
千葉 ええと・・・どこでしょう?例えば、月とか。
静岡 あなたたちの心が月に集まるのなら、あるいは。
千葉 そうですか。
静岡 健闘を祈ります。
大阪 ぴぴぴ・・・・・・今日もメッセージ、無し・・・。こちらから、メッセージを送ります。やあ、おはよう。世界に、おはよう。
千葉 おはよう。お元気ですか?
大阪 元気です。あなたは?
千葉 元気です。ありがとう、
大阪 あなたはどこから?
千葉 とある科学館からです。あなたは?
大阪 月です。
千葉 え?
大阪 私は今、月にいます。
千葉 会いに行ってもいいかな?
大阪 月まで?
千葉 うん。
大阪 ロケットは持っていますか?
千葉 あなたに続くロケットなら。
大阪 ・・・こんにちは。
千葉 こんにちは。
大阪 よく来ましたね。疲れたでしょう。
千葉 大変でした。東西の冷戦、ロケット開発競争。いろんなことがありました。セルゲイ=コロリョフとヴェルナー=フォン=ブラウン。ふたりの科学者を中心に世界はしのぎを削りました。
大阪 世界とは、地球のことですね。
千葉 ええ。でも、ここも世界の一部です。
大阪 そうですか?
千葉 ええ、間違いなく。
大阪 核ミサイルは出来ましたか?
千葉 え?
大阪 あなた方は月を壊すおつもりですか?
千葉 どうして?
大阪 地球人は、地球を大切にしないから。
千葉 大阪さんも地球人でしょう。
大阪 大阪さん、と呼ばないでくれるかな。ここは、月だから。
千葉 どうして?
大阪 あなたはどうしてここへ来たの?
千葉 どうしてって・・・大阪さん、あなたがここにいるから。
大阪 大阪と呼ばないでもらえないか。
千葉 あなたは?
大阪 私?私は・・・ここにいると私になれる気がするから。
千葉 え?
大阪 月の大きさは地球の四分の一。月の重力は地球の六分の一。ここにいれば私は、この星に住むちょっと大きな私になれる。ここにいれば、私はきっと・・・。
千葉 でも、ここはちょっと寂しいよ。
大阪 そうかな?
千葉 花も咲かないし、雨も降らない。かえるは歌わないし、虹もかからない。息をしているのは僕たちだけだ。
大阪 でも、外は寒いぞ。
千葉 でも、・・・帰る場所は、ここでもいい。旅に出よう。
大阪 旅?
千葉 ボイジャー1号2号は旅に出た。そして、その旅の途中で命を閉じる。
大阪 それは旅って言うのか?
千葉 振り返れば、道ができる。それが僕たちの生きた証になる。それは、旅って呼んでいいんじゃないかな。
大阪 だとしたら、私は今、旅をしているのかな?
千葉 休憩中なのかもしれない。月は大阪さんのオアシスだった。でも、そろそろ旅に戻らなきゃ。待っている人がいるから。
大阪 待っている人?どこに?
千葉 ここに。行こう!
大阪 ・・・・・・少しだけなら。
静岡 アポロ11号の船長、ニール=アルデン=アームストロングは、その日、月面に着陸した。そして、彼はこう言った。
(レジャーシートの上から、一歩、外へ踏み出す。ぐしぐしと足跡をつける)
大阪 千葉、なにをしている?
千葉 いや、記念に。
大阪 記念に?地球は既に足跡だらけだ。
千葉 そうだね。でも、僕らの足跡はここにしかない。
大阪 この一歩は・・・
千葉 え?
大阪 アポロ11号の船長は、月面に降り立ったとき、こう言った。
静岡大阪 「この一歩は小さいが、人類にとっては、偉大な躍進だ」
千葉 人類にとって・・・?
大阪 私にとって。
千葉 私たちにとって。偉大な躍進だ。
静岡 この一歩は小さいが、
大阪千葉 私たちにとって、
3人 偉大な躍進だ。
千葉 ・・・お昼、どうしようか。
大阪 かにパンにしよう。
千葉 すきなんだ。
大阪 まあまあかな。
暗転。
これにて閉幕。