2つめの魔法

作・なかまくら

2021.12.25

 
 私の魔法はみんなとは少し違う。

 杖ととんがり帽子が必要だし、女の子だったらスカートもできればひらひらしてないといけない。目を閉じて、心を澄ますと体内に満ち満ちた魔法が噎(む)せ返るような奔流となって、鼻の奥がツンとする。少し涙目になるけれど、それは我慢。

「火の源氏たちよ、盟約に従い、その力を顕現せよ!」
 決められた言葉が宙に浮かび上がり、複雑な幾何学模様と幾重にも魔法文字を配置された魔方陣を描き上げていく。それは、魔法学校の入り口を守る大魔導士の像のような精巧さで空間に彫り上げられていく。
 それが完成すると、魔法陣が一層強く輝いて、思い描いた空想を現実にすべく、魔法が発動する。燃えさかる炎が姿を現し、魔法によって、球体に纏め上げられていく。ときには赤く、ときには青白く揺らめく火球のその熱がチリチリと私の肌を炙っている。
 満を持したと感じたら、最後の仕上げに呪文を叫ぶ。

「ファイア!」

 その言葉とともに、火球は獲物を見つけた獣のように獰猛さを得て、飛び出す。狙いをそらそうと、走り出している少年に向かって。少年は、走りながら冷静に腰に手を伸ばす。

「アオはいつだってやり過ぎる・・・。冷凍壁!」

 一言、愚痴に続いて呟いた短い言葉によって、見事な氷の壁が立ち上がる。

「そんな壁、焼き尽くしてくれるわ!」

 私は、杖を振って叫ぶが、意味は無い。放たれた魔法に何かを付け加えることはできないから、これはただの気分の問題だ。氷の壁は火球に炙られてみるみる薄くなっていく。

「あーもう! これ、高いんだからな!」

 少年が文句とともに再び腰に手を伸ばす。帯状テープを手に取り、両手でペリペリとめくる。それは幼子がボタンの服を着られるまで重宝するそれに、よく似ていた。複雑に編み込まれた接合面がその構造に応じて、驚くほど繊細な旋律を奏でて剥がれる。すると、たちまち魔方陣が宙に描かれていく。

「青海波!」

 魔法が効果を発揮し、周囲が波に覆い尽くされていく。火球に触れたところから次々と蒸発し、水蒸気があたりを埋め尽くしていく。少年は蒸気の向こうに消えて見えない。直径20メートルばかりの円形の訓練場は、間を詰めようと思えば、ほんの数秒しかかからない。
 私はすでに次の魔法を考えていた。火、風、水、土の四つの源氏をうまく使い分けることがポイントだ。この水蒸気を生かすには・・・。

「火の源氏たちよ、熱を奪い、凍てつく刃となって・・・うわっ!?」

 詠唱の途中で、土の中に飲み込まれる。

「そこまでっ!!」
制止の合図が入り、訓練の終わりが告げられた。



 「まーた、威力が上がってるよなぁ・・・。ほい、あったかいの。」
 今日の訓練相手だった少年キユが、コップを差し出していた。
「どーも。今日のあれ、なに? 新製品?」
「そう、青海波っていう水の魔法のマジックテープなんだよね。」
「3つめは?」
「あれは、液状化のマジックテープ。」
「マジックテープねぇ・・・。」
「使えば良いのに。便利だよ?」
「便利だよね。わかるわかる。でもね、お母さんが嫌いって言うの。」

 人の編み出した魔法科学の研究は、真理の研究と意識の研究に分かれた。そして意識の研究から生み出され、製品化されたものがマジックテープだ。市販化された魔法具として、それは多くの人が利用するものとなっていた。

「アオの魔法はさ、由緒正しくて、だから高い威力を込めることができるし、魔法の性質も変えられるし、悪いことじゃないと思う。思うよ。尊敬もしてる。だけど、なんというか・・・。」
「古い! 古すぎる! そんな時間がかかっちゃ、実用性がない! 魔物には通用しない!」
 私は拳を握り、演説・・・の真似事をする。
「・・・でしょ?」
「実技試験の成績も。」
「今日は勝っておきたかったなあ。加減してよ。」
「そういうのは、主義に反する。」
「主義って何よ。」
「友人との付き合い方の、それかな。」
「さいですか。一応言っとく。ありがとう。」
「どういたしまして。」
「どうして模擬戦のスコアがAじゃないといけないんだ・・・。」
「それは、魔物と戦うために必要ですから。痛いのは嫌でしょ。」
「・・・嫌ですね。魔物、素早いし。でも、私は、この魔法で何とかしたい・・・。」
「分かっているなら、なおさら分からないよ・・・。」
 本当に心配してくれているキユの感情が伝わってきて、ふと私は少し申し訳ない気持ちになる。そこで、今の私の本当のところに少しだけ光を当ててみようと思った。

「分かっているから、かもしれない。ううん。分かっていないからなのかもしれない。」
「ええっと、伝えようとしてくれてありがとう。」

 キユがそう言って笑うので、私も、笑うことにした。

「あのさ。みんなが使っているのは、魔法じゃない・・・のかもよ?」
「え?」
 キユはそう言いながらも、何か、知っているような顔をした。

「それは、過去に魔法が発現した条件を擬(なぞら)えているだけ。だから、源氏たちも、力を貸してくれているわけではないわ。発動しようとする魔法の引力に巻き込まれているだけ。私はそんな魔法は嫌なのよ。だって、魔法は人と源氏が協力して起こす奇跡なんだから。」
「そんな・・・そんなことって・・・?」
 キユの動揺をひととき眺めて、
「そうだったらいいなって話。これが短編小説じゃなかったら、この後大変なことが起こって、私以外の力が封印とかされちゃって、もうとにかく大変なんだからね!」

「・・・そんなことってある?」
「もしものはなし!」
「もしもかあ・・・。」

「でもさ。どうしてそうなるのか理由が分からないことは、そうならなくなっても理由が分からないでしょ?」
「それは困るなぁ。」
 真剣に困り出すキユ。私と私の一族の抜け出せない憂鬱を真面目に聞いてくれる人。だから、好きな人。キユはしばらく唸って、それからこう言った。

「・・・ねえ、ぼくにも、できそうな魔法ってある?」

 それから、私とキユは、それぞれいくつかの魔法を使えるようになって、源氏を巡る星の運命をかけた戦いに巻き込まれていくのだけれども、それはまた別のお話で。


(執筆:2021年12月25日)




〜あとがき〜
ディズニーが魔法なら、こっちだって魔法だぜ!