ボロボ

作・なかまくら

2010.2.3

【キャスト】



矢吹鋼子・・・・・・・・・・・・・・ボロボ3号機のパイロット



ボロボ・・・・・・・・ボロボのヒューマノイドインターフェース



那須野博士・・・・・・・・・・・・ボロボの設計者



夏目一代(ひとよ)・・・・ボロボ2号機のパイロットだった



清武くん・・・・・・・・・・・・・トピアのパイロット



オペレーター・・・・・・・・・・・・岸さん。















【1】



プロローグ

   無線が入る。男の声がする。

   街角には立派なツリーが立ち、にぎやかな音楽が流れている。

   中央には女がひとり。野球帽をかぶっている。



鋼子       一九九二年十二月二十四日。水曜日。雨。雪になってくれればロマンティックなのに。そう愚痴る友達に贅沢だと笑った。ところが、夜の帳がゆっくりと下りて、街灯がつき始める頃にはすっかり雪が積もっていた。私たちは、すっかり汚れた雪を踏みしめて、夜の街を歩いた。・・・そして、出会った。



   大きな足音。

   映像。巨大なロボットが映し出される。



鋼子       足元には池みたいな巨大な足跡。私は走った。ライトアップされた東京タワーを今にも片手でねじり取りそうなロボットめがけて、走った。私はずっと待っていた。どこかにこういう世界があると信じていた。そして、世界はこうして私に会いに来てくれたのだ。だから、今度は私が会いに行かなきゃ。



   暗転。



【2】





   そこはどこか街中のベンチ。

   鋼子がイヤホンを耳につけて、本を読んでいる。



(音声)オペレータ  次。受験番号、203番。入りなさい。

鋼子       ・・・・・・・・・



鋼子は黙って近くの電話ボックスに入る。電話ボックスの下半分は外からは見えないつくりになっていて、そこから鋼子は裏にはける。



【3】





鋼子、ノックをして、中に入る。



鋼子       失礼します!

那須野博士    はい。

鋼子       受験番号203番。矢吹鋼子です。

那須野博士    鋼子さん、ですか。変わった名前ですね。鋼の子と書くんですね。

鋼子       はい。父が鉄男で、母が徹子で・・・。だから私は鋼子です。

那須野博士    なるほど。ここに来たのはもしかして名前の所為だったりして?

鋼子       そんなことはありません。私は私の意志でここにきました。

那須野博士    ふうん。まあ、いいでしょう。まずはどうやってここにたどり着いたのか、教えてもらえるかな。

鋼子       私はメカニックの桜井さんに教えていただいた電話ボックスの入り口からここへ来ました。

那須野博士    へぇ・・・。あの人元気にしてた?

鋼子       はい。なんだかとても楽しそうにスパナを振り回していました。

那須野博士    楽しそうに?

鋼子       ええ。毎日がとても楽しいんでしょうね。桜井さんとはお知り合いなんですね。

那須野博士    そうか・・・いいなぁ・・・寿退社。お家帰りたいなぁ・・・

鋼子       ええっと・・・?

那須野博士    鋼子さん、僕と結婚を前提にお付き合いしませんか?

鋼子       え、独身なんですか?

那須野博士    んーん。

鋼子       あ、そうですか。あいじ・・・じゃなかった。その・・・面接・・・ですよね?

那須野博士    そんなことはどうでもいいんだ。

鋼子       どうでもよくありません。

那須野博士    そうかなぁ。人類の平和と僕の心の平穏。どっちが大事かなぁ・・・

鋼子       それはもちろん人類の平和です。

那須野博士    そうなの?えらいね。・・・ところで、桜井さんはなにか僕のこと言ってなかった?

鋼子       いいえ。私は、ええと・・・

那須野博士    ああ、僕は、那須野です。

鋼子       那須野さんのことを知らなかったので、そういう話はしませんでした。

那須野博士    ま、そうだろうね。他には?

鋼子       え?

那須野博士    何か面白いことなかった?

鋼子       ありました。今日まで一週間ほどお世話してもらってしまったのですが、家の中がびっくりするような機械で溢れていて・・・・・・。

那須野博士    じゃあ、君もあの恐怖の髭剃りマスィーンの餌食になったわけだ。

鋼子       髭剃りマシンですか?

那須野博士    僕もあれには度肝を抜かれたよ。眠っている間に髪の毛はもちろん、睫毛まで剃っていくんだからね。おかげで僕は三十を過ぎてから、花粉症になってしまった。

鋼子       そうですか。私は特には。

那須野博士    だから設計は私にやらせておけばいいと言っておいたのに。第一、桜井はなんで髭剃りマシーンなんて作ったんだろうね。女だから髭なんて生えないのに・・・・・・。

鋼子       ・・・・・・さあ、わかりません。

那須野博士    それで?

鋼子       はい?

那須野博士    なんだっけ?まあ、いいや。

鋼子       はあ。

那須野博士    じゃあ、立ってください。

鋼子       はい。

那須野博士    今からリズムに合わせて、手旗信号をします。はいこれどうぞ。アーユーレディ?ミュージックスタート!

鋼子       え、ちょっといきなりなんですか!?

那須野博士    赤上げて、白上げて、赤下げないで白下げない。赤白下げて、三回回ってワン!

鋼子       (なんとかこなす)ワン!

那須野博士    判断力、決断力、敏捷性、よし。

鋼子       はい。これ、置いときますね。

那須野博士    じゃあ次は視力検査です。はいこれ(スプーン)でこんな風に両目を隠してウルトラマン!・・・はい。

鋼子       ええと、あの・・・・・・

那須野博士    はいげんてーん(やる気なさげに)決断力いまいち。

鋼子       分かりましたよ。ウルトラマン!

那須野博士    はい。じゃあそのままこっち向いて。

鋼子       こっちってどっちですか?

那須野博士    こっちこっち。

鋼子       こっちですね?

那須野博士    ちがーう。こっちだって。はい減点。方向音痴。

鋼子       ちょっと・・・

那須野博士    はい。ウルトラマンやめない。こっちの線のところに立ってね。

鋼子       はい。

那須野博士    じゃあ、どこに開いてるか当ててね。はい。

鋼子       ・・・え?

那須野博士    早く。

鋼子       でも、どうすれば

那須野博士    ココロの目だよ。ココロを研ぎ澄ませばきっと分かる。

鋼子       ・・・・・・分かりました。上!上!下!下!左!右!左!右!B!A!

那須野博士    素晴らしい。では、いよいよ最後の試練です。

鋼子       ・・・・はい。

那須野博士    こちらにどうぞ







【4】





ライトのつく音。

映像。巨大なロボットがシルエットで映し出される。

同時に舞台脇に男。彼こそがボロボである。



鋼子       ・・・・・・・・・

那須野博士    どうだい?すごいだろう?これが僕が設計して、桜井さんが作り上げた超電動ロボ、ボロボだよ。

鋼子       ・・・やっと会えました。

那須野博士    そうだね。おめでとう。昔は敵もそんなに強くなかったから、ボロボを使うまでもなく通常戦力で対処できた。しかし、敵も新型兵器を実戦投入してきている。これからはボロボの力が必要になってくるんだ。

鋼子       ・・・はい。

那須野博士    じゃあ、早速だけど、ボロボを動かしてみて欲しい。

鋼子       え!?いいんですか?

那須野博士    ・・・それが最終試験なんだ。

鋼子       動かすことが、ですか?

那須野博士    鋼子さん、君の受験番号は?

鋼子       203番です。

那須野博士    うん。君は今回受験した最後の一人だよ。君と同じようにここまでたどり着いたのは101人。でも、誰一人としてボロボを動かすことは出来なかった。

鋼子       ・・・・・どうしてですか?

那須野博士    わからない。駆動系から、OSから、すべて調べた。だが、どこにも異常はなかった。ただ、ひとつだけ分かったことがある。それは、ボロボはパイロットを選ぶ、ということだ。

鋼子       じゃあ、最近ボロボが戦いに出てこないのは・・・

那須野博士    そう。動かせるパイロットがいないんだ。

鋼子       ・・・・・・信じられません。

那須野博士    これは誰にも絶対に話してはいけないからね。

鋼子       ・・・私、乗ってみます。絶対に乗りこなして見せます。

那須野博士    うん。あ、そっちじゃないよ?遠隔操作だからね。こっちの椅子がコックピット。

鋼子       ・・・・・・そうでした。

那須野博士    落ち着いてやろうね。じゃあ、起動するよ。



音がして起動する。

   脇で手持ち無沙汰にしていた男がやってくる。



ボロボ      ヨウコソ

鋼子       え!?

那須野博士    ああ。彼はボロボのヒューマノイドインターフェース。

鋼子       ヒューマノイドインターフェース?

那須野博士    そう。ヒューマノイドインターフェース。・・・簡単に言うと、ロボットに組み込まれている人工知能かな。ただたいした能力は持っていないから、基本的には自分の力で何とかしてよ。

ボロボ      ドウシマスカ?

那須野博士    ボロボ、起動の手順を。

ボロボ      了解シマシタ。ウインドウ1ヲゴ覧クダサイ。

那須野博士    ウインドウ1・・・ね。

鋼子       え、どこですか?

那須野博士    ほら、ここ。ミラーの下。これがウインドウ1。覚えておいた方がいい。

鋼子       はい。

ボロボ      ・・・マズハ、コウドウオペレーティングシステムヲタチアゲテクダサイ

鋼子       これ・・・ですか?

那須野博士    そうだね。

鋼子       起動!

ボロボ      キドウプロセスヲカクニン中・・・カクニン中・・・姿勢制御システム起動。リモートコントロールシステム、起動。

那須野博士    おお・・・いい調子いい調子。これはまさか・・・いけるのか!?

ボロボ      ・・・動力回路ノシステムチェック、1番カラ10番マデオールグリーン・・・行動予測プログラム、・・・エラー。



   警告音が鳴る。同時にシステムが緩やかにシャットダウンしていく。



ボロボ      システムエラー。ボロボ、起動ヲチュウダンシマス。

那須野博士    今度は行動予測プログラムか・・・・・・やはりダメなのか・・・

鋼子       ・・・・どうして

那須野博士    残念だったね。でも。ダメなんだ。さっきも言ったけど、こいつは乗る人を選ぶ。前のパイロットは・・・

鋼子       どうして!!

那須野博士    鋼子さん?

鋼子       どうして!?私だよ?会いにきたんだよっ!あの時私を見たよね。あの、クリスマスの、白い雪の舞い散る中で!

那須野博士    あなたは、以前、ボロボの戦いを見たのですね。

鋼子       はい。見ました。

那須野博士    そして、あなたは、今、ボロボがあなたを見たと言った。

鋼子       はい。あの時確かに視線を感じた気がします。

那須野博士    ・・・・以前、乗っていたパイロットに会ってみるかい?

鋼子       え?

那須野博士    ・・・かつてパイロットをしていた女性は、今、港区の赤坂に住んでいるんだ。

ボロボ      ・・・マジデスカ?

那須野博士    ・・・え?

ボロボ      システムエラーカイセキチュウ・・・

那須野博士    ちょっと、今なんか言ったよね!?もう一回言って?

ボロボ      システムエラーカイセキチュウ

那須野博士    ・・・言ったよね。『マジデスカ』って確かに言ったよね。鋼子さん?

鋼子       ・・・はい、たぶん。

ボロボ      システムエラーカイセキチュウ

那須野博士    ・・・・・・

ボロボ      システムエラーカイセキチュウ

那須野博士    ・・・・・・はあ。ついにインターフェースまで狂ってきたか・・・・・・。今日も徹夜かなぁ・・・。あ、鋼子さん?とりあえず、試験は不合格です。

鋼子       ・・・はい。

那須野博士    ただ、

鋼子       ただ・・・?

那須野博士    一度彼女に会ってみるといい。君はいいところまでいった。もしかするともしかするかもしれない。そんな人材を逃す手はないだろう?良かったら、うちで働かないか?

鋼子       ・・・・・・ちょっと、考えさせてください。

那須野博士    うん。正義のために命をかける仕事だ。十分に考えた方がいい。十分は考えたほうがいい。うん。

鋼子       とりあえず今日は・・・これで失礼します。

那須野博士    うん。お元気で。・・・って、返事は明日になっちゃうの?

鋼子       失礼、しました。



鋼子はける。

暗転。

那須野博士はける。





【5】



   電話ボックスから、のそのそと鋼子がでてくる。

   ふいに電話がかかってくる。



鋼子       はい、もしもし

???      やあ。おれおれ。

鋼子       切りますね・・・

???      ちょっと待てって!俺だって!右向けー右!

鋼子       ?



見ればそこにはなんということでしょう。ボロボのヒューマノイドインターフェースの男が立っているではないか。あれまあ、びっくり。



ボロボ      や。

鋼子       ・・・久しぶり。さっきはひどいよ。せっかく女の子が訪ねていったのにさ。

ボロボ      いや、ホントごめんな。最近ロクな奴が来なくてさ。いろいろめちゃめちゃにしてたし、こっこが会いに来てくれたのもあって、ちょっと浮かれとったわ。

鋼子       もう子どもじゃないんだから、こっこはやめてよ。

ボロボ      ん?そうか。今年でもう二十一か。あれから三年も経ってるんだな。

鋼子       そうだね。ホントに長かった・・・。

ボロボ      こっこは動いてただろ?まだ忙しく働いてたほうがいいって。

鋼子       だからこっこは・・・

ボロボ      ああ、これな。クセだ。

鋼子       クセ?

ボロボ      そう。「こ」のあとに「う」があると発音が難しい。「こうこ」、「こうこ」?

鋼子       「う」はそんなに頑張って発音しなくてもいいんだって。

ボロボ      そんなこといわれても俺、機械だし?

鋼子       都合のいいときだけ機械ヅラして・・・

ボロボ      プログラムのクセなんだって。しかたないだろ?

鋼子       まあ、いいや。なんか変わってないね。安心した。

ボロボ      こっこもな。交戦中の俺によじ登ろうとした奴は後にも先にもお前だけだよ。

鋼子       それはもういいって!

ボロボ      でもなぁ・・・あの時一番ビビッたのは当時の俺の相棒だぜ?ホントに足がぴたりと動かなくなって、レーザーとミサイルで敵を近づけないようにって、必死だったぜ?俺は面白かったけどな。謝りには行った?

鋼子       ・・・・・まだ

ボロボ      まだぁ!?信じられん。

鋼子       だって・・・いやなんだもん。ボロボの相棒だった女の人とか・・・私、今のままじゃ勝てないもん!

ボロボ      お前まだそんなこと言って・・・だいたいな、

鋼子       お腹減ったかも!チーズケーキとか食べたいな。

ボロボ      お前、いいなぁ。



   その時、突如轟音。続いて巨大な足音。



鋼子       な、なに!?

ボロボ      出たな。敵だ。

鋼子       敵!?じゃあ、ここ危ないの?ボロボ早く逃げて!

ボロボ      こっこ。落ち着けって。俺はよく出来たホログラム。つまり、立体映像。危ないのはお前だって。

鋼子       でも・・・戦うんでしょ?

ボロボ      ・・・・・・・・・

鋼子       ねぇ・・・

ボロボ      いいや。俺は戦わないよ。忘れたのか?俺には今パイロットがいないんだ。さあ、シェルターはこっちだ。

鋼子       ・・・・うん。



   ボロボ、鋼子早歩きで移動するが、すぐに鋼子が立ち止まる。



ボロボ      こっこ?

鋼子       ・・・ねぇ、私じゃ、だめかな?

ボロボ      こっこ・・・気持ちは嬉しいけど。会いに来てくれたのはすごく嬉しいけど、それはダメだ。

鋼子       どうして?だって、このままじゃ街がめちゃくちゃになっちゃうじゃない!

ボロボ      でも、こっこ、お前にはどうしようもないだろ?

鋼子       そう、私には何も出来ない!・・・でも、あなたには出来るじゃない。ねえ、力を貸してよ。私と一緒に・・・私に一緒に戦わせて!

ボロボ      お前、なんで泣いて・・・

鋼子       泣いてなんかないよ!・・・ただ・・・

ボロボ      ただ?

鋼子       ただ・・・このままじゃボロボはいつかスクラップにされちゃうよ

ボロボ      ・・・そうか。そうだな。

鋼子       (えぐえぐ)

ボロボ      ・・・・・・ちょっと迷惑かけるかもしれないけど・・・・・それでもいいかな?

鋼子       ・・・私、どれだけ苦労してあなたに会いに来たと思ってるの?もう十分迷惑してるんだから・・・

ボロボ      そっか。ごめん。ありがとな・・・。

鋼子       ボロボ?

ボロボ      ごほん。私。ボロボは、矢吹鋼子さんをパイロットと認証します。合言葉を言ってください。

鋼子       合言葉?

ボロボ      ・・・何か決めてよ。ほら、早く。俺機械だからそういうの無理だから。

鋼子       じゃあ・・・クリスマスの夜に・・・とか

ボロボ      うわっ!恥ずっ!

鋼子       そういうこと言うの、機械のくせに!私だって、ちょっと後悔したし。

ボロボ      じゃあ変える?

鋼子       ううん。これがいい。

ボロボ      じゃあ、合言葉を言ってください。

鋼子       クリスマスの夜に

ボロボ      ・・・認証しました。

鋼子       ありがと

ボロボ      よし。じゃあ、そこの地下道降りて。近くに入り口があるから。急いで基地に戻ろう。

鋼子       うん。



ボロボ、鋼子はける。

暗転。



【6】





基地内では、那須野博士が慌しく(?)電話をかけている。



那須野博士    だから、今日は帰れないんだって。分かってくれよ。それよりも、避難警報が出てるよね?早く避難して。僕は君のことが心配なんだ!・・・え?私が持っているあなたの限定品のプラモが心配なんでしょって?そ、そんなことあるわけないじゃないか?もちろん、君のことが心配だよ?

         あ、ちょっと君、それそんなところ置いといちゃダメだよ・・・。いざというときに通路になるんだからね!

         ・・・あ、違うんだよ。うん。プラモ・・・は、君がどうしても持っていけないというなら・・・置いてっても(泣)いいんだよ・・・・・・また新しいの買えばいいから。でも、君の代わりはきかないんだ。だから早く・・・

         あ、そんな扱いしたら壊れるじゃないか!ちょっと、ほら、もう。確か予備がひとつあったはずだ。研究室にあるから、取ってきてくれたまえ。

         あ、違うんだよ。違うんだ!これは、仕事の話で!・・・え?あんたなんてもう知らない?うそーん。え、ちょっと、明子さん?明子さん!?・・・ツーツーツー・・・うそーん!



   うなだれる那須野博士。

   そこに駆け込んでくる鋼子。

   オペレーター、席に座る。



鋼子       那須野博士!

那須野博士    ・・・おんどりゃー(何かを投げるふり)・・・どうしたね?

鋼子       (投げられたものの軌跡を目で追いそうになって、ハッとして)博士。・・・もう一度私をボロボに乗せてもらえませんか。

那須野博士    何を馬鹿なことを・・・。今は戦闘中だぞ。

オペレーター   第二自走砲大破! 第五歩兵部隊、重軽傷多数。一般人にも被害者が出始めているようです!

鋼子       そんな・・・このままじゃ!私・・・守りたいんです!

那須野博士    気持ちは分かる・・・しかし、ボロボのエラーの解決にはまだ時間が・・・。

オペレーター   通信。ボロボからです! システム起動準備完了。

那須野博士    そんな! 予定よりも十二時間も早くプログラムの更新作業が終わるなんて。

鋼子       ・・・博士!

那須野博士    ・・・よし。君に賭けてみよう。ついてきなさい。



   映像。巨大なロボットの姿が映し出される。

   コックピットである椅子に鋼子が座る。

   その両脇にボロボと那須野博士。



鋼子       システム、起動!



オペ・那須野   こっこがそう叫ぶと、超電動ロボ、ボロボは永い眠りから目を覚ました。



那須野博士    素晴らしい!ついに起動した。よし、発進だ!



オペレーター   四方にビルの立ち並ぶ交差点が真ん中から四つに割れる。そして、巨人はゆっくりと立ち上がった。



那須野博士    ビルを遥か下に見下ろしたボロボは、ゆっくりと敵のロボットに向かった。敵が放ったミサイルは、ボロボに当たる直前で爆発した。



オペ・那須野   バリアーだ。



オペレーター   応戦して、ボロボもミサイルを発射する。発射と同時にジェット噴射で、一直線に飛ぶミサイルは、やはり同じように敵に当たる直前で爆発した。



オペレーター   ・・・バリアーだ・・・・・・バリアーだ・・・・・バリアーだ・・・バリアーだ

那須野博士    バリアーだ・・・・バリアーだ・・バリアーだ・・・バリアーだ・・・バリア

(二人の声がいるはずの他のオペレーター動揺として、ざわざわとする)



オペ・那須野   バリアーだ。



那須野博士    ボロボはすぐに戦い方を変えた。敵に素早く近づく。



オペレーター   はられたバリアーを叩き割って、その鋼のコブシを敵の顔面にたたきつけた!続いて左!右!



那須野博士    よろめく相手にトドメを刺そうとしたとき、敵の目がきらりと光った。



オペレーター   レーザービームだ。



那須野博士    しかし、ボロボは鋼の巨人。赤熱する身体を動かし、敵を殴る。



オペ・那須野   殴る!



3人       殴る!



オペレーター   そして・・・敵はついに動かなくなった。



オペ・那須野   これがボロボとこっこの初めての戦いだった。



那須野博士    合言葉はクリスマスの夜に。



オペレーター   こっこはひとり、コックピットで泣いていた。



暗転。





【7】



   そこはどこか病院の一室。

   鋼子が座って、どこか遠くのほうを見ている。

   ふいにドアの開く音。那須野博士とボロボが入ってくる。



那須野博士    鋼子さん、調子はどう?

鋼子       ・・・おかげさまで、だいぶ落ち着きました。

那須野博士    いやぁ、びっくりしたよ。初めてであんなにうまく動かして、それなのに、コックピットで泣き崩れてたからさ

鋼子       すみません。ご迷惑をお掛けしました。

那須野博士    いや、迷惑だなんて・・・。むしろお礼を言わないといけない。ありがとう。君がこの街を守ったんだ。

鋼子       私じゃありません・・・・・・守ったのは・・・ボロボです。

ボロボ      イイエ、ソウゴケンソンナサラズニ

鋼子       え!?

ボロボ      ドウカナサレマシタカ?

鋼子       博士、ボロボ、どこか壊れてるんですか?

那須野博士    え?いいや。特に問題ないはずだが?ボロボ、念のためにシステムチェック。

ボロボ      命令カクニンシマシタ。システムチェックニ入ルアルヨ(ウインク)。

鋼子       ぷっ・・・

那須野博士    あれ?何か不安定だなぁ・・・。ん、どうかした?

鋼子       いいえ!(笑)なんでもありません。

那須野博士    そうか、笑顔が戻ってきたね。もう大丈夫かな。

鋼子       本当にご心配をお掛けしました。それで・・・

那須野博士    それで?

鋼子       えと、なにか用があってきたのではないですか?

那須野博士    うん・・・それなんだけどね。本当は、話さずにこのまま帰ろうかと思ってたところだった。さっき、君が笑うまではね。

鋼子       それで・・・その話というのは・・・・・・

那須野博士    うん。いや、やっぱりよそう。これじゃあやっぱりあまりに身勝手すぎる。

鋼子       いいえ! 言ってください。 頑張って受け止めますから!

那須野博士    ・・・そうか。もう分かっているんだね。

鋼子       ・・・はい。

那須野博士    君は強いね。あれだけ怖い目にあったというのに・・・。そう、君にはボロボのパイロットになって欲しい。

鋼子       ・・・・・・

那須野博士    ・・・・・・・・・すぐに、とは言わない。十分考えて欲しい。返事は・・・これに託すよ。



   那須野博士は、腕輪をもっている。



鋼子       ・・・・・・これは?

那須野博士    これはボロボのパイロットがつけている目印みたいなものだよ。ただ、結構高性能でね。ヒューマノイドインターフェースを基地の外に持ち出したりも出来るんだ。

鋼子       ・・・それで

那須野博士    ああ、うん。次、君に会うまでに答えを出していて欲しい。これを君の返事の代わりにしよう。

鋼子       ありがとうございます。

那須野博士    無理はしないほうがいい。無理なことを引き受けて本当に困るのは自分以外の人になるからね。

鋼子       ・・・はい。

那須野博士    では僕は、作業があるから帰るね。お大事に。



   那須野博士、はける。



鋼子       ・・・・・・・・・

ボロボ      ・・・・・・・・・

鋼子       ・・・・・・ねえ

ボロボ      ・・・なに?

鋼子       秘密なの?

ボロボ      ナンノコトデショウカ?ってこと?

鋼子       そう。

ボロボ      うん。まあ、いろいろあってね。博士には知られたくないんだ。

鋼子       そう、なんだ。

ボロボ      秘密だからな。

鋼子       機械が嘘ついていいの?

ボロボ      嘘はついてないよ。ホントのことは言ってないけど。

鋼子       ほとんど同じじゃん!

ボロボ      まあまあ、俺、機械だし?

鋼子       ずるいなぁ、ホントに。

ボロボ      ・・・・・・ふふん。

鋼子       あ、なんで自慢げなの?

ボロボ      いや、なんとなく?

鋼子       機械がなんとなくって言ってる(笑)

ボロボ      いーのいーの(笑)

鋼子       ・・・・・・・・・・・・

ボロボ      ・・・・・・・・・・・・



   気まずい間



ボロボ      ・・・こっこあのさ、

鋼子       怖かったよ。

ボロボ      ・・・うん。

鋼子       敵が攻撃してきたからじゃない。ボロボがあんな奴と戦ってるっていうのが怖かったよ。

ボロボ      もしかして俺のこと、嫌いになった?

鋼子       そうじゃない!ボロボが私を守ってくれるから、私は敵と戦えた。・・・でも、私がひとつ操縦を間違えるたびにボロボはキズだらけになっていって・・・

ボロボ      大丈夫。俺は、どこもなんともないよ。(くるっと回って)ほら!

鋼子       頑丈なんだね・・・。

ボロボ      鋼子よりはね。だから、頼ってくれていいよ。

鋼子       でも・・・怖くないの?私がミスすれば・・・もしかしたらボロボは死んじゃうかもしれないんだよ!?

ボロボ      いいよ。

鋼子       ・・・え?

ボロボ      こっこがミスったんなら、俺がフォローする。それでもダメで、やっぱり死んじゃうんだったら、それでもいいよ。

鋼子       ダメだよ。いいわけないじゃん!私のせいなんだよ?ボロボは何にも悪くないんだよ?それでもいいの?

ボロボ      俺は、だから、こっこをパイロットに選んだ。

鋼子       どういうこと?

ボロボ      前のパイロットの夏目一代(ひとよ)もそうだった。

鋼子       ・・・・・・一代さん?

ボロボ      そう。一代に会ったときもなんだろうね・・・こう、稲妻が走ったんだ!この人だって。こいつとなら、死んでもいいって。そう思えたんだ。

鋼子       でも、やっぱり死ぬのはボロボだけじゃない・・・・・・

ボロボ      え!?ああ・・・そうか。俺はそう簡単には死なないよ?

鋼子       でも・・・

ボロボ      まあ聞けって。今こっこが乗ってるボロボは3号機だから。

鋼子       3号機?

ボロボ      そう。ボロボは何回か大破してるんだ。ただ、俺はつまり俺のデータが書き込まれている部分さえ残っていれば、大丈夫なんだ。ちゃんと、ここにいるだろ?

鋼子       ・・・じゃあ、そのデータはどこにしまってあるの?

ボロボ      左足の小指かな・・・

鋼子       なっ・・・なんでそんな今にもたんすの角にぶつけそうなところに!

ボロボ      ジョークだって、ジョーク。メカニカルジョーク。

鋼子       なんだぁ・・・びっくりさせないでよ。あれ、今嘘ついたよね?

ボロボ      ん?なんのこと?

鋼子       まあ、いいや。とりあえず、ありがと。

ボロボ      ん?

鋼子       ボロボの力がなかったら街は守れなかったから。

ボロボ      当然だな。

鋼子       ・・・なんか腹立つ。

ボロボ      それで?

鋼子       ・・・え?

ボロボ      もう満足したか?

鋼子       どういうこと?

ボロボ      もう、いいだろ?こっこは街を守った。だから、

鋼子       え、やだよ・・・

ボロボ      敵はこっこが倒してくれた。だから、

鋼子       でも、新しい敵がまた来る!

ボロボ      そうかもしれないな。

鋼子       かもって・・・どうして?ボロボだって分かってるんでしょ?

ボロボ      そう、かもしれないな。

鋼子       ・・・・・・どうして?

ボロボ      ・・・・・・

鋼子       黙ってたらわかんないよ

ボロボ      一代は、

鋼子       ?



   舞台端に一代、そして、那須野博士が出てくる。



ボロボ      一代は、ボロボ2号機のパイロットだった。とても明るい子で、基地の中は彼女がいるだけで空気が変わった。しかもとても強い心を持った子だった。でも・・・

鋼子       でも・・・?

ボロボ      戦えば戦うほど、彼女は笑顔を失っていった。そして、あの時・・・



   警告音が鳴り、次第に大きくなっていく。



オペレーター   ダメです!バリアー突破されました!

一代       早く逃げて!どうして、どうして動かないの!!那須野博士!

那須野博士    (しずかに首を振る)

一代       そんな!だって、このままじゃ、ボロボはっ・・・!なんとかならないんですか!?

オペレーター   腹部にミサイル直撃!ダメです!衝撃に耐え切れません。爆散します。

一代       そんな!なんとか言ってよ、ボロボ!ボロボ!

オペレーター   ああっ直撃です!・・・・・・信号途絶えます。

一代       そんな・・・ボロボ?ボロボオォォオオオオ!!



ボロボ      それから一代はしばらく、真っ白な灰みたいになってしまっていた。

鋼子       (震える)

ボロボ      三十にもなっていなかったのに、まるで長い歳月を生きてきたように、何かを、そう、何かを見てしまったんだ。

鋼子       それで・・・・・でも、今、一代さんは赤坂で・・・

ボロボ      そう。彼女は強かった。俺にはない強さを持っていた。俺はそれに惹かれたんだろう・・・。今は赤坂で小さな喫茶店をやってるんだってな。

鋼子       ・・・・・・私も・・・大丈夫だと思う。

ボロボ      ・・・無理だよ。

鋼子       私!私・・・確かに今の話聞いて一代さんみたいに強いだなんて思えないけど・・・でも、私、大丈夫になるから!だから、お別れなんていわないでよ。これから・・・やっと始まったのに。

ボロボ      それがなぁ!俺がダイジョバないんだな、これが。

鋼子       ・・・え

ボロボ      正直そうやってお前にぼろぼろ泣かれるのが・・・さ!ダイジョバないんだ!

鋼子       ・・・そうなんだ。

ボロボ      うんだから・・・

鋼子       じゃあ私、もう泣かない。

ボロボ      ・・・・・・

鋼子       もう泣かないからね。(腕輪をつけようとする)

ボロボ      ちょっと・・・こっこ!?

鋼子       ん、何?

ボロボ      本当にいいのか?

鋼子       それは私の台詞だよ。とめるなら早くとめてね。わがまま言って、これから口きいてくれなくなるとかだったら、とめてね。

ボロボ      ・・・・・・どうせ、泣くだろ?泣くぞ、ほら・・・ほら・・・

鋼子       泣かないって言ったじゃん!

ボロボ      でも・・・

鋼子       ・・・・・・(えぐえぐ)

ボロボ      分かった。いいよ。俺も大丈夫になるから。

鋼子       ・・・・・・ありがと。



【8】





那須野博士    それからというもの、敵はひっきりなしに現れたが、鋼子さんはよく戦っている。次第に操縦にも慣れ、日頃の訓練の成果もよく現れている。



研究室。那須野博士が一人で手帳を開き、日記を読んでいる。

ここからはダイジェストのお時間です。

迫り来る強大な敵との戦いの記録。

   ボロボと那須野博士による小芝居。



那須野博士    まず現れたのはみんな大好きはさみ型ロボット。腕が巨大なはさみになっていて、バルタン星人みたいなのはお約束だ。ぐっふっふ・・・。この町のエビチリはすべてこの私がもらいうけたぁ!

ボロボ      そうはさせるか!

那須野博士    出たな、ボロボ。いざ、しょうぶー・・・ぐふぅ



那須野博士    次に現れたのは、超音波発生型ロボット、オンパオーンだった。もちろんゾウ型だったが、長い鼻は機械のギミック的に取れやすいためか、短い鼻を採用していた。ふっふっふ・・・食らえ超音波!

ボロボ      なにっ!?

那須野博士    パイロットだけを一瞬で気絶させる超音波だ!まいったか!

ボロボ      とうっ!ぽか!

那須野博士    な・・・ぜだ・・・

ボロボ      ・・・・・・秘密。



那須野博士    次に現れた敵は早口言葉型ロボット。生麦生米生卵!するとなんということでしょう!ロボットの周囲に竜巻が!そう、英語では早口言葉のことをタング・ツイスターと呼ぶのです! 必殺!タングツイスター・・・この竹やぶに竹立てかけたのはたてか・・・あ、噛んだ!

ボロボ      いまだ!ざしゅっ!

那須野博士    ぐはっ!(すぐに立ち直って)竜巻と早口言葉の難易度の関係は現在調査中である。



那須野博士    そう。鋼子さんは強くなった。本当に強くなった。ボロボとの相性も一代さんに負けないくらいいい。しかし・・・・・敵は強くなる。確実にこちらを研究してきている。一度ならず二度までも後退を余儀なくされることもあった。そして、・・・・・奴は現れた。



   鋼子、コックピットへ座る。



鋼子       どうしたの!?

ボロボ      体の自由が利かない!?

鋼子       どうして?頑張って!

ボロボ      何か強力な力で・・・・・・うわっ!



那須野博士    超電磁ロボ・・・ロバートは金属をひきつける力を持っていた。(手榴弾のピンを抜いて投げる)



鋼子       え、那須野博士、何を?ボロボ、離れて!



那須野博士    ぐあっ・・・。金属を引き寄せるがために、すべての攻撃をその身に受けてロバートは大破した。しかし、笑い話では済まされなかった。次はこれを改良してくるだろう。ボロボは、老朽化していく一方。だから・・・・・・(丸めてあった図面を広げる)だから私は桜井を呼ぶことにした。



   カタン、下手舞台袖で何かの倒れる音。

那須野博士が拾うとそれは箒だった。

暗転。



【9】





   場所は基地。

   ボロボと鋼子が話をしている。

鋼子はコックピットでなにやらキーを叩いている。



鋼子       ねえ、ボロボ

ボロボ      ん?

鋼子       そういえば、まだボロボが博士に秘密な理由聞くの忘れてた。

ボロボ      秘密って?

鋼子       え、つまり、なんで博士の前ではただの機械として振舞ってるのかって事。

ボロボ      え、俺、ただの機械だよ?

鋼子       はいはい。そんなことを言う口はこの口ですか?この口だな!(頬を伸ばす)

ボロボ      いひゃいっふぇいひゃい(痛いって痛い)

鋼子       まったく、ホログラムじゃないなら先にそういってくれればよかったのに!

ボロボ      いや、だから俺は、ホログラムなの。

鋼子       触れるホログラムがあってたまりますか!

ボロボ      何度も説明しただろ?立体を微弱な電流の網で包んでてだな。触れた人の脳に干渉するんだ・・・・・・っておーい、寝るな!

鋼子       ・・・はっ!いや、だからつまりあれでしょ?ホログラムじゃない。

ボロボ      あー・・・もう、分からん子だなぁ・・・

鋼子       分かった!

ボロボ      え?

鋼子       納得することにする。

ボロボ      それはよかった。

鋼子       代わりに教えて。なんで博士に秘密にしてるの?

ボロボ      なんでって・・・それは・・・

鋼子       ・・・ねぇ、私たち、もうすぐ要らなくなっちゃうの?

ボロボ      こっこ・・・・・・もうすぐクリスマスだね。

鋼子       どういうこと?ごまかさないで。・・・お願いだから、答えて。



【ここから並行してふたつの話を流します】



   那須野博士、桜井さんと電話中。



那須野博士   あ、もしもし、桜井さんですか?うん。那須野博士だ。え、自分で博士ってつけるなって?だって、台本にそうやって書いてあるんだもん。ところで例の件だけど、君が引き受けてくれて助かった。ありがとう。ついでだし、うちの後輩も一緒に育ててやってはくれないかね。別料金!?そりゃあ、ちょっと・・・。今回の開発でだいぶ苦しくてね・・・・・・。どこも一緒か。



ボロボ      なあ、電化製品って、どれくらい寿命があると思う?

鋼子       電化製品って・・・電子レンジとか、冷蔵庫とか?

ボロボ      そう。

鋼子       使い方によるけど、十年くらい?

ボロボ      惜しい・・・かな。

鋼子       惜しい?

ボロボ      そう。確かに十年くらいで故障したりするよ。でも、修理に出せばまだまだ使える。でもその前に技術革新の波がやってくる。

鋼子       ・・・・・・技術革新





那須野博士   いやあ、ホントに参ったよ。あれの出所は分かった?ホントに、あれには困った。電磁場形成装置。あれのなかではボロボは役に立たない。格好の的になるだけだからね。どうしても新型を作る必要があったんだ。それにボロボもそろそろ十年選手だ。引退させてやってもいいと思う。





ボロボ      こっこ、もうすぐ二十二だよね?

鋼子       うん。

ボロボ      俺、何歳に見える?

鋼子       え・・・二十五くらい?

ボロボ      まあ、ホログラムはな。俺は、三十五歳って所かな?

鋼子       ・・・・・・随分おっさんだね。

ボロボ      おっさんで悪かったな。ただな・・・人間と違って、俺たちはだいたい二十歳くらいで生まれるんだ。一番動ける時の状態で生まれる。・・・あとは、衰えていく一方だよ。しかも、同じ製品で作られると生まれたときからおっさん性能という恐ろしい可能性までありうる。

鋼子       でもさ!ボロボはまだまだ現役でバリバリやってるじゃん!全然負けてないよ!私との息もぴったりだし・・・・・まだまだいなくなっちゃやだよ・・・

ボロボ      泣かないんだろ?

鋼子       そんな約束するんじゃなかった・・・・・・(ボロボの服を掴んで、胸に顔を隠す)

ボロボ      俺は機械だからな・・・見えないものはなかったことにしておくよ。

鋼子       うん・・・。



ボロボ鋼子側、暗転。



那須野博士    OS?うん。OSね。実は新しくしようと思ってるんだ。うん、ボロボのシステムは不安定でねぇ・・・。もっと量産できればとも考えたんだけど。うん。OS書いたかって?いやあ、さすがにいちから書くのはちょっとね・・・。最近忙しかったしさ。でも実はいいOSがちょっとしたコネで手に入ってね。それに手を加えたものを使おうと思うんだ。



鋼子       ・・・・・・本当ですか?

那須野博士    あれ?鋼子さん。あ、ごめん桜井。またかけなおす。

鋼子       別によかったのに。話、続けてくださって。

那須野博士    いやあ、さすがに目の前に人がいるのに電話しているわけにも行かないだろう?

鋼子       ・・・・・・それとも私に聞かれると困ることとか、話してたんですか?

那須野博士    ・・・・・・耳が早いね。もう、知ってるんだ。

鋼子       はい。

那須野博士    一体、どこから仕入れてくるんだろうね?

鋼子       ・・・秘密です。

那須野博士    当てて見せようか?

鋼子       え?

那須野博士    ・・・・・・ボロボだろう?

鋼子       ・・・・・・・・・

那須野博士    やっぱり。君はいつもボロボのそばにいる。前から変だと思ったんだ。いくらなんでもちょっと他に誰かいると思うよね。

鋼子       ・・・・・・何が言いたいんです?

那須野博士    つまりね。置きっぱなしになってなくなった整備ファイルとかカバンとかいろいろ返して欲しいんだ。

鋼子       ・・・・・・え?

那須野博士    え?

鋼子       いいえ。なんでもないです。整備ファイルですか?私は知りませんが・・・。

那須野博士    あれ? じゃあ、どこにやったのかな? なくなると流石にまずいんだけどな・・・。

鋼子       ・・・・・・新しいロボットを作るのは本当なんですね。

那須野博士    ああ。作るも何も、明日組み立てだよ?

鋼子       もう、そんなに出来てるんですね・・・・・・お別れする暇もないなんて・・・

那須野博士    え?何か勘違いしてない?ボロボは壊したりしないよ。ボロボは博物館に引き取ってもらうことになってる。

鋼子       博物館に・・・兵器を置くんですか?

那須野博士    まだ先の話だよ。ボロボは単機の性能としては、トピアよりも高いんだ。

鋼子       トピア・・・名前まで決まってるんですね

那須野博士    うん。トピアの強みはね、コンビネーションにあるんだ。複雑に組まれたプログラムを駆使して、四方から敵を攻めることができるんだ。

鋼子       操縦はどうするんです?

那須野博士    ブレーンとなる機体は操縦するけど、他の機体は、そのブレーンからの指示で動くんだ。すごいだろう?

鋼子       ・・・・・・ええ。すごいですね。本当に。

那須野博士    そうだ!完成したら、ボロボと模擬戦をやろう!いいかな?

鋼子       ・・・・・・いいですよ。ただ・・・例えば手が滑って、何体か修復不可能にしてしまうかもしれません・・・。失礼します。

那須野博士    ・・・・・・・おもしろいじゃない?



   鋼子はける。那須野博士、何も聞こえなかったかのように振舞う。

   暗転。



【10】





   赤坂にある喫茶店。

   中では夏目一代(ひとよ)がせわしなく動き回っている。

   舞台脇からは、借りてきた猫みたいな鋼子と、

   つっけんどんなボロボが歩いてきている。

一度舞台の前方を横切り、引き返して、喫茶店の中に入る。

カランコロンカラン



鋼子       ・・・こんにちはー

一代       あれぇー、もう来たの?もうちょっと待っててくれる?

鋼子       ・・・はい。(出ようとする。カランコロンカラ・・・)

一代       ええ、どこ行くの?テキトーにその辺の席座ってて。すぐ行くから。

鋼子       はい。すみません。

ボロボ      なにやってんだよこっこ、早く座れよ。

鋼子       ボロボ・・・これってもしかして、貸切?

ボロボ      みたいだな・・・・・

鋼子       なんか一代さんに悪いよ・・・

一代       はーい、お待たせ。初めまして、かな?こっこちゃん、だよね?後は、ボロボ。

ボロボ      ひさしぶり。元気?

一代       おかげさまでもうすっかり元気だよ。そうそう!クッキーやいてたんだけどね、ちょうど今出来上がったところなの。食べて食べて。

鋼子       ・・・・・・・・・

一代       別に毒なんか入ってないわよ?

鋼子       じゃあ、ひとついただきます。・・・・・・あ、おいしい。

一代       でしょ!?なにせ秘伝の粉とかいう粉を使ってみたの!おいしくなかったら詐欺だわ・・・。

ボロボ      ほら、こっこ・・・・・・

鋼子       ・・・うん。あの・・一代さん・・・

一代       ちょっと待って。一代さんって下の名前で呼んでくれるのはかなり高感度高いんだよね!でも、礼儀として、まずは自己紹介しなきゃ! ・・・というわけでまずは私。夏目一代です。趣味はお菓子作りです。・・・・・・うん、こんなもんでしょ!

ボロボ      ええと・・・知ってると思うけど、ボロボ2号機のパイロットだった。

一代       うん、そう。よろしく。

鋼子       よろしくおねがいします。

一代       じゃあ、次。

鋼子       え、あ・・・はい。矢吹鋼子です。ボロボ3号機に乗ってます。趣味は・・・ないです。

一代       はーい、よろしくね!

鋼子       あの・・・ちょっとお聞きしたいことがあって、今日はうかがったのですが・・・。

一代       あーあー、もうちょっとフランクに!あ、この帽子かわいいね!えいっ!(深くかぶせる。前がみえなーいー)

鋼子       え・・・え・・・(あわあわ)

一代       きゃ、かーわーいーいー。ねぇ、ボロボ。

ボロボ      ・・・・・・・

一代       照れてる照れてる(笑)

ボロボ      え、俺?

一代       他に誰が?

ボロボ      え、うん。

一代       ふーん・・・じゃあ、次、ボロボ。

ボロボ      あ、俺?

一代       うん。かっこいい自己紹介よろしく。

ボロボ      無駄にハードルがあがったなぁ・・・というか、ふたりとも俺のこと知ってるじゃん!?意味なくない?

一代       いーから、やるの!

ボロボ      はい。・・・・・・えーと、名前はボロボです。今は鋼子の操縦するロボットの・・・

一代       ちょっと待った!

ボロボ      はい? なんでしょうか?

一代       今頃気づいた。ボロボにはチャームポイントがない。

ボロボ      なんだ突然。

一代       誰かと結婚しちゃえば?

ボロボ      まてまて。どうしてそうなる。

一代       人はね・・・恋をすると変わるのよ!そうね、私なんてどう?

ボロボ      さっき家族写真飾ってあったぞ?

一代       チッ・・・じゃあ、こっこちゃんはどう? まだ若くて、いいですぞ?

鋼子       ええっ!?

ボロボ      ば、そ、そんなんじゃねぇや。

一代       お、照れてるのか、もしかして?

ボロボ      ・・・・・・・・・

一代       そうかあそうかあ・・・チャームポイントねぇ・・・。なんでプログラムしてくれなかったんだろ?

ボロボ      必要ないからだ。

一代       ふうん。そんなんじゃ、こっこちゃんに好かれないぞ!

ボロボ      ・・・・・・へぇ

一代       ふっふっふ・・・必要だろう?必要不可欠だろう?

ボロボ      ううう・・・

一代       よし。私が考えてあげよう。そうだなぁ・・・。あ。これなんてどう?

ボロボ      ん?

一代       びっくりしたときに、手を頭の上に載せて、放しながら『ガビーン』っていう。

ボロボ      ・・・うん。

鋼子       ・・・ええっと、一代さん?それはチャームポイントじゃないかな、と思うんですが・・・。

一代       そうかなぁ。面白いと思うんだけど。ちょっとやってみて!

ボロボ      い・や・だ。

一代       やれ。

ボロボ      はい。・・・・・・・・・『ガビーン』

一代       どう?

鋼子       どうって言われましても・・・

一代       そうかー。・・・あ、じゃああれだ。個性だ!

ボロボ      個性??

一代       そう! こう・・・見た瞬間にボロボだって分かるもの。誕生日プレゼントに鋼子ちゃんにマフラーでも編んでもらいなよ。もうすぐ誕生日でしょ?

鋼子       そうなの??

一代       十二月二十三日だよ。

鋼子       来週!?

ボロボ      うん、まあ。製造年月日みたいな?

鋼子       あ、でも私、マフラーなんて編んだことないし。

一代       大丈夫。私が教えるから。

鋼子       あ、じゃあ、やってみようかな・・・。

一代       お、いいね!ボロボはどう?

ボロボ      ふうん・・・まあ、悪くはないかな。

一代       うん。じゃあ、もっとクッキー食べて! あ、紅茶、煎れてくるね。



一代、一度はけて、紅茶を持って戻ってくる。



ボロボ      ・・・こっこ。

鋼子       うん。



鋼子       一代さん、それでその・・・

一代       うん。聞きたいことがあるんだってね。何?

鋼子       それはその・・・・・・ボロボ2号機を失ったときのことを聞きたくて・・・

一代       ・・・・・・どうかしたの?

ボロボ      ・・・・・・たぶんまだ、もう少しだけ大丈夫。

鋼子       新型のロボットが導入されるんです。それと一緒にボロボは・・・

一代       ふーん。世代交代って奴ね。いいわ。私に話せることなら話してあげる。

鋼子       ホントですか!?ありがとうございます。

一代       うん。・・・・・・あの時はね、最初から分かってたの。ここで出たらきっとやられるって・・・。修理も間に合わなくて万全の状態じゃなかった。でも、出ようって思った。ねぇ、こっこちゃんだったら、どうする?こっこちゃんは、今どうしたいの?



   那須野博士、上手。

   三人、中央。立っている。





那須野博士    何、敵だと!?くそ、こんな時に・・・鋼子さん、ボロボ発進お願いできますか?



鋼子       はい。・・・・・・私は、一秒でも長くボロボと過ごしていたい。戦っていたい。最初はすごく怖かったんです。傷つけるのが怖くて、傷付くのが怖くて。でも・・・・・・私たちはそのために生きて、それで一緒にいられるなら、それが一番幸せなんだと思います。





那須野博士    敵の数は二、三・・・・・・すごい数だ。こっちの位置に気づいているみたいだ。真っ直ぐ向かってくる!





一代       ふうん。でも、どんなに強くてもいつかどこかで壊れてしまうのよ。人が作ったものだからね。

鋼子       はい。でも、そうならないように私たちは頑張ります。

一代       ふぅ・・・私もね、そう思ってたの。ボロボが為す術もなく壊れていくのを見ながら。勝てないことなんて分かってた。増援なんて来ないの。発進したのは私。ボロボを殺しちゃったのは私だった。私のせいだって思った瞬間に、私は代わりたくなったわ。私が鋼の身体を持って、ボロボの代わりに右腕を差し出したくなったの。そうしたら、代わりにボロボは許されるんじゃないかなって。

鋼子       その気持ち、分かります。

一代       うん。そんなことどこかで考えていて、ボロボと一緒に私の身体は壊れていったの。すべてが終わって・・・それをひとつひとつつなぎ合わせたわ。それが今の私。どう?つぎはぎのパッチワークだけど、綺麗なもんでしょ?





那須野博士    鋼子さん。発進する前に君にどうしても伝えないといけないことがある。

鋼子       なんですか?

那須野博士    敵の新兵器のことだ。前回倒した超電磁ロボ・ロバートが持っていたものなのだが、・・・どうやら特殊な電磁場を形成する発信機のようなものを使うらしい。これが設置されているところに近づくと動けなくなる恐れがある。・・・十分に気をつけて欲しい。





鋼子       はい。分かりました。ボロボ、行こう?





一代       じゃあさ、ボロボはどう思ってるの?

鋼子       あ・・・・・・

ボロボ      そんな顔するなよ・・・。俺は・・・・・・博物館に後生大事に飾られるなんてごめんだよ。死ぬなら戦って、守って死にたいよ。ほら、昔誰だか忘れたけど、偉い人が言ってたぞ!人は自分の為に死ぬことは出来ないって。だったら、守ってやるよ。俺の鋼の体が盾になるなら、その後ろ側くらい、守ってやりたいからさ。

一代       あの時、後悔してない?

ボロボ      ん?

一代       私が発進なんて操作しなかったら死ななかったかもしれないのに・・・。

ボロボ      前にも言っただろ?俺は、俺の信頼するやつしか乗せないんだ。だけど・・・信頼した奴となら、一緒に死んでもいいよ。あんたらだったらな。

一代       ボロボ・・・・・・ホントはこっこちゃんを守りたいだけだったりして。

ボロボ      そんなことはないよ

一代       ほんとにぃ?

ボロボ      うん。ただ、俺はお前をまず心配するから。俺が動けなくなるまで付き合えよ。

鋼子       うん。



鋼子       システム、オールグリーン。

ボロボ      ちょっと待て。合言葉は?

鋼子       ここまで来てまだ合言葉言うの?

ボロボ      合言葉は?

鋼子       クリスマスの夜に。これでいいでしょ?

ボロボ      ぶー。足りません。

鋼子       え、何が?

ボロボ      クリスマスの夜に、・・・再会しましょう。

鋼子       ・・・うん。



那須野博士    トピアが完成するまででいい。ここをなんとか死守してくれ。頼む。



鋼子       超電動ロボ・ボロボ、発進します。



【11】



   舞台中央に、四人が集まる。

   映像。巨大なロボットが映し出される。



那須野博士    ボロボが市街に出る頃にはあちこちに火がついていた。逃げ惑う人々。荒れ狂う炎。ボロボの目が一瞬ギラリと輝いた。



鋼子       ボロボはミサイルを発射する。次々と放たれたミサイルは、あるいは直撃し、あるいはバリアーに弾かれた。



一代・ボロボ   仕返しとばかりにミサイルの雨が降る。



鋼子・博士    バリアー



ボロボ      爆風をもろともせず、ボロボは歩を前に進める。が、しかし、粉塵が収まり始めたとき、



一代・ボロボ   ボロボは囲まれていた。



一代       何十もの砲門が一斉にボロボに向けられていた。どこからか一発のミサイルが解き放たれた。それが合図となる。



ボロボ      バリアー



鋼子・博士    バリアー



一代・ボロボ   バリアー



那須野博士    あるいは直撃し、あるいは直前で爆発した。爆産した欠片のひとつひとつがボロボの鋼の体を浅く傷つけていく。



一代       いくつの砲弾をその身に浴びてもボロボは倒れなかった!



ボロボ      振り回した腕がちぎれて吹き飛んでいっても、ボロボは倒れなかった!



博士・鋼子    ぼろぼろになっても、ボロボは倒れなかった!



鋼子       頭部が吹き飛ばされてもボロボは倒れなかった!



那須野博士    両腕を失くし、敵めがけて突進するボロボは、いい的になった。それでもボロボは倒れなかった!



4人       それでもボロボは倒れなかった!



4人       ぼろぼろになってもボロボは倒れなかった!!



4人       いつまでもボロボは倒れなかった!ボロボは倒れなかった!



ボロボ      守りたい人がいるから。



鋼子       待っている人がいるから。



一代       見続けたい人がいるから。



那須野博士    それが彼の生きる意味だから。



那須野博士    ・・・すまない。直ちにトピア部隊を発進させる。



鋼子       いいえ。はい。



那須野博士    ありがとう。



一代       そしてまもなく、戦いは終わった。



   一代はける。

   暗転。







【12】



あれから一週間。

   そこは一代さんの喫茶店。例によって貸切。



一代       だからね、ここで、こうやってバターをしっかり練るのが大事なの!力が足りないわ!

鋼子       はいっ!

一代       そうっ!いい感じ!うん?あ、一回目のやつがそろそろ焼けそうだよ!

鋼子       ・・・一回目のは食べられないかもです。

一代       うーん・・・まあ、可愛さあまって苦さ百倍!みたいな?

鋼子       すみません、よく分かりません。

一代       そっかー。まあいいよー。

鋼子       はーい(笑)

一代       (笑)

那須野博士    こんにちは。

一代       あ、あー。博士!お久しぶりです。お元気そうで

那須野博士    いえいえ、君のほうこそ。元気そうで何よりだ。

一代       ええ。元気だけが取り柄なんで。

那須野博士    なるほど、若さの秘訣はそれですか。

一代       さあ・・・どうでしょう?

鋼子       どうかしたんですか?

那須野博士    うん。鋼子さんにちょっとね。

鋼子       え、私にですか?

那須野博士    あれからもう一週間になるね。体調は?

鋼子       いえ、でも・・・ボロボが守ってくれましたから。

那須野博士    ・・・・・・君は本当に強くなった。って言ったらちょっと意地悪かな。ちょっと郵便を頼まれてね。はい。

鋼子       ・・・・・・・・・はい。

那須野博士    ボロボはなかなかに憎たらしい奴だね

鋼子       え!?

那須野博士    さすが私が書いたプログラム・・・・・・若い頃にそっくりだ。好きな人に手紙を送るところまで。

鋼子       え、だって・・・

那須野博士    安心しなさい。ボロボは順調に修理中。インターフェースは・・・まあ、私からのクリスマスプレゼントだ。

鋼子       (手紙を読んで)ありがとうございます。



【13】



   薄明かりになる。

   那須野博士、一代、はける。

   真ん中に鋼子。手にはクッキーを持っている。



ボロボ      こっこ・・・

鋼子       ボロボ・・・

ボロボ      約束どおり、会いに来たよ・・・

鋼子       うん・・・ばれちゃったね。

ボロボ      結構前からばれてたらしい。俺が死ぬ前にバックアップを取るように書き換えてあったみたい。

鋼子       ばれても大丈夫だったの?

ボロボ      俺がいやだったのはさ、俺みたいなやつが二度とうまれて欲しくないと思ったんだ。俺は痛くもかゆくもないのに、俺の代わりみたいにコックピットで傷付いていく一代や、こっこを見てさ・・・・・・やっぱり俺も苦しいんだ。博士に話したら、分かってくれてた。俺は、俺のままコピーされたみたいだけど。

鋼子       やっぱり・・・コピーなんだ。

ボロボ      かもしれない。でも、合言葉は知ってるよ。その意味も。

鋼子       じゃあ、聞いておこうかな。・・・合言葉は?

ボロボ      クリスマスの夜に・・・再会しました。

鋼子       ・・・うん。

ボロボ      ただいま。



   間。



鋼子       ・・・ねえ、どっか行こうよ! せっかくのクリスマスなんだからさ。

ボロボ      そうだなぁ・・・こっこはどこがいい?

鋼子       うん。あそこ。

ボロボ      東京タワー。

鋼子       うん。上から見たらゼッタイ綺麗だって。

ボロボ      そうかなぁ・・・。

鋼子       あ、そうか。ボロボは背高いから、そういうハングリー精神が足りないんだ、きっと。

ボロボ      俺、機械だから腹減らないし?

鋼子       ・・・あ・・・そうだよね。

ボロボ      え?

鋼子       クッキー。

ボロボ      え?

鋼子       一代さんに教えてもらって、クッキー作ったんだけど・・・・・・食べられないよね! 何考えてるんだろ、私。馬鹿みたいだよね。食べられるわけないのに・・・。

ボロボ      ん。

鋼子       え?

ボロボ      クッキー、ひとつ頂戴。

鋼子       え、だって・・・

ボロボ      あとで、成分分析してもらって、味をデータにして、味わう。

鋼子       ・・・そんなことできるの?

ボロボ      んー・・・博士に頼めば何とかなるんじゃないかな。

鋼子       そうかな。そうだといいな。・・・じゃあさ、とりあえず東京タワー、行こうよ!

ボロボ      オッケー。今日はとことん付き合うよ。



音楽。

   ダイジェスト。



   東京タワーで手すりから望遠鏡で街を見下ろすふたり。



   喫茶店で、パフェを食べるふたり。



   サンタコスのボロボを写メする鋼子。



   傘をさして、並んで歩くふたり。



   ゲームセンターでクレーンゲームにいそしむ二人・・・





鋼子       あー・・・惜しかったなぁ・・・。

ボロボ      クレーンゲーム、下手なのな。ロボット操縦してるのに。

鋼子       性能が違うって。

ボロボ      じゃあ、諦めたら?

鋼子       やだ。ほしいもん。

ボロボ      もう23なんだしさ。そこまでしてぬいぐるみとらなくても。

鋼子       いや、今度こそ・・・いける気がする。

ボロボ      その台詞、何回目?

鋼子       う・・・で、でも! 今度こそ、ホントだもん。

ボロボ      分かった。じゃあ、俺も手伝う。

鋼子       ホント!?・・・って、あれ? それってちょっとずるくない?

ボロボ      ばれなきゃいいんだって。

鋼子       既に私にはばれてるんだけど・・・。

ボロボ      ぬいぐるみ欲しいの? 欲しくないの??

鋼子       ・・・欲しい。

ボロボ      うん。じゃあ、決まりだ。

鋼子       ぶーぶー。

ボロボ      まあ、とりあえずやってみようよ。

鋼子       うん。ええ・・・と。こんなもん?

ボロボ      んーもうちょっと奥かな?

鋼子       奥?でも、私にはぴったりに見えるんだけど。

ボロボ      ロボットの俺の言葉が信じられない?

鋼子       信じます。

ボロボ      賢明な判断だ。じゃあ、確定ボタンを押して・・・

鋼子       お、お、おっ!・・・あー・・・。ダメじゃん。

ボロボ      あれぇ??ちょっと俺にやらせてみ。

鋼子       ロボットがロボットを操作するの?

ボロボ      なんで?別に普通じゃん。トピアだって、そういう機構だろ?

鋼子       え、そうなの?

ボロボ      うん。隊長機だけ操作して、後は隊長機からの指示でAIが、最適の戦術シミュレーションモデルにしたがって動くわけ。

鋼子       あ、なるほどね。

ボロボ      ・・・ホントに分かった?

鋼子       疑ってるわけ。

ボロボ      物分りが良すぎる。怪しい。

鋼子       つまり、こういうことでしょ? 私が、ボロボにあのぬいぐるみ取って。って言ったら、ボロボがクレーンゲームのロボットアームで、ぬいぐるみを取ってくれるってこと。

ボロボ      まあ、間違ってはないかな。はい、

鋼子       ありがとう。・・・初めてプレゼントもらったかも。

ボロボ      でも、こっこのお金でやったし。

鋼子       そこは気にしないの。ムードのために。

ボロボ      そういうもんっすか?

鋼子       そういうもんっす。



間。



鋼子       ねぇ・・・本当に終わっちゃったんだよね。

ボロボ      何が?

鋼子       なんというか・・・私たちの戦い。

ボロボ      トピアは優秀だから。もう大丈夫だよ。

鋼子       うん。那須野博士も傑作だって言ってた。

ボロボ      俺たちはさ、せっかくこうしてゆっくりできるようになったんだから。・・・素直に楽しめばいいんだって。

鋼子       本当にいいのかな?

ボロボ      今まで頑張ってきたことのご褒美です。えらいえらい。

鋼子       ちょっ・・・やめてって。

ボロボ      ・・・ごめん。でも、ほんとによくがんばったよ。こっこはさ。

鋼子       ねぇ、でも、いつまでこのままいられるの?

ボロボ      いつまでも。

鋼子       いつまでもこのままでいられるの?

ボロボ      それは・・・

鋼子       私にはわかんない。どうしたらいいんだろ? ・・・なんだろう。私はこれからも生きていかなきゃいけないのに、私の物語はゴールしちゃった・・・。今、幸せだよ。でも、この後どうしたら良いの。もう、幸せが思いつかないよ。

ボロボ      それはさ・・・こっこが決めなくちゃいけないんだ。いつかどこかで、鋼子も結婚して、子どもができて、それで、ちいさな幸せを見つけるんだ。

鋼子       ボロボはその時・・・

ボロボ      今、こっこはいきなり大きな幸せに出会ってびっくりしてるんだ。それだけのことさ。・・・大丈夫だよ。きっと大丈夫。

鋼子       わからないよ・・・わからないって!



   地響き。

   店内の明かりが明滅する。



鋼子       敵!?・・・・・・行か・・・な、くてもいいんだよね。もう。

ボロボ      そうだね。避難しよう?

鋼子       ・・・・・・(動かない)

ボロボ      なあ。

鋼子       ・・・・・・(動かない)

ボロボ      おい、こっこ! まさかここで死ん・・・(言い淀む)

鋼子       違うよ(腕にはめた通信機を見ている)

ボロボ      え?

鋼子       何かが、おかしい。















【14】



   基地。司令室。



オペレーター   敵反応! こちらに向かっています!

那須野博士    敵か。よし、トピア部隊、準備できてるな。清武くん、大丈夫か?

清武       はい。いつでも大丈夫です。

那須野博士    頼もしいな。よし、発進!

清武       はい。トピア部隊、発進します!

   

発進音。

   ノイズ交じりの街の映像が映し出される。



(音声)清武   ・・・・・・なんだ?

オペレーター   那須野博士、街の様子ですが・・・

那須野博士    どうした?

オペレーター  ・・・敵は街を破壊する様子がありません。

那須野博士    そんなはずは・・・

(音声)清武   あれ? なんだ、このノイズは・・・(プツン)。

那須野博士    なんだ? あーあー、こちら司令部、こちら司令部。トピア、清武くん聞こえるか?

(音声)清武   ――司令部! トピアの指揮権を敵に乗っ取られた! 攻撃を受けている! 緊急停止装置を作動させてください!司令部!



音声切れる

   砂嵐が司令室に鳴り続ける。



那須野博士    なんということだ・・・緊急停止シグナルを!

オペレーター   はい!

那須野博士    何が起きているんだ・・・

オペレーター   ダメです! 信号受信しません!

那須野博士    清武くんは!

オペレーター   生体反応あります。しかし、トピアは完全に敵に掌握されました。

那須野博士    掌握? 敵にコントロールを奪われたってことか!? そんなばかな!

その時、



鋼子       博士!



鋼子とボロボが司令室の扉を開く。



【15】





那須野博士    鋼子さん。・・・どうしたんだね、そんなに慌てて。

鋼子       え、・・・いや、あの。

ボロボ      トピア部隊が乗っ取られた。

那須野博士    ・・・そうか。知ってるのか。・・・じゃあ、どうしようか。あのときの再来だ。

ボロボ      そうだな。だが、もう一度同じことをするんだろう?

鋼子       ・・・あの時って?

ボロボ      あの時はあの時さ。

那須野博士    そう、あの時・・・あの時は仕方がなかった。ああするしかなかった。こちら側の駒は尽き、ああするしかなかった。

鋼子       ねぇ、あの時って

那須野博士    すまなかったと思っているよ。

ボロボ      誰に?

那須野博士    君と・・・一代くんに。

鋼子       ねえ、あの時って! まさか!

一代       そう。あの時よ。私のボロボが大破したとき。



   一代、扉の前に立っている。



那須野博士    一代くん。

一代       この子を私と同じ目にあわせるつもりですか、那須野博士。

那須野博士    いや、それは・・・。

一代       ボロボまで。何考えてるの? 好きじゃないんだ、こっこちゃんのこと。

ボロボ      言ったはずだ。俺は・・・死ぬなら戦って、守って死にたいって。

一代       ああ・・・そう、

ボロボ      こっこ。

鋼子       何・・・?

ボロボ      話すよ。ホントのこと。

鋼子       ホントのこと?

ボロボ      うん。いいよな、一代・・・

一代       仕方ないわ・・・。でも、私から話す。

ボロボ      ごめんな。

一代       鋼子ちゃん。ボロボの動力ってしってる?

鋼子       核エネルギーですか?

一代       ・・・そう。核融合のエネルギーを電気に変えて、ボロボは動いてるの。この動力機構は太陽と同じって・・・わかる?

鋼子       なんとなくは・・・

一代       じゃあ、それを、爆発させたらどうなると思う?

鋼子       爆発って・・・やられてってことです・・・よね?

一代       いいえ。正確には違うの。爆発させるの。最後の手段として。

鋼子       それって・・・自爆攻撃ってことですか・・・?

一代       そう。

ボロボ      ・・・ボロボがやられたら、この世界を誰が守る? だから最低でも道連れにしないと・・・

鋼子       ふざけないで!

3人       !

鋼子       ふざけないでよ。・・・なにそれ。最低じゃん。なんもかっこよくないよ。ねえ。ねえ!

ボロボ      ごめん・・・。

鋼子       何で謝っちゃうの・・・?

那須野博士    自爆のシグナルを出すのは私だ。

一代       博士。

那須野博士    2号機を爆発させたのは・・・最後にトドメをさしたのは私だ。だが、私にはこの世界を守る義務が・・・

鋼子       義務ってなんですか。・・・私はただ、ボロボと一緒に居たいだけなのに。

那須野博士    君たちの・・・いや。今の世界を愛するすべての人の居場所を守ること・・・・・・それが今の私の義務・・・いいや、責任なんだ。

一代       博士それはどういう・・・

鋼子       分かるように言ってください。

那須野博士    うん。君たちは考えたことがあるかな? ヒーローのいない世界。

ボロボ      ヒーローのいない世界。

那須野博士    正義に愛され、悪に恐れられるヒーローの化身。そんな彼がいない世界。君たちにとってはボロボのいない世界。

鋼子       ボロボのいない世界。

一代       私は・・・シェフになりたかった。でも、ボロボに会って、それで、パイロットになって、調理師学校にも通ってたんだけど、ボロボがいなくなっちゃって、なんだかもう、全部どうでもよくなっちゃって、辞めちゃった。

ボロボ      ごめん。

一代       あ、別にそういうわけじゃないから。今は、喫茶店やれて幸せだよ。

鋼子       私は、・・・・・・大学に行こうと思ってたんですけど、・・・ボロボに会ったから・・・それからはいろんなところに行って、情報を集めて・・・。

ボロボ      そうなんだ・・・。

那須野博士    うん。私にとっても・・・・・・ボロボを作らなければ、ボロボなんてロボットを思いつかなければ、ここにはいなかった。僕ら一人ひとりが今、ここに、こうしているのは、ボロボがいたから。いなかったら、この世界はとっくに今僕らが敵と呼んでいる人達のものになっていた・・・・・・とは言い切れないけれど。でも、この世界は、僕たち一人ひとりは少なくとも、今とは違う人生を送っていた。一代さんは一流シェフとして、テレビで引っ張りだこになっていたかもしれない。鋼子さんは普通に大学に行って、サークルで仲間が出来て、一緒にカラオケで朝まで騒ぐような、そんな普通の大学生になっていたかもしれない。僕は・・・ミュージシャンになりたかった・・・ホントはね。

一代       そうだったんですか。

那須野博士    うん・・・。でも、ボロボはここにいる。そんな世界もあったかもしれない。でも、こうして僕らはここにいて、ここから幸せを探してる。・・・だから、この世界を守ることは、僕の使命なんだ。ボロボを生み出したものとしての、使命なんだ。だから・・・

鋼子       だったら・・・・・・それは私の使命でもあるじゃないですか。

那須野博士    鋼子さん?

鋼子       私はこの世界が好きです。私だって守りたい。あ、自爆はなしですよ。私、必ず勝ちますので。

一代       博士、ボロボの修理は?

那須野博士    それが・・・

ボロボ      ・・・八割程度だ。大体は出来たが、レーザービームはまだ撃てない・・・。駆動確認もまだだ。

一代       そう・・・こっこちゃん、あのときよりはずっとマシよ。

鋼子       充分です。行きます。



   暗転。



【16】



鋼子       ボロボ、発進します!



ボロボ      市街地にはトピアが展開し、破壊の限りを尽くしていた。ビルは倒れ、人々は逃げ惑っている。



鋼子       ひどい・・・



ボロボ      止めるんだ。俺たちで。



鋼子       うん。



那須野博士    鋼子さん、トピアの隊長機が見えるかな?



一代       那須野博士の声が入り、ボロボは周囲を見回す。



鋼子       あ、はい。



那須野博士    まず、パイロットの清武くんを回収して欲しい。



鋼子       遠隔操縦じゃないんですか!?



那須野博士    トピアの場合、システムが複雑すぎて、ボロボのように遠隔操縦が難しかったんだ。頼む・・・。



鋼子       了解しました。



一代       ボロボがトピアを回収すると、清武がモニターに映った。



清武       こちら、清武・・・どうしてボロボがここに・・・っ!いけない!ボロボを出してはいけません! 博士、敵は、遠隔操作のロボットを操れるんです! すぐに戻してください!



那須野博士    そんなことが・・・まさか、敵の狙いは最初からボロボだったのか!



一代       博士がそう叫んだときには、こっこは飛び出していた。



ボロボ      こっこ! 博士、こっこが!



那須野博士    え!?



一代       鋼子は基地を飛び出し、ボロボの元へ走る!



那須野博士    ・・・鋼子さん!



(音声)鋼子   だったら、直接操縦するしかないじゃないですか!



那須野博士    鋼子さん、聞いてくれ!



(音声)鋼子   自爆させるなら、私ごとで構いません!

    

那須野博士    いや、違うんだ。聞いてくれ!



一代       敵が、ボロボを視界に捕らえる。



ボロボ      なんだ・・・ウイル、ス、か・・・っ!

那須野博士    鋼子さん。ボロボにタラップを降ろさせる。それに捕まって操縦席に乗り込むんだ! 操縦方法は同じだが、今度の衝撃は、本物だ。ボロボ、できるか?



ボロボ      なんとかする!



那須野博士    鋼子さん、ひとつ約束だ。



   鋼子、舞台袖から現れて。



鋼子       なんでしょう!



那須野博士    必ず、生きて帰ってくること。いいね。



鋼子       はいっ!



【16】





一代       鋼子が乗り込むと同時に、ボロボは再起動。



那須野博士    システムオールグリーン!



オペレーター   ボロボはコンクリート片を投擲する。撃破。後9体。



那須野博士    寸分違わぬ正確さでトピアを一機、叩き潰す。後8体。



ボロボ      こっこ、右!



鋼子       わかってる!



一代       右から体当たりするトピアを薙ぎ払う。後7体。だが、



鋼子       ボロボ、囲まれた・・・!



ボロボ      こっこ・・・落ち着け、大丈夫だ。



オペレーター   敵が一斉にビームを放つ。



那須野・一代   バリアー!!



オペレーター   レーザービーム! 後ろからレーザービームが貫通する。



那須野博士    鋼子さん!



鋼子       無事です。



ボロボ      気をつけろよ!



鋼子       うん。



オペレーター   ボロボは前進。後退する敵を一瞬で蹴り潰す。後6体。



那須野博士    ぐしゃっとつぶれたトピアが一直線に、他の機体をなぎ倒す! 後5体。



一代       よしラッキー! ふたりとも、もうちょっと!



オペレーター   ミサイル飛来! 数5!



那須野博士    バリアー!



一代       バリアー!



オペレーター   バリアー! ダメです!数が多すぎます!



鋼子       避けて!



一代       轟音。ボロボは真っ赤な炎に包まれる!



鋼子       まだ!



那須野博士    しかしボロボは鋼の巨人!



一代       燃える拳を固めて殴る!



オペレーター   殴る!



ボロボ      後4体!



鋼子       後3体!



一代       こっこちゃん、後ろ!



オペレーター   振り返ったボロボの見るその先!



一代       輝く光をはなつトピアの姿!



オペレーター   帯電した空気が紫色に光る!



那須野博士    まずい!電磁砲を撃つつもりだ!アレを食らったらボロボといえど、ひとたまりもないぞ!



ボロボ      止める!



鋼子       うん。



オペレーター   目の前に2体のトピアが立ちふさがる!



鋼子       じゃまっ!!



一代       両の拳がトピアにめり込む!後1体!

         こっこちゃん急いで!



オペレーター   ボロボは全力で突進する。後30歩。後20歩。10歩!



那須野・オペ   電磁砲、発射!



オペレーター   あと2歩!



ボロボ      避けきれなっ・・・



鋼子       バリアァァッ!



那須野博士    鋼子さん、それはダメだっ!



一代       しかしボロボは無敵の巨人!



オペレーター   電磁シールドに電磁砲が当たった瞬間!



那須野博士    すごいっ! 受け流したのか・・・っ。



オペレーター   敵までの距離はあと1歩!



鋼子       これでおしまい!



オペレーター   戦いが終わる。



一代       明日は明日の戦いがあるかもしれないが、



那須野博士    今日という一日を守る戦いが終わる。



   爆発音。



【17】





鋼子       ・・・・・・終わったね。

ボロボ      お疲れ。

鋼子       ねえ、ボロボ。

ボロボ      何?

鋼子       お疲れ。

ボロボ      ああ、うん。穴空いちゃった。

鋼子       大丈夫?

ボロボ      まあ、なんとか?

鋼子       ・・・

ボロボ      ・・・

鋼子       ・・・ありがと。

ボロボ      ・・・・・・。

鋼子       私ね、・・・・・もうちょっとここで頑張ってみるよ。

ボロボ      うん。

鋼子       それからね、大学行ってみるよ。

ボロボ      そうなの?

鋼子       うん。私の幸せ見つけに。・・・その時は、ボロボとも・・・

ボロボ      うん。お別れだ。

鋼子       ・・・うん。でも、連絡取るからね。

ボロボ      うん。待ってる。

鋼子       また、いつかこんな瞬間が来るのかな?

ボロボ      きっと。

鋼子       どうしよう、

ボロボ      え?

鋼子       世界ってこんなに広かったっけ?

ボロボ      うん。



(音声)那須野博士    鋼子さん、無事か・・・?

(音声)一代       こっこちゃん!



鋼子       あ、はい。おかげさまで。

ボロボ      でも、俺はちょっともう動けそうにない。



(音声)一代       おつかれー。

(音声)那須野博士    そうか・・・ふたりともよく頑張ってくれた。回収班を向かわせるから、すまないがもうしばらく待っていてくれ。岸さん、手配をたの・・・(ぷつん)





鋼子       あー、疲れた。

ボロボ      うん。

鋼子       寝ていいかな?

ボロボ      こんなとこで寝ると風邪引くぞ。

鋼子       いいよ、たまには。

ボロボ      そう・・・。じゃあ、おやすみ。





【18】

エピローグ



那須野博士    以上が、矢吹鋼子とボロボの戦いの記録です。彼女の果たした役割は大きいですが、ボロボ3号機は、すでに限界を迎えておりましたので、ボロボ4号機の建造とともに、新型の電磁ロボットの開発に努めております。彼女にも基地に残ってもらうように話をしたのですが、結局どこかの街でひとり暮らしをしているそうです。それ以上のことは、私にも分かりかねます。・・・以上で、報告を終わります。



暗転。これにて閉幕。









あとがき



私がこの「ボロボ」に出会ったのは、二〇〇九年の春でした。

突然でした。出会いとともに一瞬で私の中に入り込んで、私を虜にしました。

ロボットが、動くんですよ! 正義のために戦うんですよ!

数々のロボットアニメをテレビにかじりつく様にして見ていたあの頃の少年は、すっかり大人になりました。

しかし、ロボットが好きなことはいくつになっても変わらない。

この物語は、すべてのロボットが好きな皆さんに送りたい。

是非とも大人の方にみて欲しい。

あなたの心に今も火は灯っていますか?

僕の考えたロボットは、こんなにもカッコイイのだ。

このお話は、・・・・・・いいえ。野暮なことは言いません。

ただ、楽しんでもらえればいいのです。



あえて聞きます。



「ロボットは、好きですか?」